Act.11
着替え終わりカーテンを開けた矢先、ノックの音と共に「いま大丈夫でしょうか?」というミシェルのくぐもった声が響いた。
ユリシカはオレの手にある制服を自身の手に掛けていたために、「はい」とそう答えるのは必然的にリアンの役目だ。
祐夏はなにをしているのかと探せば、ベッドに座りながら携帯を弄っていたようだ。つか、その携帯の充電は大丈夫なのか? 切れたら終わりだぞ。オレのも大丈夫だろうかとはっとして、手元にある黒色の携帯を見てみれば、電池は十分あるようだった。いやアレだ。みっつだと思うふたつかも解らんけど。
ちなみに着替えは思いの外うまくいった。男が女の子の躯をじろじろ見るのは如何なものかと思い、薄目だったのだ。狭い視界のなかで頑張ったわけである。
「――よく似合っていますね」
「それはどうも」
「失礼します」とドアを開けて近付くミシェルはにこりと笑っている。ただの部屋着だから似合うも似合わないもないと思うが、とりあえず礼は言おう。
王子の後ろを歩くアルフィルトは、ドアに佇んだままオレたちをガン見だ。そんなに見つめられてもなんも出ないぞ。あと美形のガン見は迫力があるのでやめていただきたく存じます。言葉には出ませんがね。
「ユウカさんもこちらに来てくださいませんか?」
「あー、はいはい」
「これを付けてくださいませんか?」
携帯をパンツのポケットにしまいながらオレの隣に立ったことを確認したのちに、ミシェルは手を取りそこに指輪を乗せる。シルバーのそれは、やはり細かな模様が彫られており、赤い石が嵌め込まれていた。見ようによっては婚約指輪だか結婚指輪だかに見えなくもない。
なんぞこれという顔をしているだろうオレたちに優しく笑いかけながら、ミシェルは話を続ける。
「『双波の指輪』です。あなた方の気を、こちらの世界の気に擬態させることができる装備品です。急いで作らせたので歪ですが」
「この石は?」
「それは『赤の宝玉』と言われる宝石です。私たちがいないときにケガをされた場合に役立つだろうと思いまして。『赤の宝玉』の特徴は、『回復の呪文』なしで持ち主の躯を癒すことができることなので」
祐夏の問いにミシェルが答えるが、『赤の宝玉』すげえな。しかしケガをする前提なのがなんとも言えない。
とりあえずハーフパンツのポケットにでも指輪を突っ込んでおく。なくさないように。というか、落とさないようにだな。さっそく右手の人差し指に指輪を嵌めて、角度を変えながら眺める祐夏が眩しいぜ。
「もう少しいたいのですが、時間がありません。夜にまた話をしましょう」
今度は寂しそうに笑うミシェルはオレの髪を撫でて「では夜に」と離れていく。
ちょっと待て、オレだけかよ!? そんなフラグはいらんがな!
だらだらと脂汗を流しながら、どうやってこのフラグをへし折ろうかと考える。このままいけばミシェルとラブエンドになるだろう。それだけは回避だ。それだけは……!
「みきぃ」
「にやにやしてんな」「いいじゃない。ミシェル様イケメンだし」
泣きたくなる衝動を抑え、肩に手を置く祐夏を睨む。
「なにがいいんだ、なにが。イケメンだろうがなんだろうが落ちませんからね!」
「ま、美貴は男だしねー。抗うのも仕方がないか。ちなみに私だったらもうゴロゴロに落ちていくわ」
「えらく早くね?」
「ミシェル様だからね」
「私がミシェル様を出すためにどんなに頑張ったか」と語り出すのを「解った解った」と手で制せば、祐夏は「解ればいいのよ」と大人しくベッドに戻って寝転がった。
まぁ、気持ちは解らなくもない。好きな女優さんが目の前にいたらオレだって落ちてるし。それこそ簡単にな。
「あー、やっぱいい感じにふかふかだわー」
「そんなことしてると落ちるぞ――……あ!」
ゴロンゴロンと回転する祐夏を見て閃いた。これは妙案だ。
「寝ればよくね!」
寝て朝を迎えれば、夜は過ぎている。
「バカね。次の日の夜が来るわよ」という祐夏の忠告は、ひとり興奮するオレの耳には入らなかった。




