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『最弱不遇職の詩人と歌姫』〜効率至上主義の世界で見捨てられた僕らが、世界の理を書き換えるまで〜    作者: muo


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第11話:仮面と願望



コンスタンティノープルの一角にある宿屋。



窓から差し込む光が、ベッドに横たわる女を照らしていた。



『長い銀髪は枕へと静かに流れ、



白い喉元には穏やかな呼吸だけが小さく影を落としている。



その姿はまるで、滅びた王国の最後の夢を見ているかのようだった。』



僕は思わず、そんな詩を口ずさんでいた。



「私は生きて……いるのか」



シーマが目を覚ました。



ゆっくりと身体を起こし、呆然と呟く。



「目を覚ましたんだ。良かった」



僕が声をかけると、



彼女の鋭くも美しい瞳がこちらを射抜いた。



「お前は……どうやって助けた?



……なぜ助けてくれたんだ?」



シーマは自分の身体を触り、



傷ひとつないことに驚きを隠せない様子だった。



しかし、そのまま指が顔に触れた瞬間、



彼女の表情が凍りついた。



「仮面が……っ!」



焦って周囲を探すシーマ。



「ごめん。壊れていたから外させてもらったんだ。



仮面が必要なら、すぐに新しいのを買ってこようか」



何か深い理由があるのだと思い、僕は席を立とうとした。



だが、その腕をシーマに強く掴まれる。



「ん?」



「いや……まずは言わせてくれ」



彼女はベッドの上で腰を折り、深く、深く頭を下げた。



「ありがとう」



顔を上げた彼女が、微かに微笑む。



その表情を見た瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。



飾らない、素直な言葉が口を突いて出る。



「どういたしまして」



助けて良かった、と心から思えた。



最強の力を手にしても、



心は高ぶるばかりで満たされることはなかった。



けれど今、初めて自分の存在が許されたような気がした。



……その時。



部屋の隅から、ひときわ冷ややかな視線を感じた。



「お兄ちゃん。『寝顔ポエム』のログ、しっかり保存しておきましたからね」



「……あ」



「それよりも、シーマさんも運が良いですね」



「勇者様が、倒れたシーマさんを私たちに預けたんですよー」



さすがはクックだ。



今はこの設定で行くしかない。



早めに勇者本人と会って口裏を合わせなければ。



「そうか。勇者が……」



シーマは胸を掴みながら、消え入りそうな声で囁いた。



「あの時は救ってくれなかったのに……」



「何故、今、私だけ……」



その声は小さく震え、言葉になる前に消えた。



彼女は疲弊しきっているのか、



吸い込まれるように再び眠りについた。



傷はクックが完治させている。



あとは精神の安定を待つだけだ。



その間に、



彼女の仮面の調達と勇者への接触を済ませてしまおう。



「クック。何か理由がありそうだから、先に仮面を買いに行こう。



そのあと聖女に会って、勇者の帰りを待つ」



クックが僕をじっと見つめてくる。



「大変お優しいことで。けれど、女心は難しいのでお気をつけてください」



「シーマは、かなり訳ありそうです」



「お母さんか。元AIのくせに知ったようなことを言う。



……僕が傷付かないように気遣ってくれてるのは、クックの方だろ」



「大丈夫だよ。下心じゃない。感謝されるのが嬉しいって、



思い出させてくれたお返しみたいなものさ」



僕の目は、しっかりと「今」を見据えていた。



それを感じたのか、クックは嬉しそうに微笑んだ。



「もし振られても私がいます。



ありがたいことにあと数年経てば、客観的に見ても『傾国』レベルの美女になります」



確かに、



この美少女がいずれ絶世の美女になるのは疑いようがない。



「……そりゃ心強い。じゃあ、まずは仮面だ」



僕らは眠るシーマを残し、



