入国
見上げる程巨大な門。
その門には、細かな装飾や彩飾は一切施されておらず、冒険者特有のがさつさや力強さを表現しているとも言えた。
どこか[火]の使徒の巨体を彷彿とさせるその巨大な門の前に、シンは立ち尽くしている。
ここまで来れば、後は衛兵による検問を受けて入国するだけなのだが……
「…どうしよう。誰も居ないし門も完全に閉まっちゃってる…」
門の周りには人一人居らず、試しに気配感知を発動してみるも、反応は感じられなかった。
門の向こう側にも気配感知を向けてみると、人の気配が感じられ、それらは一様に国の中心部へと集中していた。
まるで、何かから逃げるように。
何かが襲ってきた時に、最も初めに破壊される門からなるべく離れるように。
――何か、あったのだろうか…?
と、その時後方から、聞き覚えのある人々の喧騒が聞こえてきた。
「――あれは…」
そうだ。俺の魔物死体を奪っていった冒険者の集団だ。
あの無念。忘れることはないだろう。
…じゃなくて。あいつら、俺よりも早くここに向かっていた筈だが…
「ちょっとあんた!そっち持ちなさいよ!」
「無理だ!この爪に触れただけで指を一本無くした奴が居るんだぞ!」
「馬も死体に怯えて暴れちゃうしね…」
――ああ、運ぶのに苦労してたから俺よりも遅かったのか…
集団から聞こえてきた言葉から、シンはそう分析した。
あの巨体だ。馬が使えないのならば少し運ぶだけでも相当キツイだろう。
――取り敢えず…隠れるか…
そして、シンは気配を遮断し、近くの木々の影に隠れる。
「はぁ~っ!やっと着いたわねぇ!」
「ああ…もうへとへとだぜ…」
「これで家に帰れるよ~」
人々は門の前に魔物の死体を降ろし、立ち止まった。
これで、どうやって門の中に入ろうと言うのだろうか?
そう考えていると、魔法使い風の女性が、おもむろに筒状の何かを懐から取り出した。
そして、それを口に添えて、一気に息を吹いた。
――ピュイーーーー!!
甲高い音が、辺りに響き渡る。
女性が懐から取り出した物は、笛のようだった。
そして、その笛の音から一拍置いて――
「「「うおおおおお!!」」」
門の中から、喜びの滲み出る、大きな叫び声が聞こえてきた。
恐らく、さっきの笛はあの魔物の討伐成功を報せるためのものだったのだろう。
これ程厳重な警戒体制を取っていることから、あの魔物がどれほど危険だったのかが伺うことが出来る。
ほとんど結界で自滅した憐れな熊だったけど……
その時、ギギギギギ!と、音を立てて、目の前の巨大な門が開き始めた。
「冒険者一行の帰還だ!」
門の中から出てきたのは、シルバーの鎧を着た騎士風の男達。
言葉を発したのは、先頭の一回り身長の高い騎士の男だ。
「…っ!まさか、その死体は…!」
そして、その騎士風の男が冒険者一行が抱えている"モノ"を見て、驚愕をあらわにする。
「ええ。こいつが、あの占術師の言っていた魔物です」
「――そう、ですか…」
その言葉を聞き、騎士風の男は涙を流した。
「…ありがとう…!国を救ってくれて…感謝する…っ!」
国を脅かす魔物の討伐成功に、騎士風の男も思うところはあるのだろう。
男も、国を守るために自分から魔物へと向かっていきたかっただろう。
何らかの理由で、国内に留まらざるを得なかったのだろう。
俺もその気持ちは分かる。
俺も、出来るならばミーリアを救いたかった。
だがそれは叶わなかった。
"国を守る"という目的が果たせた以上、雑念は消えていくはずだ。
――それから一言二言言葉を交わし、冒険者一行と騎士風の男達は、国の中へと入って行った。
しばらくして、国の中から大勢の人々の拍手喝采が轟く。
大方、国の危機を救った冒険者一行が褒め称えられているのだろう。英雄さんの誕生だ。
そこで、シンはあることに気付く。
――あれ…門が開いているな…
騎士風の男達と冒険者一行が入った際、門を完全に閉めきっておらず、隙間が開いていたようだ。
今なら、中に入ってもバレないのではないか?
ただでさえ国内は英雄の誕生により、大盛り上がりだ。
この際、些事などは気にならないだろう。
「…行くか」
そう呟いて、シンはその隙間に体を滑り込ませた。
門の内側に入った瞬間、突如前方から突風が吹いてきたと錯覚した。
突風の正体は、国民達の"声"。
声が突風を伴うほど、国民達の盛り上がりようは凄まじかった。
門から、城に向かって真っ直ぐに国民達の形成した道が続いており、冒険者一行はそこを堂々と歩いている。
「おう、お嬢ちゃん!英雄様の御帰還だぜ!もっと声上げな!」
目の前の光景に圧倒されていると、不意に横から声が掛けられた。
…不覚。動揺して気配感知を切らしていたようだ。
「そうよ!皆で叫びましょう!」
「ありがとおおお!冒険者さああああん!」
「うおおおおお!!」
あれ?何だこの気持ち?何だかこの人達を見てたら……
「…う、うおおお…」
「まだまだぁ!もっとだお嬢ちゃん!」
妙に感情が高ぶってくる。
なんというか、内側から込み上げてくるような、無性に叫びたくなるような――
「うおおおおお!!」
気が付いたら、自然と声が出ていた。
脳を駆け巡る快感。
それは爽やかで、スッキリとした快感だった。
「おお!その意気だぜお嬢ちゃん!」
そして、俺は心行くまで叫び続けた――




