Act.10
目元を拭う彼女をベッド脇に案内して、そこに座らせる。
「恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありません……」
「大丈夫大丈夫。泣くことは恥ずかしいことじゃないだろ。祐夏なんてしょっちゅう泣いてるし」
主に感動でだ。しかもゲームで。いや、あのRPGは見ているだけのオレでも泣いたけどさ。シナリオがかなりよかったし。
「あのねぇ」と、隣で文句を垂れ始めた祐夏の声に「はいはいはいはい」と耳を塞げば、肘鉄でど突かれた。やはり祐夏の攻撃はどれも痛い。
「そうですね……、ありがとうございます」
「そうそう」
ふふふと笑うメイド二人に痛みを堪えながら笑みを返せば、リアンはハンカチをポケットへとしまう。え、それ、どうする気なんだ!?
「リアン、ハンカチは……?」
「私が洗いますよ。責任をもって」
「そうですか」
わざわざ洗ってくれるらしい。それはありがたいと、厚意に甘えることにした。オレが洗ってもいいんだけど、この世界に洗濯機があるのかは解らないし。
「話は変わりますが、そのお召し物を脱いでいただけませんか?」
「着替えろってこと? それなら祐夏と話してたところだよ」
「そうなのですか」
「それなら話は早いですね」とユリシカの話を聞くに、この服装では目立つらしい。一目で異界の者――『カミシロ』だと解ってしまうので、危険なようだ。――つまりは、魔王の討伐を阻止しようとする者に、命を狙われる可能性があるという。
「ならやっぱり、着替えた方がいいな」
「そうね。命を狙われるのはごめんだし」
「物騒な世の中だわ」とぶうたれた祐夏はタンスに向き直った。
「ま、ミシェル様が守ってくれるからいいけどね」
確かに祐夏の言う通り、ミシェルが守ってくれるだろうが、二人はキツくないか。いや、アルフィルトもいるからちょうどいいのか。
いやいやいやいや、オレは! 守られるのはごめんだから!
一瞬、守られることを想像したわけだが、嫌悪感しか湧かなかった。オレは『守られる側』ではなく、『守りたい側』だからな。男としては、いつかできるであろう彼女を守りたい!
「アンタに彼女ができるわけないでしょ。モヤシだし」
躯が細いのは関係ないだろうが! とごちるオレの考えを読んだであろう祐夏は、鼻で笑いながら無地のシャツと黒色のハーパンを投げてきた。それらはオレが着ているルームウェアに少し似ている気もする。
祐夏は祐夏で気に入ったものがあったのか、もう着替え終わっていた。いつの間に、だ。
柄がなく、胸元にワンポイントが入っているシンプルな上下を着た彼女は腰に片手を添えながら、もう一度バカにするかのように笑う。
「もしもみきに彼女ができたら、私も彼氏つくるわ」
――その前に、祐夏こそ彼氏がつくれなくないか。なにせ祐夏だからな。
とは口が裂けても言いません。
「そうか。頑張れ」
紳士なオレは祐夏にガッツポーズを送ってやった。がしかし、「彼女もできないみきに応援されたくないんだけど」と、逆に憐れみの視線を受けてしまう。
いつかできますけどね。いつか。
目の端に映るユリシカとリアンは祐夏が脱いだ制服を畳んでおり、オレも着替えようと思い直したのだった。
ちなみに、人前で着替えることになんら躊躇はなかったが、向けられる視線が痛いので、カーテンの向こうに隠れたのはこれが初めてである。




