秘密
楽しんでお読み頂ければ幸いです。
【座標選択転移魔法、"テレポート"の解析に成功しました。シン・グレンは"テレポート"を修得しました】
その言葉が頭の中に響いたのは、組織の建物に着いた瞬間だった。
テレポートはとても便利だから助かった。
ちなみに、シンがステラがテレポートを使える事を知っていたのは、使徒との戦いの中で三人が妙な動きをしていたのを見つけ、魔力の痕跡を辿ったところそれがステラのものだったからだ。
魔力の痕跡は、魔法を発動させると必ず残るものであり、完全に消し去ることは不可能だ。さらに戦闘中であったため、偽装する余裕も無かったのか、何も手を加えられていない状態の痕跡が残っており、その性質を読み解くことなどシンにとっては造作もないことだった。
それから俺は、先のことを問い詰めてくる三人をテレポートを利用して振り切り、既に亡き"男"と共用していた部屋に来ていた。
それは、ここを出ていく前に見ておきたいものがあるからだ。
そして、俺は真っ白に統一された部屋の中央へと歩いていく。
凶器立体は部屋の隅に運んでいるので安心だ。
部屋の中央にあったものは、一つの、どこまでも精緻な立方体。
"男"には絶対に見てはいけないと言われていたが、既にこの世に居ない今、確かめない手は無いだろう。
――しかしこれ…一体何なんだろう…?
それが何なのか良く分かっていない俺は、取り敢えず立方体に手を乗せてみた。
その瞬間、立方体から放射された無数の光線が、床を這い、壁を這い、天井まで行ったところで繋がった。
「え!?何だこれ!」
【解答。"怒り"エネルギーを利用した何らかの設備と思われます。危険度は0です。】
――そ、そうか。安心した。
そして、天井で繋がった無数の光線が、まるで蜘蛛の糸のようにゆっくりと下に垂れ始め、立方体と繋がった。
糸と繋がった立方体が、淡い光を帯びる。
俺はそこへ近づき、立方体を覗き込んだ。
そこには、淡く光る文字が映されていた。
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日々、感情が無くなっていく。人間味を失っていく。少し、恐怖を感じた。どれほど変化していくのか確かめるため、日記をつけていこうと思う。
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文字はそこで終わっていた。
日記つけるとか言ってるのに終わり!?
と、思ったが、立方体に触れると違う文字が浮かんできた。
立方体に触れるごとにページが切り替わっていくのだろう。
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霜黎6年、2月15日始
1日目。
弟が火山で溺れているのを見た。
見ているだけで俺は何も出来なかった。
猛烈に悔しくて、地面を何度も殴り付けた。
2日目。
弟が火山で溺れているのを見た。
見ているだけで俺は何も出来なかった。
悔しくて、何度も地団駄を踏んだ。
3日目。
弟が火山で溺れているのを見た。
見ているだけで俺は何も出来なかった。
少し悔しくて、俺は歯を食い縛った。
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いやいやいやいや!
全部同じ内容だし火山で溺れているってどゆこと?
しかも三回溺れているのに弟君三回生き残ったの?弟何人か居るの?全然分からん。
しかも"猛烈に悔しい"から"悔しい"に、悔しいから"少し悔しい"になってるってことは順調に感情が無くなっていってるてことだよね?これって――
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4日目。
弟が火山で溺れている。
5日目。
弟が火山で溺れている。
6日目。
弟が火山で溺れている。
7日目。
弟が消えた。
8日目。
日記をつけることの必要性を感じなくなったためこれで打ち切りとする。
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遂に行くところまで行ったか…。
弟が消えたってどういうことだろう?
しかし…霜黎っていつだ?
聞いたことのない年号だな。
そう思いつつ立方体に触れると、今度は日記ではないものが浮かびあってきた。
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見たことのない敵と相対したという話を聞いた。
聞いたことをそのまま書く。
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これは…重要事項のようだ。雰囲気で何となく分かる。
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空一面を覆い尽くす真紅の殼鎧。
そいつらは突然襲い掛かってきたようだ。
魔法で対抗したが、生半可なものは全て弾かれてしまったことから魔法に対する大きな耐性があることが窺える。
そいつの話によると、どんな手練れの者も、一太刀の内に斬り捨てられたようだ。
最後にそいつが大魔法で殲滅したようだから、魔法の耐性も絶対ではないのだろう。
その場では、魔物の突然変異という形で片付けられたようだ。
だが、俺はその殼鎧の話を聞いた時、妙な感覚を感じた。
何か、他人事で片付けられないような、自分と深く関わりのあるような感覚。
そしてそれは、しばらくして明らかとなった。
この出来事から永い時を経て、再び殼鎧共が現れたのだ。
そして、俺は見た。
殼鎧共の遥か深奥に、他と比べるのも烏滸がましい程巨大な殼鎧を。
同時に、俺は悟った。
あれは俺の弟だ、と。
なぜあんな姿になっているのかは分からないが、マグマの中から突然弟が消えたことと関係があるのかもしれない。
だが、ああなってしまった以上、俺はあいつに引導を渡さなければならない。
大勢の人を殺したのだから、越えてはいけない一線を越えてしまったのだから。
そう自分を納得させようとするが。
俺に、実の弟を斬り殺すことなんて出来ない。
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――そうか…そうだったのか…
これで、あの"男"の戦場での行動も合点がいった。
まあ、薄々そうではないかと思ってはいたのだが…。
中々、悲惨な過去だったな。
あまり細かい事情などは知らないが、俺の受けた惨状よりも酷いものだったのかもしれない。
――あなたの弟は解放されました…どうか安らかに…
シンはそう祈り、再び立方体に触れる。
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次世代の戦士に、栄光あれ。
最終編集者 レイ・ダイアモンド
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恐らくこれが最後のページ。
そこに書かれていたのは、何てことはないただの編集者名と何の変徹も無いメッセージ。
だが、シンにとってはそれが自分に向けられたもののような気がして――
――…レイ…ダイアモンド…ああ…
やっと、あなたの名前を知ることが出来ました。
「…レイ、さん」
その呼び掛けに、答える声は無い。
既に、名の主はこの世を去っている。
だが、口に出さずにはいられなかった。
やっと、名前を知ることが出来たのに、あなたはもう居ない。話も出来ない。
でも、せめて口に出すくらいは許してほしい。
答える者が居なくても、ただの独り言でも……そうしないと、溢れそうな涙と嗚咽を、我慢することが出来そうにないから。
果たして、その試みは失敗した。
光の差し込まない、白に支配された部屋の中で、シンは声を上げて泣いた。
第一章はこれにて完結です。
組織から追放命令がシンはこれからどうするのか?
あの伏線は一体どうやって回収されるのか?
等々、気になる方は是非、第二章でもお供して頂ければ幸いです。
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