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『最弱不遇職の詩人と歌姫』〜効率至上主義の世界で見捨てられた僕らが、世界の理を書き換えるまで〜    作者: muo


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第17話:勇者と吟遊詩人



地下迷宮〈バシリカ・シスタン〉入り口。





「トラウマなんですけど……」



賢者ミアが身震いし、シーマも仮面の奥で顔を強張らせている。



勇者カインだけが、真っ直ぐに僕を見つめていた。



「タナカが大丈夫って言うなら、俺は信じる」



「……光栄です。カインにはこの世界の『聖剣』を一応、



確保してもらいます。ただ、他のみなさんには――」



僕は隣に立つ相棒へ合図を送る。



魔王戦の前に、



僕らのチートの「出力」に慣れてもらわないとね。



「クック、例のアレを」



「お兄ちゃん、任せてー!」



クックが天を仰ぎ、歌を紡ぎ出す。



『聖なる剣讃歌――語り継がれる伝説』



一つ。理想郷を求めた、悲しき王の剣。



二つ。メデューサを滅した、半神の剣。



三つ。正義と裁きの二股、預言者の剣。



――カッ!!!



目も眩む光と共に、三本の「神話級」の武器が姿を現した。



カインへ、グラハスへ、そしてシーマへ。



三人は、手の中に宿る圧倒的な神気に言葉を失う。



「……ちょっと! 私のはないの!?」



一人だけ置いてけぼりのミアが半泣きで突っ込むのを無視して、



僕は『千夜一夜物語』を紡ぐ。



魔法の絨毯(じゅーくん)と、ランプの精(ミラ)を召喚。



ダンジョンを爆走する僕らを、



勇者チームが必死に追いかけてくる。



この隙に、こっそりとランプの精に呼びかけた。



(「ミラ、



今から一定期間ミアの魔導士としての格を上げてやってくれ」)



(「はいはーい。ご主人様、ついでにオマケもしといたよ♪」)



茶目っ気たっぷりにウインクして、ミラが消える。



現れる無数の魔物を蹴散らし、



辿り着いたのは因縁の最深部――。



襲いくるゴーストの大群に対し、



シーマが恐る恐る「二股の剣」を一振りした。



ズバアアアアッ!!!



「え……?」



空間ごと切り裂くような衝撃波。



一撃で50体を超える魔物が、



消滅すら許されず虚空へ消え去った。



「これは……ダメだ。常識が壊れている」



シーマが呆然と呟く。



「だから言ったじゃないですかー。



私たち、神様にだって負けませんよ?」



クックが満面の笑顔で胸を張る。



階下では、



勇者たちも自分の得た規格外の力に振り回されていた。



「これは……聖剣以上の、聖剣だ……」



伝説の剣聖グラハスが、



その神々しい輝きに震えている。



「これなら……これなら魔王にだって勝てる!」



カインは少年のような純粋な笑顔で叫んだ。



「私は結局、何もないのねー!



火焔嵐(ファイアストーム)!!」



半泣きでミアが放った、



なんてことない中級魔法。



だが――。



――ドォォォォォォンッ!!!



「え、威力がとんでもなく上がってる……!?」



ただの中級魔法が、



広間を焼き尽くす極大消滅魔法へと変貌していた。



絶大な威力に「書き換えられた」魔法を次々と叩き込み、



戦場を焦土に変えていく。



そして――。



ピタリと、魔物たちの動きが止まった。



肌を刺すような冷気が立ち込め、空気が一変する。



「来るわよ……!」



ミアの鋭い声が響く。



因縁の蟲たちが蠢く大空洞。



奥には光り輝く扉が見える。



カインが滲み出た汗を拭った。



「みんな、リベンジマッチだ! 俺たちはいける!!」



カインの鼓舞に応じるように、



300を超える蟲が溢れ出す。



だが、それらはバラバラに襲いかかるのではなく、



おぞましい音を立てて互いを貪り、絡み合い始めた。



数秒と経たず、何十体もの蟲が合体し――



一つの巨大な多足の化け物へと変貌する。



「ギィィイイイッ!!!」



空間を震わせる咆哮。



前回の絶望を象徴するその姿に、



シーマとミアが息を呑み、一瞬だけ身体を硬直させた。



だが――。



「ふんっ!」



短く鋭い呼気と共に、



剣聖グラハスが閃光のごとく駆け抜けた。



――斬ッ!!!



