25.魔人
いいところで話が切れなくてごめんなさい
胸を狙った矢はザギーが軽くはじいてしまう。
だが、そちらに目が移った隙に俺とシズネは距離を詰めていた。
「《スラッシュ》!」
「《閃》」
俺は奴の脚に、シズネは飛び上がって空いた奴の胴に剣技を放つ。
手ごたえはあった。きっちり振り切れている。だが、奴に着いた傷はわずかな切り傷でしかなかった。
「目障リダ」
俺が驚いていると切りつけた足でザギーが俺を蹴り飛ばす。
とっさに剣の腹で受け直撃を逃れる。
シズネのほうもあまり有効なダメージとはいかずに空中にいるところを羽虫のように払われる。
それでもその手を蹴ることで衝撃を多少なりとも緩和しリナさんのいる方に飛ばされるように工夫したようだ。
「ハハハハ。スゴイ、スゴイゾ。剣ハ通ラズ、痛ミハ感ジナイ。殺シテヤル、殺シテヤルゾォォオオ」
まるで獣のようにザギーが雄たけびを上げる。
俺は体を起こしてHP残量チェック。今ので10分の1くらい持っていかれた。
対してザギーにはほとんどダメージがないようだ。厄介だな。
「二人とも大丈夫か」
リナさんから声がかかる。
シズネは近くでうなずいているし、俺は少々距離があるので親指を上げて合図する。
そんな余裕すらザギーは与える気はないようだった。
俺たちが体勢を整える時間を奪うかのようにリナさんとシズネのほうに向かって走る。
足が長くなったせいか妙に体ばかり前傾気味な奇妙な走り方だった。のっしのっしという感じ。それでも巨体な分その距離の縮まり方は早い。
「シズネ、奴の気を引け」
リナさんに言われシズネがザギーに向かって走り出す。
その後ろから矢がシズネを追い抜いていく。
ザギーは矢を左手で払い、シズネを突き刺すように右手を突き出す。
シズネは左に避けることでその手を避けさらに峰でもってその手を強烈に打ち込む。それによってザギーは右手の進路が内側に強制的に持ち込まれ、体勢を崩した。それを見逃すリナさんじゃない。
「《ブロウ・シュート》」
彼女の放った矢はザギーの鳩尾に決まった。
刹那、ザギーの体は鳩尾を支点にくの字に曲がるようにしながら吹き飛ぶ。
ドゴォオオオン。
奴は背中から森の木々に突っ込み気を二三本なぎ倒した。
「すごい…」
「何を見ている。さっさとこっちに来い!」
呆然とする俺を叱咤するリナさん。慌てて二人に合流する。
「やりましたね!」
シズネは嬉しそうだがリナさんは難しい顔をしたままだ。
「いや、まだだ」
突如、ザギーの突っ込んでいった方から咆哮が上がる。
「イテェ。イテェジャネエカ。コノクソ女ァ」
奴のHPが4分の1ほどに減っている。攻撃が良かったというよりは突っ込んだ場所が悪かったんだな
。
「シズネ、続いてくれ」
「分かったわ、ブレイド君」
二人で言葉を交わすとリナさんが再び矢を取り出した。
「何か妙案でもあるのか」
俺は不敵に笑って見せる。
「まあ、見ててください。あと、場合によってはとどめをお願いします」
リナさんもまた、不敵に笑い返してくれる。
「楽しみにしていよう」
ザギーは立ち上がり、こちらに向けてのっしのっしと駆けてくる。
「いくぞ、シズネ」
「お姉ちゃんに任せなさい!」
俺たちはザギーに向かって駆け出した。
俺を先頭に、少し後ろにシズネという布陣。
ザギーは俺たちを少し見るとニタァと口を歪めた。そしてその前傾姿勢から俺たちのいる位置を手でもって薙ぎ払う。
右腕が体の内側に振られたことでその動作を予期していた俺はすぐさま叫んだ。
「シズネ!大きく跳べ!」
シズネは俺の指示で跳ぶ。優に3メートル、現在のザギーの身長を追い越す勢いで跳ぶ。
俺はバックステップで奴の払いを避けると空中のシズネに目が行っているザギーの懐に跳びこむ。
「《インパクト》!」
剣技。俺の片手剣スキルが3になったことによって手に入れた新しい剣技。
説明欄には『衝撃波を伴う突き』とあった。
