終戦
本日2話目です。
――勝った…勝てた…
今度こそ、正真正銘[火]の使徒を倒した。
その証拠に、頭の中に声が響いた。
委譲するだの何だの言ってたし、"男"が死んだ時にも同じような事を言ってたから間違いないだろう。
遂に勝ったんだ。
ミーリアの仇を討ったんだ。
――あぁ、ミーリア…仇を討ったぞ…もう、安心して眠っていいからな…
心の中で、ミーリアが笑った気がした。
――そうだ、皆は…
疲労のせいか、俺は立ち上がる事が出来ずに顔を上げる。
目の前には、天にも届かんと聳え立つ、歪で巨大な氷壁があった。
これが、"絶対零度"の力。
見よう見まねで初めて使ったけど、上手くいって良かった。
さらに、左右に首を振ると、自分と同じように立てずに地面に突っ伏している、ライトネルとバステトが目に入った。
二人ともかなり疲れているようだが、何とか無事のようだ。
でも…あれ?一人足りないような……あ!
「ステラ…!ステラはどこだ…!?」
「…ここ」
嫌な予感がしたが、すぐ返事が返ってきたためホッとした。少し拗ねたような声色だったが。
それにしても、どこにいるんだろう?
周りを見渡してもどこにも居ないんだが。
仕方ない。気配感知を使うか……む。
シンは、静かに自分の背中に目を向けた。
「…むす」
そこには、怒ったように頬を膨らませたステラが居た。
何で怒っているのかは分からなかったが、とにかく――
「皆、無事で良かった…」
心の中から安堵したためか、涙が溢れてきた。
嬉しくて泣いたのは、久し振りだな。
そう思い、涙を拭おうとしたその時、初めて自分の異変に気が付いた。
あれ?こんなに肌すべすべだったっけ?こんなに細い指だったっけ?
そして、今まで注意を向けていなかった視界に入っている白い糸、一房だけ赤とオレンジのグラデーションになっている…いや髪の毛か?……いや待て待て待て!!
「何で俺、体が変わってるんだよ!?」
その問いに答えたのは、俺の頭の中に存在する演算機能バラムさんだった。
【解答。肉体を戦闘に最適化させた結果です。なお、現在の肉体を"オリジナル"として設定したため変更は不可能です】
そんな!!いつの間にそんなことに!?設定を破棄する!
【不可能です】
どうしてもだ!頼む!この通りだ!
【不可能です】
ぬああああ!!
「ちょっと、シンさんがおかしくなっちゃったんですけど。急に誰も居ない方向に土下座し始めたんですけど。表情も何か必死感が漂っていて怖いんですけど」
「仕方ないにゃライトにゃん。だって気付いたら性別変わってたにゃんよ?そりゃあ、ああなるにゃ」
「……シンさんは、姿が変わってもシンさんのまま……」
周りで何か言っているが、今は無視させてもらう。何せそれどころじゃないのだ。
ねぇバラムさん…いや、バラム様。どうにかして肉体を――
【不可能です】
まだ言い切って無かったよ!?ああもう、これは後一つの可能性に懸けるしかない!
あー、バラムさん、今の私の性別は何でしょうか?
【解答。現在の肉体は女せ――】
あーー!!それ以上は言わないで!もう分かったから!それ言われちゃったら立ち直れないから!
