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Apostles12~罪を背負いし少年の復讐譚~  作者: 尖閣諸島諸島警備隊第6小隊隊長代理
二章 "怒り滅ぼす龍"編
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初めての遭遇


しばらく山を駆け降りてくると、冒険者の国リンドルムの姿が大きく見えてきた。

立ち止まって、シンは目の前の光景を仰ぎ見る。


「ほお~…近くから見たら予想以上に立派な国だなあ」


国を円形に囲む巨大な壁の外からでも国内に建っている建物ははっきりと見え、数々の高い建物が天に向かって伸びているのは壮観だった。


「俺の居た村とは大違いだな…」


そう呟き、シンは歩みを進めていく。


「魔物にも早く会いたいな…楽しみだ」


その時、後方から放たれた獣のような咆哮が、シンの耳をつんざいた。


――な、何だ…っ!?


【凶獣種の魔物であると推測されます。咆哮の波形から種を検索……完了しました――】


振り返ったシンの目に映ったのは、シンの背丈の三倍は大きい、胸に三日月形の模様がある熊と虎のハーフのような魔物。


【――種族名"ムーングリズリー"の変異種。"月ノ捕食者"と推定。脅威度はA+。本来国家戦力集結を以て撃滅する、災害級モンスター】


――…はて?聞き間違いだろうか?今"国家戦力集結"とか"災害級"とか聞こえたんだが…気のせいだよね。そうですよねバラムさん?そうですよね?そうだと言ってくださいいいい!!


「ヤバいヤバいヤバい!あいつ絶対ヤバい魔物だ!逃げなきゃ!」


だが、足はまるで地面に縫い付けられたかのように動かない。

蛇に睨まれた蛙とはこういう状態なのか、と呑気に考えていると既に目と鼻の先にまで魔物が迫ってきていた。


――ああ、短い人生だったな…ミーリアはもっと短かったけど…。今、そっちへ行くよ…


魔物の巨大な腕が降り下ろされた。


「ガギィンッ!」


その瞬間、背筋がぞわっとするような不快な金属音が発生する。


「グオオオオオオオ!!」


そして、一拍遅れて魔物の叫び声が聞こえてきた。


恐る恐る、シンは顔を上げると、魔物の千切れた腕が目の前に転がっていた。


「…あ、結界あったの忘れてた…」


【………】


――あ!今バラムさん呆れてただろ!違うからな!相手の油断を誘うためであって今のはただの――


【限定結界を発動。消費エネルギーは103】


バラムはシンの言葉を遮って報告を行った。


――まだ言い切ってなかったのに…しかし、103か…。GPS爆弾とは桁外れだな…


「グオオオオオオオ!!」


魔物が再び咆哮を上げ、千切れていない方の腕を降り下ろしてきた。


だが、例によって結界に阻まれ、デジャヴのように魔物の腕が千切れ飛んだ。


「グギャオオオオオオ!!」


悲痛げに熊の魔物は叫び声を上げる。

その光景は端から見ても憐れに思えた。


――…ねえバラムさん。こいつどうしたらいい?


【月ノ捕食者の換金例は前例が存在しないため、解答しかねます。通常月ノ捕食者の撃滅には、大規模殲滅兵器が同時に使用されるため、跡形も残らず消しとんでしまうのがその理由です。売却という手は取れませんが、放置しておくと生態系を乱す原因に成り得るため、早急な駆除を進言します】


なるほど…。

お金にはならないけど、何かの素材に使えるかもしれないな。

となると、保管する方法を考えなきゃいけないが…


【月ノ捕食者の胃袋は、万物を飲み込み収納するという伝説があります。また、百年前に現れた月ノ捕食者は、胃袋に飲み込んでおいた聖剣をくわえて戦ったという記録も残っています】


じゃあ、あいつを倒して胃袋だけ取ればいいってことだな!


