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Act.08

 近づくにつれて解るのは、ドアのでかさだ。あの部屋となんら変わらない。まぁ、同じようにつくられているんだろうけど。ぱっと見だけで判断すれば、違うのは装飾とドアノブの形だろうか。あっちは豪華だったし。いや、こっちも豪華といえば豪華だが、あちらには劣る。やはりある程度区別をつけているらしい。

 そしてドアの下に書かれたものは魔法陣だと解った。なんの魔方陣だか気になるな。いままさに踏んでいるが、害はない。……と思う。変な感じはしないし。

「ユリシカ、足下の魔方陣? にはなにか意味があったりするのか?」

 リアンとユリシカはなぜか魔法陣の外にいるわけで。

「はい。結界魔法です。『カミシロ』に危害が及ばないようにと」

「リアンたちが外にいるのは?」

「結界魔法ですので、物理的に壊すか、魔方陣を描かれた主様の許可を得るか、許可を得たものに許しを得るか触れていただくかしなければ入ることはできません。おふたりは『カミシロ』ですので、元より主様から許可が下りております」

「気になったんだけどさ、ふたりが言う主様って誰?」

 あともうひとつ気になるのは、魔方陣は物理的に壊れるものなのかどうかだ。だがそれは、いま聞くことではないだろう。

「私たちはミシェル・アデルバート様に雇われている身です」

「なら、主様はミシェルってこと?」

「ええ。きちんとお給金もいただいております」

 ミシェル・アデルバートということは、ファーストネームが『アデルバート』ということか。なんか響きがすげえかっこいいんですけど!

「そっか。それで、許すか触れるか、だっけ?」

「はい。そうしていただければ嬉しいのですが、お邪魔だと感じるようなら、していただかなくとも大丈夫ですよ」

「邪魔なんて思わねーよ」

 「なに言ってんだ」と笑いながら答えれば、ユリシカとリアンは顔を見合わせた。

 え、オレなにかまずいこと言った系ですか?

「――いままでの方々は、プライベートは邪魔されたくないと仰られていたので……」

「……ですから、そう仰ってくださるとは思わなくて……」

 頬を染めながらちらちらとオレを見るふたりはかわいい。なんだか抱きしめたくなってしまった。

「かわいい……!」

「うぇあっ!!?」

 背後から聞こえたその声に、躯がびくりと跳ねた。そして同時に、変な声も出てしまう。驚かすなっつの!

 重みが消えたと思えば、祐夏がふたりに駆け寄っているところで。

「なにこの子たち! かわいいんですけど! うちの隆二と大違いなんですけど!」

 そりゃあお前、隆二とは性別が違うからな。

 ぎゅっと抱きしめて、ぐりぐりと頭を撫でまくる祐夏に、ふたりは「あの」とか「ゆ、ユウカさんっ」とかあわあわしている。ああもう、かわいいなぁ。

 よしとオレも三人に駆け寄り、ユリシカの頭を撫でた。

「よ、ヨシタカさん……?」

「かわいいなーと思って」

「か、かわいい、ですか……?」

「うん。かわいい」

 ぽんぽんと撫でている手をべしりとはたき落としたユリシカは、かくかくとした動きでドアを開けた。ちらりと祐夏を見れば、リアンは未だに頭を撫でられている。

 ふたりともオレたちより数センチ小さいからか、頭を撫でやすい位置にあった。だから撫でたくなるのかもしれない。

「私たちがかわいいかは解りませんが! お部屋をご案内しますっ」

 耳まで真っ赤になっているユリシカは涙目だ。かわいいかわいい言いすぎたかな。でもかわいいしなー。しかし、だ。機嫌を損ねられたら空気が悪くなるだろう。ふたりとはいい付き合いをしたいから、それはごめんだ。

「祐夏、そのへんにしとけよー」

「はいはーい」

 オレの言葉にリアンの頭からぱっと手を離した祐夏は、軽快な鼻唄を歌いながら部屋に入っていった。変わり身が早いなと思った矢先に、「すごーい!」とか「わー!」とかはしゃぎ声が聞こえてくる。

「美貴すごいよ、ここ。ベッドが天蓋付き! レースがすっごいきれいだよっ」

「そうかよ――っておい!」

 ドアから顔を出した刹那、オレを部屋に引きずり込む祐夏の目は爛々と輝いていた。オレの目に飛び込んできたのは、シンプルだが豪奢な家具が配置された部屋だ。そのなかでもやはりふたつ並んだお姫様ベッドが一番目を引く。

 シングルサイズのその間にはテーブルが置いてあり、サイドテーブルの役割をしていた。そこに置かれたトレーの上には透明な水差しがひとつとカップがふたつ並べてあり、窓から差し込む日射しでキラキラと輝いている。

「きれいだよね」

「そうだな」

 天蓋から垂れる布は一見幾何学模様に見えるが、ネコやウサギというアニマル柄という遊び心がある。タンスや鏡台――全身鏡もある――など調度品にはひとつひとつ精巧な細工があり、ここは女の子が好きそうな部屋だ。たぶんお姫様だというような錯覚が生まれるからだろう。

「お召し物はこちらに」

 リアンの声に振り返れば、彼女はタンスの前に立っていた。

「解った。ありがとう」

 歩み寄って頭を撫でれば、彼女は眉を寄せる。怒らせたのかと手を離せば、今度は顔を伏せてしまった。

「悪い。頭撫でやすい位置にあるからさ」

「い、いえ……。私は……、怒っているわけではありません。その、顔を見られるのは、恥ずかしい……、ので」

 じっとリアンを眺めれば、耳がぶわりと赤くなった。最終的には顔を手で押さえながら、部屋から走り去っていく。

 それに気が付いたユリシカは、「あ、リアンっ!」とあとを追いかけていき、オレたちはまたふたりになってしまった。

「やだ、やっぱりかわいい!」

「恥じらいがないお前とは大違いだな」

 呆れながら紡いだ言葉に、祐夏の掌が背中を叩いたのは言うまでもない。




 

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