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Apostles12~罪を背負いし少年の復讐譚~  作者: 尖閣諸島諸島警備隊第6小隊隊長代理
一章 対[火]の使徒
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開戦 [火]の使徒

台風は大丈夫だったでしょうか?

楽しんでお読みください。

目を閉じると、"怒り"と"罪能"の流れが分かる。

意識を集中させたところに、その流れが集まっていく。

だが、流れが集まってしまうと、強大過ぎて今は制御することが出来ない。


――体全体に、満遍なく行き渡らせるイメージ…均等に…均一に…

体の構成物質が変わった。

と、言えば正しいだろうか。

シンの肉体には、血管を流れる血、骨の髄、筋肉の繊維一本一本に至るまで、怒りと罪能が混ざりあったものが流れている。

体全体が一体となった状態、最もバランスの取れた状態であった。


――よし、出来た…次は…

そして、シンは恐る恐る右足を踏み出してみた。


特に何も起こらず、足は地面に着地する。

「はああぁぁぁ~……疲れた…でも、これなら気を付けておけば維持も制御も出来そうだな」


「…ほう…安定化に…成功した…か…」

不意に耳に入ってきた言葉に、シンは盛大に驚く。


「うわあああ!?居るなら居るって言って下さいよ…」

先程、部屋を退出していった男だった。


「…俺は…明日の準備を…する…。…お前は…もう…寝ろ…」

「え?何でですか?まだ昼間ですよ?」


シンの問いに、男は表情を変えることなく言う。

「…使徒が…明日の…いつに…来るのかは…分からない…。…今のうちに…寝て…おけ…」

「は、はい」


それだけ言って、男は再び部屋から出ていってしまった。


「………寝るか」

"怒気封纏"の改良版を維持できるようになったおかげで、今日は凶器立体を気にせずぐっすりと眠れそうだ。


そして、シンはふと思った。

――そういえば、今日は腹が減らなかったな…


それは、順調に人の道から外れているということなのだが、本人に自覚は無かった。



◇  ◇  ◇



――ゴオオオオ


何の音だ…何かが凄い勢いで迫ってきている感じがする。

目を開けると、暗闇の中に、火の玉のような小さな灯りが映っている。

それは音とともに徐々に大きくなり、気が付くとそれは[火]の使徒だった。


――ゴオオオオ!!