「そうと決まれば、とっとと終わらせるか」


そう言って、シンは右手に氷の剣を創造し、一気に踏み込んで魔物の首を断ち切った。


月ノ捕食者は、鋼鉄の数百倍の硬度を誇るその皮膚で、斬撃などは一切通さないため大規模殲滅兵器が使用されるのだが、シンの氷剣はその首を何の抵抗も無く断ち切ってしまったのだ。


首の切断面から遅れて鮮血が吹き出し、その場を紅に染め上げる。

月ノ捕食者は、断末魔を上げる暇すら無く、一瞬の内にその命を刈り取られた。


【月ノ捕食者の絶命を確認しました】


よし。意外と呆気なかったが、難なく倒すことが出来たようだ。


――次は素材の回収を…


と、シンが月ノ捕食者の死体に歩み寄ろうとしたとき、


「あそこだ!あそこから強大な魔力を感じたぞ!」


「本当に居るのか…占術師の言った通りならリンドルムも大変なことに…」


「そうならないために俺達が来たんだろ!国を守るんだ!」


大勢の人々の雄叫びと、馬の蹄が地面を蹴る音がこちらへ迫ってきていた。


――マズイマズイマズイ!今見られてしまったら大変なことになる!リンドルムへの入国にも影響が出るかもしれない!つまり、隠れる!!


一瞬の内にそう結論付けたシンは、前方の空中を蹴りつけ、その場から急速に離れて、樹の影に隠れることに成功した。


――…誰だろう…?


そう思っていると、一際声が大きく聞こえてくるようになった。


月ノ捕食者の死体のある場所へ、人々が辿り着いたようだ。


「…何だ!?こんな魔物は見たことがないぞ!?」


「…占術師の言っていた魔物の外見と一致する…こいつはまさか…」


「もう倒されてるじゃねえか!そんなにビビる必要無かったじゃねえかよ!」


口々に、人々が大声で話す。


「少し静かにして!こいつを倒した奴が近くに居たら危険よ!こいつよりもっと強いんだから!」


その時、騒ぐ人々を制して一人の女性が一人前に出た。

外見からして…魔法使いだろうか…?


「"気配感知"!」


そう言って、女性は魔法を発動させる。


――ってやば!今気配感知使われたらバレる!


【告。"気配感知"の発動を確認しました。主の意思から判断し、自動的に"気配遮断"が発動されました】


「…うん。周辺に私達意外の気配は無いわ!これで一安心よ!」


魔法使いの女性は一瞬訝しむような表情をしたが、高らかにそう宣言した。


「うおおおおお!」


「やった…これで生きて家族の元へ帰ることが出来る…」


その言葉に、ある者は雄叫びを上げ、ある者は安堵で涙を流している。


――バラムさん!いつもいつもありがとうございます!


樹の影で、同じく安堵している人物が居たが、やって来た集団が気付く由も無かった。


「ところで…この死体どうします?」


「え?あ!」


「ん?今誰か何か言ったか?」


その問いに、人々は不思議そうに首を振る。


――あ、危ない…つい声を出してしまった…


月ノ捕食者の死体の話に動揺してしまい、思わずシンは声を出してしまったようだが、特に怪しむ者は居ないようだった。


ま、まあ、俺が倒したんだから俺の物だよね。流石に持ってかれるなんてことは…


「じゃあ、これ僕達の手柄にしましょうよ!」


「おお!良いなそれ!」


「え!?」


「…何だ?不満でもあるのか?」


その問いに、再び人々は不思議そうに首を振る。


――い、今のは仕方がない。だって俺が倒した奴を持っていこうだなんて言ったんだからな…いや、俺の聞き間違いだろう


「A+の魔物を倒したとなれば報酬は弾むだろうな!」


「おいおい山分けだぞ!?独占はなしだからな!?」


「やった!今日は宴会ねっ!」


――やっぱり持っていっちゃうのね…まあ、いいか…


予想していた通り、死体は持っていかれるようだ。


――魔物の死体なんかより、今はリンドルムへの入国の方が楽しみだ


恐らく冒険者の集団かと思われる集団は、大声で騒ぎながら引き返して行った。


「よしっ、さっきのことは忘れるかっ!」


そう自分に言い聞かせて、シンはここから視認出来る、リンドルムへの入り口と思われる巨大な門に向かって向かって歩き出した。


――…はあ…素材欲しかったな…



やっぱり素材は欲しかったようである……

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