襲撃
楽しんで頂けたなら幸いです。
【300m先、左折です】
「りょーかい」
バラムのナビゲーションが始まって数時間。
シンは順調に目的地へと近付いていた。
野生の動物や魔物にも少しは出会うだろうと思っていたのだが、バラム曰く、この周辺は一面に荒野が広がっており植物も生物も生息していないため、食料が無いから生存出来ないとのことだった。
もう少し南下すれば、魔物もちらほら現れ始めるらしい。
魔物は平和な実家では見たことがなかったので少し見るのを楽しみにしていたのだが、シンを待ち構えていたのは魔物ではなく、武装した大勢の男たちだった。
「おい。そこの女、止まれ」
その時、男たちの最前列に立つ長身の人物が口を開いた。
何だ?見たことの無い奴らだな。俺に何の用だろう?
そう思い、シンは男に用件を問う。
「あの、何の用で――」
「お前を抹殺せよとの命令が組織から下った。心当たりは無いのか?」
だが、男はシンの言葉を遮って言った。
「だが、殺す前に少し楽しみたいという奴が居てな。こちらとしてもあまりお前を傷つけたくないのだ。お前もこの人数を前に何か出来るとは思わないだろう?さあ、降参しろ」
シンは、男の言葉を静かに分析する。
組織からの命令と言っていたな。ってことは、ギルヴェルトが俺に追っ手を仕向けてきたと言うことか。
そして、ギルヴェルトは俺を完全に抹殺するためにある程度の実力の者を向けてくるだろう。そして、そいつらが見る限り三十人は居る。
さすがにその人数を相手にするのはキツイだろう。
相手の実力を考えれば、逃げるのも難しいかもしれない。
だが――
「断る」
こんなところで挫けるようじゃ、使徒を全滅させるなんて到底不可能だ。
レイさんにも、ライトネル達にも笑われてしまうだろう。
「…そうか。では、多少の怪我は覚悟してもらおう」
一瞬の間を経て、口を開いた男は、言い終わると同時腰に提げた剣を抜いて間合いを詰めて斬りかかってきた。
――来た!負けるわけにはいかない!
そう思い、シンは身構えるが、
――あれ…?妙に遅いな…?フェイントか…?
その動きは、シンにとってまるでスローモーションのように感じられ、
「なっ…!この私の剣を避けるとは、中々やるではないか」
――何だ…?ブラフ…?でも、こいつらは俺のことなど眼中に無い様子だったし…
その時、斬りかかってきた男の背後に控えていた者が、驚愕したように声を上げる。
「ば、馬鹿な!"剣聖"レベンス中尉にまでは到らずとも、キース殿の剣術は組織でもトップクラスのはず!それなのに、何故ただの女がキース殿の剣を避けることが出来る!?」
あいつは何を言ってるんだ?さっきのはただのブラフじゃ……ん?"レベンス"?
そして、シンは男の言葉の中にあったある人物の名前に気づく。
レベンスってあのレベンスか!俺を少女と勘違いして言い寄ってきたただのチンピラだ。
中尉という肩書きがありながらも実力が伴わない残念な奴だったはず…。
あれ?だとすればおかしくないか?
さっきあの男はレベンス中尉にまでは到らずともと言った。
つまり、目の前の長身の男はあのチンピラよりも弱いというわけで…。
「…………」
どうしよう。さっきまでおろおろしていた自分がとても恥ずかしい…。
「どうした?私の名を知って恐れ戦いたか?まあ、私の名は組織でも広く知れ渡っているからな」
シンは、即答した。
「いえ。弱者に恐れを抱くなど道理の通らぬこと。それに弱者の名前を覚えるなどという趣味は私にはござませんので」
少し口調を変えて言ってみた。
いつものような"男口調"でもよかったが、俺が俺であることはバレてはいけないのだ。
ギルヴェルトも俺がシンであることを知らないはずだ。
何故なら、以前怪鳥の親玉を倒した時の式典で、ギルヴェルトは男の俺と相対したのだから。
つまり、今の俺の組織からの認識は、"どこの隊員とも知れない少女"なのだ。
だが、ここで俺が男口調で話してしまうと、ギルヴェルトは少なからず疑いを持つかもしれない。
謎の少女が現れた時期と俺が消えた時期が重なるのだ。
俺が消えたことにも早々に気付いていていただろう。
その事に結び付けられれば、俺が"シン"であることが露見してしまうのだ。
あいつには、シンはただの"行方不明"ということにしておきたい。
このままいけば、隊員間でのコミュニケーションがうまくいかず、失踪したとでも捉えてくれるだろう。
俺がシンであることがバレてしまえば、同じ隊だったライトネル達にも迷惑をかけてしまう。
人質にして、俺を誘い出すという作戦を取ってくることも考えられる。
だからこそ、今はシンという存在を相手に意識させることなく対応しなければならない。
まあ、そんな心配をするぐらいならここで殺してしまえばいいのだが、そういうわけにもいかない。
……つまりは、そういう理由で俺が"女口調"で話しているのであって、決して"女性"という性別に納得したわけではないのだ。
「き…!貴様…!ただで済むと思うなよ…?我ら全員で痛めつけてやった後生きたまま魔物の餌にしてやる。先の発言を後悔しながら苦痛の中で死ね!」
シンの言葉に激昂したキースは、先程よりも速い速度でシンとの間合いを詰めて、胴に向けて横薙ぎに剣を振った。
だが、既にシンはそこには居なかった。
「ぐはっ…!?」
次の瞬間、背後から後頭部を襲った衝撃に、キースは成す術もなくその意識を手放した。
「さて、皆さんはどうしますか?この人と同じ末路を辿りたいですか?」
そして、シンは少し威圧的にキースの後ろに控えていた大勢の男達に言う。
「貴様、何をした!?何故キース殿が倒れているのだ!?」
「そんなの私が倒したからに決まっているじゃないですか。簡単なことです」
と、シンは続ける。
「その人が足を踏み出した瞬間、私は地面すれすれまで体を倒し、背後の虚空を蹴りつけてその人の背後に移動。そしてもう一度目の前の虚空を蹴って勢いを付け、その人の後頭部、剣の腹を打ち付けただけのこと。それくらい簡単ですよね?」
シンの言葉を聞き、顔を青ざめさせながらも、男は気丈に言う。
「はっ!何をわけの分からぬことを!お前のような小娘がキース殿に勝てるわけがないのだ!」
「いや、現に勝ってますが」
「ええい、黙れ!どうせ汚い手を使ったのだろう!戦士の風上にも置けない奴め!お前たち、全員で囲め!一気に叩けばこいつは何も出来ぬ!」
うん。戦士の風上にも置けないのは君の方だと思うけど。
襲撃とか、大勢で囲んで戦うとか、そんなことは戦士ならしないよね。戦士がどんなものかは知らんが。
まあ、関係ないけど。
「では、試してみてはいかが?」
「……何をだ?」
「あなたたちが束になって、私に勝てるのかどうか」
「ほざけ!小娘が!」
男はそう叫び散らし、シンを囲んでいる者達に言った。
「この女は早い者勝ちだ!一番始めに倒した者が好きにできることにしよう!」
「「「うおおおおお!!」」」
その言葉に、男達は闘志を爆発させ、雄叫びを上げる。
――うわぁ…鳥肌たった…さっさと倒しちゃお…
男達のテンションが最高潮に達する中、シンのテンションは最低値を下回った。




