Act.12
「――。――貴ぁ」
誰かが髪を撫でているような、頬を撫でているような気がする。
微睡みのなかでは誰かなんて解らないが、いま起きるのも嫌だ。まだ寝ていたいんだよ。「なんなんだ」と手を払ったような気がすれば躯に衝撃があり、強制的に起こされた。
「っぐ……!!? ……祐夏さん……、横暴すぎやしませんかね」
のし掛かる祐夏は「やあやあ、おはよう」と口元を緩ませる。だが次の瞬間、「暇なんですけど」と唇を尖らせた。
暇だと言われても、オレは知らん。
「散歩に行ったんじゃなかったのか?」
そう問えば祐夏は「そうなんだけどさぁ」と曖昧に答えた。どうやら散歩は終わったということか。
「オレは寝る!」と宣言してからリアンとユリシカが畳んだ服を手に「置いてきますね」と部屋を出ていこうとするが、「ヨシタカさんは『寝る』と仰いましたが、ユウカさんはいかがなさいますか?」と祐夏に声をかけた。
「城内の散歩はできる?」
「構いませんよ。立ち入り禁止区域以外は、町民にも解放しておりますから」
「へぇ。案外良心的なんだね、ここ」
リアンの言葉に「なら散歩に行くわ」と答えた祐夏を尻目に、オレはベッドに入った。ふかふかなそれにすぐ気持ちが持っていかれてしまう。
天蓋付きからして、オレのベッドとはえらい違いだ。枕もシーツも布団も全部触り心地がいい。オレのは家具屋で買ったそれなりのものだが、城にあるという特性上、これらは高級なものなのだろう。
「じゃあ行ってくるね」
「気を付けて行けよ」
聞こえた声にはっとして顔を動かした。「解ってるって」と祐夏は半分呆れながらドアを閉めていく。
しんとなる室内を眺め、目を閉じる。寝るが勝ちだ。
どうかこのまま過ぎますように。神様、お願いします。オレはミシェルとどうこうなる気はありませんので。
眉間に寄せた皺が消えたのは数分後。祐夏がのし掛かってきたのはいつか解らない。「お前なぁ」と起き上がろうとすれば、自然と離れていく。
「――それで、いま何時なわけ?」
「えーっと……、この携帯では午後二時半過ぎ」
「なるほど。というか聞いておいてアレなんだが、いつ寝たか解らんから時間聞いても意味なかったわ」
「なにそれ」と祐夏は鼻で笑う。「三十分は寝てたわよ」と。
「そうなのか……。結構寝たな」
「これからどうすんの?」
「もう一度寝るに――」
「決まってるだろ」と言う前に、ドアが開いた。その音にびくりと躯が竦まるが、「あ……、申し訳ありませんっ。起こしてしまいましたか?」と声の主は慌てながら紡いだ。謝る動きに合わせて、縛った髪がゆらゆらと揺れている。
「いや、大丈夫! ユリシカが来る前に起きてたから!」
「そうなのですか……?」
「起こしたの私だし、そんなに謝らなくていいって」
「解りました。いまリアンが来ますから、もう少しお待ちください」
小さく頭を下げたユリシカは「失礼します」とベッド横に置かれた丸テーブルのイスを持ってきて、そこに祐夏を座らせる。
「私は大丈夫だから、ユリシカが座ってよ」
「お気持ちだけで十分です」
立ち上がった祐夏は、にこりと笑うユリシカに難しい顔になった。世話をされるのはどうにも慣れないのだろう。
「私も寝る!」
考えた末だろうその言葉に、オレはすぐに端に寄った。
横になりながら祐夏は「サンキュー」と肩を叩いてくる。
「肩が凝るわ……」と続く小さな言葉には、全力で頷いておいた。




