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『最弱不遇職の詩人と歌姫』〜効率至上主義の世界で見捨てられた僕らが、世界の理を書き換えるまで〜    作者: muo


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第16話:トプカプ宮殿と決意



次の日の朝。



宿屋の前にはある人物が現れていた。



それは勇者カインだった。



〈トプカプ宮殿〉への道中。



勇者カインは従者も連れず、



自ら僕らの道案内を務めていた。



金色の甲冑に真紅のマントを翻し、腰には剣。



「おはよう。迎えに来たよ! さあ、共に行こう」



嬉しそうに歩き出すその姿は、



あまりにも「勇者」そのもので――。



「一人だけ浮いてておもしろーい!」



妹モードのクックが、冷静に毒を吐く。



僕は隣を歩くシーマに声をかけた。



「シーマ、大丈夫? やっぱりやめとく?」



強張った指先で仮面に触れ、彼女は絞り出すように答えた。



「大丈夫だ。私も……向き合わねばならない」



帝国への戦争、そして属国となった故郷。



元王女である彼女にとって、ここは所縁の地だ。



「シーマの素性はバレないよう、徹底しよう」



「……うん」



震えながらも、可愛らしく頷く彼女。



僕は気を紛らわせるように、キメ顔で告げた。



「万が一の時は、世界ごと敵に回してでも守るさ」



「そんな……私のために……」



仮面越しでも伝わる、彼女の歓喜。



だが、



その背後に「それ以上はやめておけ」という無言の圧力が迫る。



「お兄ちゃん? またですか?



――その前に私が二人を消滅させちゃいますねっ」



「冗談に聞こえないからやめてよ、相棒!」



「もうすぐ着くぞ」



放置されていたカインが声を上げる。



視界に飛び込んできたのは、



広大な〈トプカプ宮殿〉。



石の要塞のような圧迫感はない。



低く広がる建物、



庭園と一体化した緩やかな屋根、白壁と木の温もり。



「すごいな……」



思わず感嘆が漏れる。



だが、いくつもの門をくぐるたびに、



「ここにいていい人間か」を試されているような静かな威圧感に包まれる。



「超大国の威厳を形にした場所、ですね」



クックの言葉に、僕も襟を正した。



「こちらに『立法帝』がおられる」



カインが重厚な扉の前に立った。



「……名前は、違う名前のようです」



クックは何でも知っている。



その渾名は歴史で聞いたことがあるが、



この世界では微妙に名称が調整されているらしい。



――バタンッ!!



扉が開かれる。



両脇に並ぶ騎士たちが一斉に剣を掲げ、



僕らが歩くための道を作る。



そこは、先ほどまでの情緒ある雰囲気とは一変した、



黄金に輝く帝国の間。



(……違和感だ。ここだけ中東色が消えている)



『勇者カインとその仲間、入局!』



ファンファーレが鳴り響く。



「クック、立ち振る舞いの礼儀作法なんて知らないんだけど」



「私の真似をしてください」



クックは淀みのない、完璧な動作で歩き出す。



さすがだ。



やっぱり君がいないと僕は生きていけない。



横を見ると、シーマもまた冒険者の服でありながら、



上流階級を感じさせる気品を漂わせていた。



最奥の玉座から、重厚な声が響く。



「面(おもて)を上げい」



ドロイド一世。



〈この世界〉における帝国の頂点、



その男がそこにいた。



「はっ。私、吟遊詩人のタナカ。歌姫クック、剣士シーマ。



皇帝の御前に参上いたしました」



僕はクックに仕込まれた台詞を必死に思い出しながら続ける。



「我らが剣士シーマは、



戦闘による呪いのため仮面を外せぬ御無礼、



どうかお許し願いたく――」



「うむ、ご苦労。我が帝国において、



その仮面を咎める者は一人としておらぬよう申し付けよう。



許可する」



(よし、器が広くて助かった!)



「ありがとうございます。



世界の危機に対し、微力ながら勇者カインを支え、



魔王討伐に尽力いたします」



「励むが良い。――メフメト、メフリマス」



皇帝が名を呼ぶと、



二人の男女が僕らの前へと歩み寄ってきた。



「何かご所望があれば、何なりと言い付けてくださいな」



柔らかな笑みを浮かべて話しかけてくる二人。



なんと、二人は皇子と皇女だった。



皇子のメフメト、皇女のメフリマス。



その時、メフリマスがシーマの耳元で、



小さな声を落とした。



「……いい名前」



掠れるような、けれど確かなその音。



――その瞬間だった。



隣にいたシーマの肩が、



激しく、痛々しいほどに震え始めた。



仮面の奥、その瞳が捉えているのは――。



静寂を切り裂くような彼女の動揺。



事態は、平穏な謁見だけでは終わりそうになかった。



謁見を終えた僕らは、



そのまま軍司令室へと連行された。



「貴様ら……待っていたぞ」



渋い顔で迎えたのは、剣聖グラハスと賢者ミア。



「皇帝との謁見は大丈夫だった? 粗相したら打ち首よぉ」



クスクスと笑うミアの冗談も、



この面々だとあながち笑えない。



堅物、軟派、そして純白の勇者。



絶妙なバランスのパーティだ。



ゴホン、



とグラハスが咳払いをして空気を引き締める。



「タナカ、約束の〈聖剣〉の件だが



……いつ出発するつもりだ?」



「そうですね。



今から、〈バシリカ・シスタン〉へ行きませんか?」



僕の言葉に、全員が息を呑んだ。



「今からだと……」



グラハスが目をギロリと僕を見つめる。



「ええ……早いに越したことないかと思いまして」



僕は気にせず、続ける。



「皆さんはまず僕たちの権能を体感して頂き、



魔王戦へ備えていきたいと思ってます」



「そうだな。俺はタナカを信じている。



だからいこう!次こそはあのダンジョンを乗り越えよう」



カインは力強く、手を握る。



勇者パーティに緊張が走る。



けれど、全員が頷き、決意を固める。



――ただひとり、シーマだけは別のことに想いをふけていた。

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