待て。落ち着くんだ俺。まずは落ち着く呼吸法を――
「ひっひっふー。ひっひっふー」
「見て。あの呼吸法。もしかしてシンさん産気付いているのかしら?」
「そ、そそ、そんなわけないにゃ!だってシン君男の子だったにゃ!?あるわけないにゃ!?」
「…?…何の話をしているんだ…?」
ふう。大分落ち着いてきたぞ。今なら正常な判断が下せそうだ。
「よ、よし。取り敢えずここから移動を――」
と、言いかけ、立ち上がろうとしたその時、
――ピシッ、パキッベキッ
「「「「……………」」」」
その場の四人が、一斉に押し黙った。
【警告。生命の危機が迫っています】
「そんなの分かってるわ!!走れえええええ!!」
それと同時、背後の巨大氷壁が轟音と共に砕け落ちた。
そしてそれは、大きな波となって走るシン達に凄まじい勢いで迫ってくる。
「何でこうなるのよおおお!!言っとくけど私今とっても疲れてるんだからね!?本当だからね!?だから走らせないでよおおおお!!」
「そんなの皆一緒にゃ!生き残るために今は走るにゃ――にゃあああ!!ステにゃんしっかりするにゃ!」
【無念】
ライトネルは叫び散らし、バステトは"無念"と書かれた看板を持ったステラを抱えて、全力で走る。
「叫んでいる暇があったら足を動かせ!それより声で分かったけどやっぱり女になってるんだな俺の体ああああ!!」
「あんたこそそんな事言ってないで足を動かしなさいよおおおお!!」
――あ、もう限界だ…死んだ…こんな馬鹿馬鹿しい死に方は凄く嫌だけど
シンが諦めかけたその時、頭の中に希望をもたらす声が響いた。
【告。炎結界魔法"煉獄領域"を創成しました。推定エネルギーは――】
「"煉獄領域"!!」
バラムが言い終わるより先に、シンは魔法を放った。
その瞬間、この場の全員を囲むように円形の炎の壁が、地面から発生した。
氷の波は、炎の壁に阻まれて停止しているようだった。
「……た、助かった」
そして、同時に地面にへたりこんだ。
「ていうか、何でシンさん魔法使えるのよ?聞いてないんですけど」
「本当にゃ。さっきは氷魔法も使ってたにゃんね?あれ?もしかして…」
「……さっきの魔法、シンさんの…?」
ステラの問いに、何でもないようにシンは答えた。
「ああ。あの氷は俺が出した――イデッ」
突然、ライトネルに頭を殴られた。
「何すんだ――」
「何すんだじゃないわよ!それはこっちのセリフよ!さっきのがあなたの魔法なら別に走らなくてよかったじゃないの!このアホ!馬鹿!スカタン!」
「何だとお前!俺の魔法だったら何だっていうんだよ!!」
「……知らないの?」
「え?何を?」
「「………」」
再び、場に沈黙が落ちた。
「あのね、シンさん。自分の出した魔法は任意で解除することが出来るの?分かる?」
「え!?そうにゃんか!?」
バステトが目を見開いて言い、シンは、静かに首を振った。
「あんたが驚いてどうするのよ!?いやそれより、じゃあ何であんな魔法使うのよ!?危うく死にかけたじゃない!しかも解除方法知らなかったのにこんな炎の壁を出したの!?」
シンは、静かに頷いた。
「あんたね――」
「……ライトネル、煩い。解除方法なら私が教えるからあっち行ってて」
「ちょっとステラ!?いくらシンさんのことが好きだからと言ってそれは――」
瞬間、ライトネルが吹き飛んだ。
ステラが指先から風弾を打ち出し、ライトネルに直撃させたようだ。
その表情には影が差しており、こちらからはうかがい知れない。
「…聞いた…?」
地の底から響くような声に、シンは音速を超えた速度で首を振った。
事実、聞いていなかったし。
「…そう…じゃあ、解除方法教えるから――」
数十分後――
「え~と…こうか」
手のひらで虚空を撫でるように水平に動かす。
すると、全員を覆っていた炎の壁が、蝋燭の火を消すように、呆気なく消え去った。
「おおっ、凄い!」
「…これで、周りの氷も消して」
「分かった」
俺は、さっきと同じ動きをして、氷を消し去っていく。
始めの内はぎこちなかったが、すぐに動きも流麗になり、手際も良くなっていった。
そして、最後の一つを消し去った時、
「ん、うーん…ここはどこ、私は誰?」
ステラによって意識を刈り取られていたライトネルが目をさました。
「あ、起きたか。丁度良かった。行くぞライトネル」
「え?何言ってるのよ?周りにはまだあんたの氷が――」
言いかけて、ライトネルはその事に気付いた。
「あれ!?無くなってる!?」
「ああ、俺が消し去ったからな。ほら、さっさと行くぞ」
「あ…うん」
呆けていたライトネルも、やっと立ち上がり付いてきた。
一応、使徒の残骸を見ておかないといけないしな。
そして、シン達は使徒を倒した場所へと向かっていった。
その途中、
――いくらなんでも有り得ないでしょう。私が気絶していたのはあまり長時間ではなかったはず。その間に解除を習得するなんて速すぎよ……シンさんって本当は化け物なのかしら?
ライトネルは、静かに戦慄していた。
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