目にも留まらぬ速さで放たれた神速の一撃。



新しく授けられた聖剣の輝きが尾を引き、



巨大な蟲の胴体を真っ二つに両断する。



「……何ッ!?」



ミアが驚愕の声を上げる。



以前なら、



総攻撃を仕掛けても傷一つ負わせられなかった強固な外殻が、



まるで紙のように切り裂かれていた。



グラハスがさらに加速し、



迷宮の闇を切り裂く。



シュパパパパッ!!



一瞬で200匹あまりの蟲が細切れになり、



塵となって消滅した。



だが、この迷宮の悪意は底知れない。



倒された個体を糧にするかのように、



背後の闇から次々と新たな影が這い出してくる。



600……1000……!



「させるかっ!!」



カインが咆哮し、



雷光を纏った剣を真っ向から振り下ろした。



ドォォォォォォン!!!



極太の雷光が迷宮の底を真っ白に染め上げる。



衝撃波だけで400匹を焼き払った。



それでも、暗闇に光る無数の眼は減る気配がない。



「だったら、これならどう!? 」



「アルティマ(ワールドエンド)!!」



ミアが魔力を爆発させ、



漆黒の極小球体を放つ。



それは触れたもの全てを無に帰す絶大な魔法。



100匹、200匹と虚空に飲み込まれていくが――。



「……っ、増殖速度が異常よ!」



消された端から、



壁や天井の隙間を埋め尽くすように新たな蟲が溢れ出す。



キリがない。



まるで世界そのものが、



彼らを食い殺そうとしているかのようだ。



「……キリがないな」



肩で息をするカイン。



だが、その瞳に宿る「希望」の光だけは、



より一層強く輝きを増していた。



「全員で同時に叩き込むぞ!」



勇者の号令に、グラハスとミアが呼応する。



ボロボロになりながらも立ち上がる彼らの姿は、



まさに物語のクライマックスそのものだった。



一方、上空。



僕らは魔法の絨毯(じゅーくん)の上から、



その様子を高みの見物と決め込んでいた。



「……いいパーティだな」



僕はどこか遠い目をして想いに浸る。



隣で必死に迫りくる蟲を処理していたシーマが、



半泣きでこちらを睨んできた。



「タナカ! 見るだけで鳥肌が立っているんだ!



早く殲滅してくれ! お前たちなら……お前たちなら一瞬だろう!?」



「あ、きゃーっ! 来るな、寄るな!!」



叫びながらも、彼女が振るう二股の聖剣は、



すでに300匹以上の蟲を塵に帰している。



……十分すぎるほど戦力になっているのだが、



やはりトラウマの壁は高いらしい。



クックに至っては、



もはやシーマの悲鳴など聞こえていないかのように、



下界の勇者たちの戦績を淡々とデータ化していた。



「勇者チームはレベルアップしています」



「レベルの概念は無くても実戦で強くなる。



そこは『現実』と同じってことか」



「ミアにも神杖でも渡せば良かったですか?」



クックは意地悪な笑顔で言う。



「いや、これぐらいで良さそうだけど。



僕らはただ、この『クソゲー』のバランス調整をしただけだ」



最強の素体である彼らに、理不尽に抗える武器を与えればどうなるか。



その結果は、目の前の光景が証明していた。



だが、敵の数も尋常ではない。



四方八方から押し寄せる蟲の波に、



勇者たちの守りが一瞬揺らぐ。



「やらせない!」



僕は即座に『アイギスの詩』を紡ぎ出した。



旋律が空気を震わせ、



黄金の光となって勇者たちの元へ降り注ぐ。



彼らを包み込んだのは、



あらゆる厄災を撥ね退ける神の盾



――全方位絶対防御。



「力が……溢れてくる……!!」

カインが聖剣を天に掲げた。



黄金の光と雷光が混ざり合い、洞窟全体が悲鳴を上げる。



「いくぞぉ!! スターライトストーム!!!」



カインの掛け声と共に、



勇者チーム全員の魔力が一点に収束し、



爆発した。



――ドゴォォォォォォンッ!!!



迷宮が崩落するかと思うほどの凄まじい轟音。



世界を真っ白に染め上げる。



圧倒的な純粋エネルギーの奔流。



「神の盾」に守られた勇者たちが、



反動すら恐れずに放った全力の合体奥義。



眩い光が、ゆっくりと収まった後。



そこには、



無尽蔵にいた蟲の姿は微塵も残っていなかった。



静寂の中、肩で息をしながら、



満足げに拳を突き上げるカインたち。



その光景は――。



「……やっぱり、カッコいいな。勇者って」



僕の呟きに、



クックもまた、優しく微笑んでいた。

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