だがこの、衝撃波、というところが曲者で自分の意志でその『衝撃』をどのように加えるかを操作できるのだ。
《インパクト》を受けたザギーがひるむ。
奴はおそらく、大きな壁に瞬時に激突したような衝撃を受けているだろう。
衝撃を点で集めてそこを起点に吹き飛ばすこともできる。今のように面の衝撃を与えて相手をひるませることもできる。
使い方次第でいかようにもなるのがこの剣技だ。
ザギーがたたらを踏むのを確認して俺は少し後ろに下がる。
すると今度はシズネが俺の前に下りて来る。
「食らいなさい。《渡し川》」
シズネの剣技《渡し川》。右袈裟で斬り下ろし、真上に斬り上げ、さらに左袈裟で斬り下ろす。
シズネの持つ最大威力の剣技だ。
その最後の斬り下ろしが終わると同時に再び俺とシズネは場所を入れ替わる。
「ゥグォォォォ」
ザギーがうめくがお構いなしだ。
「いくぞ!《X・スラッシュ・インパクト》!」
さらに追い打ち。俺の最大威力の剣技《X・スラッシュ・インパクト》。
×の字を書くように二回斬り、最後にその中心を突く。
名前の通り最後の突きは《インパクト》だ。これは衝撃の操作はできないが突き刺さるというよりも除夜の鐘を突くみたいにものすごい衝撃がその一点に集まり、吹き飛ばす。
最後の一突きがザギーの鳩尾に決まる。
奴は再び体をくの字に曲げながら後方に吹き飛ぶ。
俺は奴の頭上のHPバーの残りを確認する。
あと1割。まだ残ったか…。
「リナさん!」
俺は最後の希望へと声を掛ける。
「任せろ。二人ともそこをどけ!」
リナさんはすでに弓を引き絞り狙いをつけていた。
俺たち二人が両サイドに飛びのくのを見てリナさんは矢を放つ。
「…弓技《流星》」
放たれた矢は今まで見てきた中で一番速かった。
矢が飛んでいく、なんて表現は生ぬるい。光だ。一条の光が一直線に獲物に向かって飛んでいく。
光は空中遊泳をするザギーの胸を貫いた。
一瞬だった。俺たちの居たあたりを一陣の風と共に光が過ぎ去り、かと思えばザギーの胸から血が飛び出していた。
「キサマラ…コロシテ…ヤ……」
ザギーが何か戯言をつぶやいたが、それすら最後のあがきにすぎなかった。
ズシャァという音とともにザギーの体が地面をたたく。
そのまま動くことなく、チリとなって消えた。
その光景に目を見開くリナさんとシズネ。
俺から言わせれば良くあることだ。
「まさか…魔物になったというのか?」
リナさんは動けないでいるが俺はザギーの死体があった場所に移動する。
「…魔石」
俺についてきたシズネがこぼす。
「まさか、魔物に変異するとはな」
俺はそいつを拾ってアイテムボックスに《収納》する。
「シズネ、ポーション飲んどけよ。HPもMPもだいぶ使っただろ」
シズネは頷いてポーションを取り出した。
俺も取り出してその場で2種類とも一気飲みする。
これでHP、MPともに心配ない。
リナさんは下を向いて何かぶつぶつとつぶやいているがそのまま放置できるほど、今の俺たちは暇じゃない。
どうせ黒幕はこの奥にいるんだ。この手のお話のお約束なんだ。
「リナさん、ここで立ち止まっていても何も起きません。前へ、進みましょう」
リナさんは頭を振って俺のほうを向いた。
「そうだな。…まずは依頼を達成しないといけないな」
リナさんは弓を背負いなおし背筋を伸ばした。
「行こう。何かわかるかもしれない」
俺たち三人は中心に向かって歩き出した。
そいつらが見えたとき、俺は少し興奮したことをここに隠さずに記しておく。
何せ、真っ黒でおおきなネコ科の動物、その隣であおむけに横たわる紅い髪、青緑色の肌の人物。
これこそファンタジーの王道たる魔人という奴だろう。
ま、リナさんは即座に弓を構えていたがその手は震えていたし、シズネに至ってはネコ科の動物しか見ていなかっただろう。
「おうおう、やっと来たか」
そいつはふっと上体だけ起こして俺たちのほうを向いた。
紅い髪、青緑色の肌、爬虫類のような金色の瞳。
「お前は…まさか…」