再び帝都の喧騒の中心部、バザールへと向かった。



選んだのは一軒の武器屋。



だが、そこは周囲から浮きまくっていた。



黒塗りのコンクリート、電子端末、溢れかえる液晶画面。



芸術品のような大剣だけが一本、中央に飾られている。



「いらっしゃい」



奥から現れたのは、



スキンヘッドに髭面のハードボイルドな男。



どこの街、どの世界層に行ってもこの店主だ。



まさに『ノクターン』の世界そのものといった店構えである。



「どうも。仮面ってあるかな?」



店主がコンソールを操作すると、



目の前に立体映像が浮かび上がった。



• 魔眼の仮面


• 拒絶の仮面


• 真実の仮面


• 神秘の仮面


• 芸者の仮面


• ????の仮面



「……物騒なものが多いな」



試しにひとつ、詳細ボタンを押してみる。


【魔眼の仮面】


効果:一定期間、相手を操れる


(条件:魔法系統職限定。戦闘使用不可。対象は下位存在に限る。自殺強要などの身体影響は不可)


「戦闘以外で使う方が物騒だろ、これ」


結局、消去法で選んだのはこれだった。


【ただの仮面】


効果:隠蔽強化。ステータス微増


(条件:特になし)



文字通り一択だった。



だが、どうしても文字化けしている



「????の仮面」が気にかかる。



クックは「変なものは買わないに限ります」と呆れていたが、



僕の直感が「買え」と告げていた。



結局、「ただの仮面」を黒色に調整したものと、



その「文字化けした仮面」の二つを購入。



後者は真紅で、どこか悲しい色をしていた。



なぜか、ただの仮面の方が高価だったのが解せないが……。



店主の「ありがとうよ」という決め台詞を背に、店を出る。



「クック、この世界の戦闘力(レベル)ってどうだろう?」



タイド・シェイドの動きや、シーマの装備を思い出しながら尋ねる。



「確認した範囲では、この世界の住人の平均レベルは15程度。



A級冒険者でも25です。装備の質も格段に下ですね」



やっぱりか。



すべてが「低すぎる」と思っていた。



『ノクターン』では、1年目の地道なプレイのおかげで僕はレベル32あった。



攻略組なら平均80台はあったはずだ。



「こうやって地道に違いを調べていくしかないな。



シーマに『ただの仮面』が装備できるかも気になるし」



クックが静かに頷く。



「これでこの世界の住人に『ノクターン』の装備が使えると分かれば、



またタナカなら色々と『チート』ができますね」



「昔から抜け道を探し出すことだけが、僕の特技だからね」



宿に一度寄り、眠っているシーマの枕元に仮面を置いてから、



僕たちは教会へと向かった。



ステンドグラスに彩られた部屋。



「タナカ様、クック様。ごきげんよう。



あなた達が来る予感がしていました」



神々しい笑顔で迎えてくれたのは、



聖女ティアだった。




「さすが聖女様ですね。恐れ入りました」



僕が返すと、彼女は少し照れたように笑った。



「実は……一度言ってみたかっただけです」



案外お茶目な人だ。



「ですが、勇者様が本日帝都に戻られるのは事実です。



ちょうど、お呼びしようと使者を出したところでした」



ついに勇者が帰ってくる。



ダンジョンで鉢合わせなかったのは幸いだが、少し緊張する。



「まもなく、教会へ癒やしを受けに来られるはずです。



大変過酷な試練を終えられたと聞いておりますから」



その時、慌てた様子のシスターが部屋に飛び込んできた。



「聖女様! 大変です! あ……申し訳ありません、来客中でしたか」



「構いません、どうしたのですか?」



シスターは顔を青くして叫んだ。



「勇者様が……危篤です!!」



「ええ!?」



思わず、大きな声が出てしまった。



勇者とは何度も立ち上がり、世界を救う。



そして死ぬことなんてない。



そんな存在。



一生、全世界の男の憧れだ。



覆さないでくれ。



そう思ってしまった。

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