猛スピードで暗闇を飛翔してきた[火]の使徒は、手に持った大剣で、そのままシンを斬り捨ててしまった。



◇  ◇  ◇



弾かれたように目が覚めたシンは、毎度の右手首の激痛に顔をしかめる。

衣服が触れるだけでも痛く、急いで袖を捲ると、そこには――


――Warning…

警告…注意…か。

今日、奴がやって来るんだな。

ミーリアの仇であり、人類の敵である使徒が。遂にやって来る。

長いようで、本当に短い時間だった。

組織に入って、2週間も経っていない。

にもかかわらず、決意は、自分でも驚くほど揺るがぬものとなっていた。


――ミーリアの仇を取る


怒りは力に直結するが、呑まれれば逆効果である。特に、戦場では。

全てを、自分で制御しきる事が必要だ。怒りをただぶつけるだけでは、幼児のそれと変わらない。

以前は呑まれてしまったが、今回は大丈夫だろう。いや、大丈夫だ。


――絶対に勝つ


今日の何時に使徒が来るのかは分からない。

だから警戒も怠らない。気配感知も全開で、怒気封纏の改良版も維持している。

シンは、屋外に出るべく、歩き出した。


いつでもかかってこい。どんな手を使ってでも、どうなってしまおうとも――


「俺は、お前たちを殺し尽くす」


そして、シンは心の奥で怒りの炎を静かに燃やし始めた。



◇  ◇  ◇



――どれくらい時間が経っただろうか。


空が、割れた。


雲ひとつ無い青い晴天の空が、深紅の線によって分かたれている。

いつもより、太陽が大きく、近く思えた。


――ゴオオオオ


どこかで聞き覚えのある、燃え盛る炎のような音。


気配感知に引っ掛かる、理解出来ない程巨大な物体と夥しい量の物体が、猛スピードで地上に向かってきている。


――轟音


隕石の如く、その強大な気配は遠くの山へと直撃した。

その瞬間、喉を焦がすような熱気と砂煙が混ざりあったものが、地を這って放出される。


「…来たか」


シンの呟きに応えるように、その物体は緩慢に立ち上がる。否、浮き上がる。

その巨体は、空を飛んでいた。


近距離ならば視界に入りきらない程の大きさの、深紅の殻鎧。

その鎧には、幾つもの複雑な幾何学的模様を描いた、脈動する黄金の線が刻まれている。

右手に持った、その身の丈よりも巨大な大剣は赤熱しており、見るものを否応無くその場から動けなくする威圧感を放っていた。


それを取り囲むように、周りには夥しい量の成人男性程の大きさの殻鎧共が群がっている。


[火]の使徒。個体名:殲滅の断罪焔剣レヒト・オブ・ハウザーと、その配下だった。


――怖い、大きい、怖い……勝てない…

シンは、その場から一歩も動けない。両足が地面に縫い付けられたかのように、意思に反してその足は動かない。


が、シンはすぐに驚愕で目を見開くことになる。


刹那、目の前の景色がずれた。


轟音とともに、シンの目に映っていた殻鎧共が、一体残らず真横に切断され、地に崩れ落ちる。

それは、[火]の使徒も例外ではない。


「何が起きた…?」


さっきまでが嘘のように、目の前には使徒の無残な姿が広がっている。

状況を理解出来ないで居ると、シンの気配感知にあの気配が引っ掛かった。


――上か

シンが上を見上げようとしたとき、それは同時に地面に着地した。


「……流石に…あの程度では…死なない…か…」

あの男だった。


そして、男が言い終わると同時に、[火]の使徒の体が光に包まれた。

光の軌跡を辿ると、輝く太陽から、その光は伸びていた。

「…厄介…な…」


シンは理解した。

さっきの斬撃は男が放ったものだ。

巨大な奴は仕留められなかったようだが、周りの殻鎧は一体も残っていない。

それでも、平然としているこの男は、どこまで力を隠しているのだろうか。


――まるで、底が見えない。


「…行くぞ…シン…。…あいつを…倒すぞ…」

シンが何も出来ないで居ると、男が言ってきた。


「でも、俺では力不足です。あんな奴とどう戦えば…」

「…怒りを…忘れた…のか…?」


その言葉にシンはハッとする。


「…あの…煮えたぎる…怒りを…忘れた…のか…?」


――そんな訳がない。

あれからずっと、ミーリアを殺された怒りを忘れた日などない。

気を抜くと意識を奪われそうな、あの怒りを、忘れた時などない。


「…いいえ。忘れていません。それどころか…」


シンを中心として、空気が渦巻く。大地に亀裂が刻まれる。


「抑えきれない程、肥大化しています…!」


「…そうか…」

男はそれだけ言うと、シンの前で立ち止まった。


「…では…行くぞ…」


「はい」


そして、二人は目の前の巨大な存在に向かって、歩き出した。



◇  ◇  ◇



「さっきの音は何だ!?何が起きた!?」

「おい!どうなってる!!今の状況はどうなってるんだ!!」

「今、総司令官殿に事の次第をお伝えしている!」


組織内は、慌ただしく怒号が響き渡っていた。

そしてここは、各隊の戦隊長が集められた一室。そこにはエレンの姿もあった。


「報告です!斥候兵から報告が入りました!」

その時、一人の兵が、部屋の扉を開け、大声で報告を述べる。


「信じたくありませんが、たった今、使徒が現れた模様です!」

その言葉に、場は騒然となる。


「使徒だと!?何をふざけたことを言っているんだ!」

「そうだ!まだ奴等が来てから一年も経っていないんだぞ!」

「兵士さんの見間違いではございませんの?」


「静まれ」


そこへ、一人の男が現れた。

その男の声に、騒然としていた場は、一瞬にして静けさを取り戻す。


「そ、総司令官殿…申し訳御座いません…」

「よい。して、使徒が現れたようだな?」


ギルヴェルトの目は、報告を行った兵士に向いている。


「は!信じられないことですが…紛れもない事実であります!」

「…そうか」


ギルヴェルトは、何処か遠くを見詰めるような表情をして、考え込む。


「総司令官殿…?」


「聞け!お前たち!」

突然、ギルヴェルトは声を張り上げ、反射的にギルヴェルトを除いたこの場の全員が背筋を伸ばす。


「これから使徒の撃滅を開始する!全戦隊、集まり次第出撃せよ!!」

ギルヴェルトの言葉に、戦隊長達は決意の炎をその目に燃やし、答えた。


「了解!!」



◇  ◇  ◇



――冗談じゃない。あんな化け物と戦うなんて頭おかしいだろ…

出撃するべく、戦隊長達は急いで走って行ったが、一人だけ自分の隊員を集めようともせず、のそのそと歩いている人物が居た。


――あんな音を鳴らす奴に勝てる筈がない。あいつらはただの馬鹿だ。勝手にの垂れ死ねばいい。

その人物はエレンだ。


使徒に怯え、既に戦うことを放棄しているようである。


――兄さんも本当に馬鹿だな。正義を振りかざして出来ないことをしようとする奴を見ると虫酸が走る。


エレンは歩く。

使徒の攻撃が届かない場所まで。深い深い地下まで。


その先に待ち受けている、どんなものよりも恐ろしい存在に気付かずに――



◇  ◇  ◇



「ライトにゃん!ステにゃん!」


バステトが尻尾の毛を逆立てて、慌てたように二人の名を呼ぶ。


「分かってるわ。遂に来たわね」

【使徒が現れたのだな】


バステトとは対照的に、二人は落ち着いているようだ。

だが、その表情には微塵の余裕も無い。


「しかも、使徒の中でも特に強力なのが…ね」

【だが、やることは変わらないであろう】

「…そうね。行きましょうか」


「待つにゃん!シン君も一緒に行くにゃ!」


バステトの言葉に、ステラは問題無いというように、看板を上げる。


【シンの気配は既に外だ。我らも向かおう】


そして、ステラの魔導書(グリモア)が宙に浮く。

【使うのは"転移魔法"。我が手に触れよ】


その言葉に、ライトネルとバステトは、ステラの手を握る。


「行くにゃ」


「行くわよ」


【向かおうか――】


直後、地面に顕現した複雑な魔方陣が輝きを放つ。


【終焉の地へ】

やっと戦いが始まりました。長かった…

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