リナさんが片言になってしまうくらいの衝撃をその場にいるだけで与えてしまう。矢すら手に取れていないくらいだ。
黒いネコ科の動物…豹だな。黒豹でいいだろう。
えっと正式にはブラッドパンサー?黒豹でいいな。
黒豹は俺たちに対して警戒を示したが隣にいる魔人?が手で待ての指示を出されて再び寝転んだ。
「おうおうおう、お待ちしていたんだぜ?これでも忙しい身の上なのに、わざわざこの場所指定されてさあ。なんでこんな連中に気を遣うかね」
やれやれといった風に肩のあたりまで手を上げて見せる魔人(仮)。なお、現在も座ったままだ。
「お前は魔人族か」
相手が言葉を発したことでようやく自分を取り戻したリナさんが矢を取り、弓を構える。
「まあそう慌てなさんなって。お察しの通り俺はお前らの言う魔人族だが、今回は大したことをしようとは思ってねえよ」
リナさんのさっきすら軽くいなしてしまう魔人族。
スッと、奴の視線がリナさんから俺とシズネに移る。
「うーん?多分お前さんたちのことだと思うが、まあいい。俺はジェノス。魔人族だ。今のところの目標は魔王の復活」
「魔王の復活だと!」
すでに険しかったリナさんの顔がもっと険しくなる。
「馬鹿な。魔王など、すでに御伽話だ。そんなことが本当にできるのか」
ジェノスは面白そうににやにやしている。
「まあ、お前たちが何と伝えているのかはこっちは知らねえわな。できないと思うなら放って置きゃいいし、できると思うなら止めればいい――止められればな」
よっこらせ、とジェノスが立ち上がる。
「ま、今日はただの顔合わせだ。暇つぶしに作ったゴブリンの巣もつぶされちまうし、魔人薬作って渡してみればお前たちに潰されちまう。はー最近はついてねえな」
頭の後ろで手を組んで空を見上げるジェノス。
「まて、魔人薬ってまさかお前がザギーにあのへんな液体を渡したのか」
「あーザギー?…ああ、あの嫉妬で狂った性欲しかないバカの事か。そうそう、いい感じで町で暴れてくれるかと思ったけどまさかあんたらが標的だったとはね。せっかくお手製マントまで貸してやってどこにでも忍び込めるようにしてやったのに、使った先があんたらの尾行とはね。ま、何に使ってもよかったんだけど」
ああ、そういえば、とジェノスの視線がシズネに移る。
「お前さん、一度俺に気付きかけたよな」
オモシロい玩具を見つけたかのようにジェノスが微笑む。
俺はとっさにシズネの前に出た。
「ま、いいわ。今回の指令は果たせた。今度は…確か、ラゴイミ洞窟かな…おっと」
リナさんが威嚇のために矢を放つ。奴の足に刺さるはずだったものは軽くよけられ、地面に刺さった。
「お前、何の目的でここにいた」
「だから、顔見せだよ。暇だったからこのクロスケと遊んでたけど、いやあこの森は設定レベルが低すぎだね。主がクロスケの遊び相手にもなんねえ。しかも魔物がクロスケに怯えて逃げてやんの。笑えるわ」
くつくつと笑うジェノスに対してリナさんの怒りがふつふつと湧き上がる。
こいつ…ここ最近の事件のだいたいの原因じゃないか。
「クロスケは置いていくから好きにしていいよ。好きにできるならね…」
クロスケと呼ばれた黒豹、ブラックパンサーが体を起こす。
ひゅっと空気を裂く音がして矢が黒豹に向かって飛んでいく。
それを難なく避ける黒豹。
そしてそれを意に介さずすぐさま第二の矢をジェノスに放つリナさん。
ジェノスは放たれた矢を軽く手ではじく。
「厄介なお姉さんだね。クロスケ、やっちゃいな」
黒豹はリナさんを標的に定めたようだ。紅い目を光らせて隙を伺う。
俺たちもずっとボーっとしているわけにはいかない。
すぐさま剣を抜いて黒豹に向ける。
ジェノスは俺たちを一切気に駆けずにマントのフードに手をかける。
「待て!弓技《流星》!」
リナさんが矢を放つ。光の矢がジェノスを捉えた。
ハズだった。
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