決着―――
勉強のため他作を読んでいたらどっぷりはまっていました^^;
更新遅れてしまい申し訳ありません。
楽しんでお読み頂けたら幸いです。
ライトネル、ステラ、バステトの三人が加わったところで、決して戦況が好転するという訳ではない。
使徒の高すぎる攻撃力故、一撃貰えば死は免れない。
そして、使徒の圧倒的なスピードにも、三人は対応しきれないだろう。ライトネルならば可能かもしれないが、使徒のスピードに追い付くことは出来ない。
だからこそ、俺がタゲを取り続ける必要がある。
俺が真っ先に攻めなければならない。
シンは地を砕く勢いで蹴り、使徒へと向かっていく。
――四人で示し合わせた方針はこうだ。
まず、シンが斬り込み、常に高い敵視を維持し続け使徒の攻撃を受け流す。
使徒の攻撃の隙間を狙って、ライトネルとバステトが攻撃を加え、じわじわと翼を削っていく。
最後に、後方で魔力を練っていたステラの大魔法でトドメを打つという流れだ。
だが、この作戦には大きな問題点がある。
それは、シンの負担が大きすぎることだ。
ステラの大魔法までに繋げる長時間、使徒の災害のような攻撃を受け流し続けるのは、属性の取得により大きく力を増したシンでもほぼ不可能だ。
しかも、下手に回避すればライトネルやバステトにも使徒の攻撃の余波が行ってしまう。そこにも配慮する必要があり、さらに作戦の成功率が下がる。
そして、これはあくまでも推測なのだが、ステラの大魔法だけでは使徒は倒しきれないだろう。
ステラの魔法には凄まじい威力があるが、使徒は耐えきる気がする。いや、耐えきる。
使徒の攻撃を全て躱し切り、最後にトドメの後押しをする。
――以上が、俺の役目だ…
何度も頭の中で自分の役目の確認を繰り返し、その度に、作戦の成功率の低さを実感させられる。
だが、やるしかないのだ。
確率が0でないうちは、必ず勝機はある。
そもそも、戦場において確率論は無意味に等しい。
戦場には見えない乱数がいくつも散らばっており、その全てが戦局に大きく影響を及ぼす。
不確定要素も多い。
――やってやる。四人で、奴を倒してみせる。
その瞬間、俺は視認するのも難しい速度で振り下ろされてきた大剣を、僅かに傾きをつけた氷壁で地に受け流す。
そして、地面に打ち付けられた大剣が撒き散らす岩石を、飛び散る前に凍りつかせ停止させる。
一つ一つの作業が気を抜けない。
まるで、一秒が数十秒にも感じられるような――
【確認しました。"罪を背負いし者"は、"固有時間加速化"を修得しました】
その時、頭の中で機械質な声が反響する。
これはさっきも聞こえた。何か、委譲するだの何だの言われた後、何故か氷と水が使えるようになったんだよな…。
――なあ、お前は誰なんだ…?
【解答。"罪を背負いし者"に搭載された演算機能。所有者の質問に応答します】
――演算機能…?罪を背負いし者…?どういうことだ?何が――
【告。生命の危機が迫っています。速やかに並列超速演算機能"バラム"との同調を進言します】
――良く分からないけど…よろしくお願いします、バラムさん…?
【了。実行します】
その瞬間、感覚が波一つ無い水面のように澄み渡っていく。
空気の流れ、地面の僅かな凹凸、それを構成する分子、そして原子。
目の前の全てを物質を知覚することが出来る。
――これは……
【敵性反応が攻撃を開始。回避を推奨します】
機械質な声が頭の中で響くと同時、使徒が大剣を振り下ろしてくる。だが――
――あれ…?こんなに…遅かったっけ…
シンは使徒の攻撃を悠々と回避し、大剣と地面が触れ合った瞬間、地面を凍り付かせ大剣を地に縫い付けた。
そして、回避した勢いのまま使徒に向かっていく。
その間に、ライトネルとバステトが使徒の翼を攻撃し、翼を二枚落とすことに成功する。
だがそれも、シンにとってはあまりにも遅く感じられ――
【告。氷魔法"八連氷柱"の創成に成功しました。推定エネルギーは大魔法に匹敵します】
「"八連氷柱"」
ライトネルとバステトが攻撃を終えると同時、シンは使徒の翼を八枚消し飛ばした。
"八連氷柱"とは、文字通り顕現させた巨大な氷柱を八発打ち出す技であり、演算機能"バラム"が先程生み出したものだ。
その威力と速度は、バラムの演算通り凄まじく高い。
残った翼は、後二枚だ。
――ゴーン、ゴーン
慌てたように、使徒が回復しようと鐘の音を鳴らし、無数の炎柱を顕現させる。
だが、その鐘の音は、シンにとっては断末魔のように聞こえた。
このままいけば倒せる。この速度ならば回復される前に間に合う。
そう、シンは思っていた。
決して、慢心などではない。だが、無数に積み重なったそれは、シンの体に如実に現れる。
――ブツンッ!
