Act.02
「嘘、だろ……」
生い茂る木々が吹き抜ける風に靡いている。見た限りここは――森だ。さっきまで一軒家の二階にいたのに、いつの間にか森に来ていることになっていた。
十中八九さきほどの怪しい光の所為だと思うが、他の要因もあるかもしれないので断定はできない。
「つか、祐夏は!?」
祐夏がいないよな!?
辺りを見渡しても、木々ばかりで人はひとりもいないようだ。猫の子一匹もいないこの森で、オレはひとり迷子か。もしかしたら、祐夏も一人きりなのかもしれない。女の子がこんな森に一人だなんて、なにかあったら大変だ。
いますぐに探しにいかなきゃとは思うが、それでもこのわけが解らない場所から動くに動けなかった。迷ったら終わりだからだ。
「どうしようか」
辺りをうろうろとしたが、なにもいい案が浮かばない。「くそっ」と足元の石を蹴れば、違和感があった。いまさら気がついたが、ない胸が膨らんでいる。しかもスカート姿だ。っていうかこれ、ブレザーじゃないか。
「なに……?」
なんだこれと躯を触るが、違和感はどんどん膨らんでいく。本来ないものがあり、あるものがない。
まさかまさかまさかまさか。まさか!
青くなる顔と同時に答えに行き着く先に、着信音らしきものが鳴り響いた。妙に明るい曲調に思わず肩を竦めたが、どうやら胸ポケットから聞こえてきている。
「……はい」
誰のか解らないがとにかく携帯に出てみれば、相手は『繋がった!』と驚いていた。
『トリップだよ、トリップ! みきは主人公のユカに、私は主人公の友達の真優になってんの』
「ゆ、うか……!?」
この声は祐夏の声だ。なんだかわけが解らないことを言っているが、ゲーム中の祐夏はときどきわけが解らないから、それだろう。
「はぁ? お前なに言ってんだ! トリップって……、コーヒーでも飲むのか?」
『違う! ドリップじゃないし! トリップだからね、トリップ』
「意味解んねぇし」
『だから――』
祐夏の声にほっとしたのもつかの間、怒濤の説明を聞かされるが、いつもとは違いわりと簡素だった。
オレたちがいるのは、祐夏がプレイしていた乙女ゲーム『険と魔法と魔王と乙女』の中らしい。そして、祐夏は主人公の友達の柊真優に、オレは主人公の藤島ユカになっているという。因みにユカは祐夏がつけた名前で、初期は藤島留衣という。このゲームは、名字の変更はできないようだ。そこはどうでもいいけど。
『で、私がなんで知ってるかっていうと、ミシェル様が教えてくれたの』
「ミシェルって、金髪碧眼のアレか」
関連雑誌の発売日には雑誌を持ってきてはオレに見せるから、大体は解るようになっているオレもオレか。公式サイトもその都度見せられているし。もちろん無理矢理な。
『ミシェル様が言うには、ラスボスを倒せばいいって』
肝心のミシェルは、金髪碧眼の王子様キャラだ。彼は隠しキャラで、他四人を攻略しなければ出せない。祐夏は早々に、雑誌と攻略サイトを見ながら四人を攻略し、ミシェルルートに入っていた。しかも、ミシェルルートは例え攻略しても攻略サイトにも載せてはならないと公式からお知らせがでているので、祐夏は独自でプレイしていた。つか、ミシェルはゲームのキャラなのによくそんなことを知ってるよな。
『いま、美貴を迎えに行ってるから。私はアルフィルトと一緒だから大丈夫』
アルフィルトはミシェルを守る騎士だ。ミシェルと同じく男前である。まぁ、乙女ゲームの攻略キャラは全員カッコいいんだけどさ。でなければ乙女ゲームじゃない。反対に、ギャルゲーの攻略対象キャラはみんな可愛い。
「待て待て。迎えにくるとか無理だろ……。オレがいるの森だけど」
来れないんじゃねーの? 森だし。暗いけど、一応太陽の光が入るからまだ安心だが、暗くなればどうなるのか。考えただけで気分が落ちる。
『大丈夫! ミシェル様との親愛度が高いから』
どこらへんが大丈夫なのか。少しも大丈夫なように聞こえないんですけど!
押し黙るオレに、祐夏は『充電切れたらヤバイから』と通話を切った。薄情な奴。祐夏がモテないのはこのへんもあるな。
オレも通話を切り、折り畳んだ携帯を元に戻す。やはり胸は膨らんでいた。祐夏の言う通りに、オレは主人公である『ユカ』になってしまったんだろう。主人公も可愛い子だったな、そういえば。攻略キャラに対して主人公の情報はあんまりないけど。
しかしゲームの世界にトリップして女の子になってしまったなんて、どうなってんだよ。どう考えてもバグの上をいってるよな。ラスボスを倒せば元の世界に戻れる保障もないし、どうしたらいいんだろうか。




