Act.09
衝撃で躯が一歩ばかり前に出る。いくらなんでも強く叩きすぎだからな!
「痛いんですけど」と祐夏を睨めば、フイと顔を逸らされた。
「私にも恥じらいはありますよーだ。けどまぁ、いいわ。それは置いといてあげるから。それより着替えない?」
「着替えるたって、なにに?」
素早く顔を戻した祐夏に、オレは考えるかのように眉を寄せた。『着替えない?』と言われても、肝心の着替えがないではないか。
「リアンが言ってたじゃない。『お召し物はこちらに』ーって。これ制服でしょ? 動きやすいことには動きやすいけど、動きにくいことには動きにくいんだし。それに制服ダメになったら、なに着て帰ればいいわけ?」
「そう言われりゃあそうか。お前なんだかんだで考えてるんだな」
「まぁね」
確かに言う通りだ。汚してしまったら替えがない。まさか下着姿で帰るわけにはいかないだろう。たとえ魔法の世界だとしても、同じような制服を作ることはできない可能性だってある。そうなれば大変だ。
あ、そうだ。ゲームといえば。
「なぁ、祐夏。このゲームのジャンルはなんなわけ?」
「『剣と魔法と魔王だよADV+RPG』。RPGとは書いてあるけど要素は薄いし、ADVが主だってるかな。スチルもきれいでいい感じだよー。ここの会社のは操作性も悪くないから、次も買うつもり」
「あ、そう」
このゲームが女性(乙女)向けだと知ってはいるが、ジャンルまでは興味がなかった。言葉が素っ気なくなるのもしかたがないだろう。
反して祐夏は「そうだよー」と明るく返事をしながらタンスに近付き、一番上の棚を開けた。瞬間、「おぉ!」と感心した声を出す。
「なんかいっぱいあるよ、服」
「洋服タンスだしな。そりゃあ、種類があるだろうよ」
「これとかいいんじゃない? あ、でも、まだ開けてないところになにかいい服があるかもしれないわね」
取り出した服を畳んで戻し、「ここはどうだ!」と変なノリで残りの段を開けていく。解ったことは、どうやら春夏秋冬で別けられていることだ。七分丈もあれば半袖もあり、薄い生地の長袖もあればモコモコしたセーターもある。もちろん、ハーフパンツやジーパン、スカートなども揃えられていた。一体どれだけの服が収まっているのやら。
どれを着ようかと悩んでいれば、「あ、あの!」と張り上げた声がした。なんだろうかと振り返れば、そこにはリアンとユリシカ立っている。
「逃げ出してしまい申し訳ございません」
「謝らなくていいから。気にしてないし」
深々と頭を下げるリアンに慌てて手を振れば、それを見ていたユリシカが彼女の肩を叩く。
「よ、ヨシタカさん……!」
「お、おおうっ!?」
リアンの目からぶわりと浮かんだ涙にぎょっとする。なぜかといえば、オレの思い出の中で、祐夏を泣かせれば母親の鉄拳を食らうということが何度かあったからだ。いや、祐夏でなくとも女の子を泣かせば張り手だ。オレが原因なら解るが、そうでなくても鉄拳制裁なので、割に合わないと感じた幼少時代が懐かしい。
「そんなに泣くなって!」
慌ててリアンに駆け寄り、スカートのポケットを探る。女の子だしハンカチぐらいは入れているだろうと思ったが、そこには案の定なにかが入れられていた。
指先に触れた物体を取り出して見てみれば、それはタオルハンカチだと解った。四角形の白い。一ヶ所の隅には、ピンク色のうさぎの刺繍が入れられている。
「ほら、涙拭かないと」
瞼が腫れたら、かわいい顔が台無しだし。
ハンカチを差し出せば、リアンは小さく頷いてそれを受け取った。