不意に、頭の中で何かの接続が切れたような音が響く。
俺は、特に気にすることもなく炎柱を避けながら使徒に向かっていく。
奴はすぐそこだ。後、翼を二枚落としてステラの魔法を打ち込み、俺がトドメを刺して終わりだ。
だが、その瞬間俺の体に大きな衝撃が加わる。
【告。"バラム"との接続が切断されました。エラー、エラー、エラー……危険が迫っています】
頭の中で、狂ったように機械質な声が叫んでいる。
俺は、地面に横たわっていた。
当然と言えば、当然なのかもしれない。
俺の体は、さっきの動きに付いていくことが出来なかったようだ。
体が動かない。
大きな虚脱感が体中を支配する。
この感覚は、ミーリアを殺した使徒の配下に追い詰められた時と同じような――
そうだ…まだ、負けられない。終われない。決めたじゃないか。ミーリアの仇を討つと。あの男に、任されたではないか。
絶対に、負けられない。
例え、俺に力を操る才能が無くても、力及ばず地に伏してしまったとしても、人には必ず成し遂げなければならない瞬間があるのだ。
それが、今だ!!
その瞬間、戦場に轟音が響き渡る。
ステラが大魔法を中断して、使徒の回復を阻害したようだ。
その判断は間違っていない。
ここで使徒に回復され、さらにパワーアップされては本当に勝ち目が無くなる。
そして、ステラの魔法のが消え去った瞬間、ライトネルとバステトが飛び出し、使徒の翼を二枚落とす。
もう、使徒に翼は残っていない。
後は、あの鎧ごとぶっ飛ばすだけだ。
――そうだ…あいつらだって、戦っているんだ…俺が寝ている今も…必死に…
シンは、生まれたての小鹿のように足を震わせながらも何とか立ち上がる。
使徒も、回復よりシン達の排除を優先したのか、手に持つ大剣を全て真上に放り投げ、マグマのような脈動するエネルギーへと変換する。
それは、前の形態に放たれたものより遥かに巨大で、禍々しかった。
あれが放たれたら最後、シン達は全滅するだろう。どころか、この星すらも危険だ。
それをシンも理解したのか、大声で三人に指示を送る。
「ライトネル、バステト、ステラ!!今すぐ、自分の出せる最強の技を打ってくれ!だが、近付きすぎては駄目だ!!」
返事は、無い。
当然だ。皆、一杯一杯なのだ。声を出せる余裕など無いのかもしれない。
だが、伝わっていると信じている。
理屈等ではなく、ただ一つの事象として、確信しているのだ。
果たして、シンの言葉は通ったようだ。
「行くわよ!"雷の女神"!!」
まず、ライトネルが両手にプラズマ化した双剣を振り抜き、自身の名を冠した奥義を放つ。
その一撃により、使徒の上半身に大きな太刀筋が二本走る。
だが、まだ押しきることが出来ていない。
「食らえにゃ!"猫パンチ"にゃっ!!」
バステトは、シンプルに右手を凄まじい速度で振り出し、衝撃波を使徒に飛ばす。
そもそもバステトは単体で出せる技を持っていないため、一人では猫パンチと猫キックといった通常攻撃しか出来ないのだ。
それでも、長い溜めと体の捻りを生かし、凄まじい衝撃波を放つことが出来るのだから驚きである。
そして、その一撃により、使徒の上半身が大きくひしゃげる。
「万物は移り変わる。何れは無に返り星を巡る。朽ち滅びよ。"有為転変"」
長い詠唱を経てステラが放った大魔法は、正に究極。
無属性魔法の極致、"有為転変"。
全てを否応なく塵と変える。だが、魔法の対象となった者は死ぬわけではない。
無に帰り、永劫の時を巡り続けるのだ。
ある意味、死よりも悲惨な結末である。
その魔法を受けた使徒は、体の端が塵化していき、急速にその体積を減らしていく。
だが、まだ使徒は止まらない。
真上に造り出されたエネルギー体もそのままだ。
ダメージは確かに蓄積している。それでも、まだ足りない。
――皆の攻撃で、使徒はもう死に体だ。後、一撃で沈められる…
シンは、意識を深く沈めていく――
放つのは、最高で最強の技。
一度、訓練の時に、あの男に見せてもらったあの技だ。
――…お前も…これくらい…出来る…ように…なれば…一人前…だ…
災害を遥かに凌駕した一撃を放ったにも関わらず、表情一つ変えずそう言いのけたあの男の、奥義。
今の俺ならば、出来るはずだ。いや、出来る。自分を信じろ。
あれは、ただエネルギーを放出するだけでは発動出来ない。
イメージは、核爆弾。
極小のエネルギーから連鎖反応を起こし、最後には巨大なエネルギーを作り出すことが出来る。
男曰く、連鎖反応時のエネルギー制御が特に難しいらしい。
まあ、男はそれを何の苦もなく行っていたが。
まず、極小のエネルギーを連鎖性質を持たせ生成……成功。
次に…小爆発を起こす…そして、そこから連鎖反応が始まる…!!
「う…ぐああ、あああ」
体が張り裂けそうだ。
だが、これを維持しなければならない。これを霧散させてしまえば、後はない。
やるんだ、俺が…倒すんだ…!
苦痛に耐えていると、エネルギーが最高潮へと達する。
ここだ。ここで一気に解放する!
そして、シンは放った。
「"絶対零度"!!!」
瞬間、世界が凍った。
もはや、そうとしか形容出来ない。
指定した敵性反応が消失するまで、例え星が滅亡しようとも終わらない。
【確認しました。"煉獄の罪"が、"罪を背負いし者"に委譲されました】
残ったのは、戦場には似つかわしくない静寂のみだった。
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