冒険者の国リンドルム
「……ん?」
バラムのナビゲーションに従い、駆け足で走っていたシンは不意に立ち止まる。
――…今…いや、気のせいか…
違和感を感じ振り返ったが、特に何も無く、ただただ荒野が広がっているだけだった。
「それより、バラム。あの機械の解析は出来たか?」
【…告。完了しました】
「では、報告を頼む」
【了】
"あの機械"とは、先程遭遇した組織の連中から押収したものだ。
恐らく、設定した人物の位置を特定する機械だと思われる。
なぜなら、組織の建物から出鱈目に歩き回り、自分でもどこに居るか分からなかった俺の居場所を突き止めるなど、偶然にしては出来すぎている。
俺と同じように追っ手が出鱈目に歩き回り、俺とばったり遭遇する確率など限り無く低い。
そう思い、連中の荷物を見てみたところ、機械が発見されたというわけだ。
【"GPS"と呼ばれる、座標型対象特定装置です。装置の子機を持つ者を設定すると、打ち上げられた衛星が三角測量で対象の座標を特定する仕組みです。主の隊服から、装置と似た微弱な魔力反応が感知されます】
「何。本当か?」
そう言って、俺は衣の下に着た隊服を脱ぐ。
【告。胸ポケット周辺に魔力反応を確認】
バラムの声を聞き、その周辺に指を滑らせていると――
「あ、これかな?」
指に硬い物体が触れ、隊服の内側に手を入れてそれを取り外した。
それは黒く薄いチップであり、シンとしてはこれだけで位置が特定されるなんてことは信じがたかった。
「ねえバラムさん。これで合って――」
【警告――】
その瞬間、手に持っていた黒いチップが、突如爆発した。
轟音と共に黒煙が撒き散らされ、爆風が吹き荒れ、大地を抉る。
爆発地点から黒い直径20m程のきのこ雲が立ち上っていた。
しばらくして黒煙が消え去った後、そこはシンの立っていた足場のみが円形に残り、周辺の地面が陥没しているという異様な地形へと変貌していた。
「あ~ビックリした…」
危なかった。今のは本当に危ないやつだった。
組織の監視体制に万が一気付かれた場合組織が内部から瓦解しかねないため、GPSの子機に気付いた者は確実に抹殺する必要があるのだろう。
事前にバラムさんが結界張っておく事を提案して来なかったら旅の開始早々死ぬところだった。
【"限定結界"が発動しました。推定消費エネルギーは0.01】
何やらバラムさんが報告してくるが、今はそれよりも重要なことがある。
「バラム先生、ありがとうございました!」
シンはバラムに感謝するべく、その場できれいに90ºに腰を曲げてお辞儀をした。
【…告。あの程度の爆発に巻き込まれたところで主には一切――】
「本当にありがとうございました!」
【……了】
「あれ?今何か呆れていませんでしたか?」
バラムは沈黙を貫いた。
「あ、あとバラム先生。この格好はやはり目立ちますので、衣は仕舞いたいと言いますか結界のみで事足りると言いますかなんというか」
【……了】
すると、白銀の衣が空間に溶けるように消えていった。
予想外だったが、あっさりとバラム先生は了承してくれた。
バラム先生も結界のみで事足りると思っていたのだろう。
それに、突如外の地域からやって来た得体の知れない少女が、神々しい明らかに他と隔絶された衣を着ていれば、当然怪しまれると言うものだ。
「では、バラム先生。ナビゲーション再開よろしくです」
【了】
"了"としか言わなくなったバラムのナビゲーションに従い、シンは再び走り出した。
◇ ◇ ◇
「そう言えばバラムさん。さっき推定エネルギーが何の言ってたけど、それって何ですか?」
【エネルギーとは、対象の持つ魔力、怒り、罪能などであり、推定エネルギーとは、それらが外界に影響を及ぼす規模の大きさを数値化したものです。エネルギーは対象の内包エネルギー分しか行使することが出来ません。1エネルギーあたり大地を1m陥没させることが可能であり、演算機能バラムにのみ使用される戦力測量機能です】
なるほど。
対象の内包エネルギーが多ければ多いほど行使出来る魔力、怒り、罪能などが大きくなるのだろう。
行使したエネルギー分が、消費エネルギーとして内包エネルギーから引かれるのだそうだ。
……しかし、ここまで来れば知りたくなってくる…
「ねえバラムさん。俺の内包エネルギーはどれくらいかな?」
【500億です】
「え?500億?」
バラムに聞いてみたが、あまり良く分からなかった。
500億ってどれくらいなんだろう?これから行く冒険者の国にはもっと凄い人達が居るのかな?何だか楽しみになってきた。
「よ~し!じゃあバラムさん!スピードアップしましょう!」
【了】
シンの要望に合わせてバラムはルートを変更し、スピードアップ分通れるようになった道をルートに組み込む。
主の要望に応えるためならば、バラムはどんな手段も選ばないのだ。
今も水面を走るルートが組み込まれ、バラムはナビゲーションを行う。
このスピードで向かえば、日が暮れるまでには目的地に到着出来そうだった。
◇ ◇ ◇
どれくらい走っただろうか?
何個目かも分からない山を丁度踏破した時、それは見えた。
「おお!あれが冒険者の国リンドルムか!」
シンの目線の先には、実家のあった村とは比べるのも烏滸がましいような明らかに文明の進んだ建築物があちこちに建設されており、それらの建物が囲むように中心に建設されているのは巨大な城。
恐らく、この国の国王の居城だろう。
――よし。取り敢えずは俺も冒険者になって自由に暮らすか。後、使徒への準備や対策も兼ねてな。
そして、シンは山を駆け降り、国の見える方向へと向かっていった。




