責任
「お、前のせいで」
「え?なぁに?」
膨れ上がった憎悪が、せき止めきれない苛立ちが、行き場を求めてあふれ出る。
「お前のせいで!お、俺は何回も死にかけて.....!!......っ!お前が、お前さえいなければ.......っ!」
「何もかもうまくいってたって?」
そう冷たく言い放つ、ノーニャの瞳には侮蔑の色が濃い。
思わず身じろぐダインに重ねて言う。
「私がやらなくても、あなたはここに落とされてたと思うけど?」
「......っ!で、でも!俺をここに落としたのはお前だ!お前なんだ!お前のせいなんだ!......そもそも、俺はただあいつを、レナを連れ戻したいだけで......」
子供のように喚き散らし、恥辱に醜態を重ね塗りしていく。
怖いのも痛いのも苦しいのも嫌いだ。全部お前のせいだ。
お前がここに突き落したからこんな惨めな思いをしなくてはならないのだ。
お前がお前がお前がお前がお前がお前がーーー。
清々しいまでの責任転嫁を織りなすダインの口は、無意識のうちにひどく歪んでいる。
ノーニャを貶めることで嫌な部分から目を背けていられる、その安心感におぼれるように。
「お前さえ、いなければ......」
自分はただ、幼馴染を連れ戻したいだけだと、勝手に巻き込むなと張り裂けんばかりに主張したい。
しかし、目の前の苛烈な少女はそんな甘えを許すわけもなく。
「自分の弱さを私のせいにしないでくれない?そもそも......」
目を伏せ、なにか思案していたノーニャであったが、それも一瞬。
こちらを射抜くように視線を這わせ、艶やかな唇を震わせた。
「前にも言ったでしょ?弱者に選択権なんてないの。選ぶためには、力が必要なんだよ?」
「......それが、ソーサラーの特権だと。そう言いてえのか。俺は凡人で、お前は超人だと」
「私だって超人とまではいかないよ。そういうのは......」
ちらと視線を外した先には、ダインの隣に立つヴァイスの姿が。
よくよく見ると、ノーニャの体にはあちこちに打撲痕ができている。
それも、できて新しいものだ。
その傷から、おおよその戦況が伺えた。
「まぁ、私は後天的なソーサラーだからね。贅沢は言わないよ。......というか、そこまで弱さを自覚しながら、なんで挑戦しないのかなぁ?そういうの、怠惰っていうんじゃない?」
呆れたような視線を向けられるダインだが、何のことやら見当もつかない。
「挑戦......?お前、何言って」
「あれ?お仲間さんから聞かなかった?ここが、どういう場所かってことを」
「......聞いたさ。ソーサラーを作る実験場なんだってな。でも、龍の肉がいるとかって......いや、まさか」
言葉を紡ぐ中であることに気が付き、ダインは両目を見開いた。
実験が始まる前、博士はゴールを目指せとの文言を残していた。
そして、ソーサラーになるためには龍の肉が必要。
ならば、ゴールに待ち受けるものとはなにかーーー。
その様子にノーニャはいたずらな笑みを浮かべ、
「気づいた?そう。ダイン達が目指してたゴールには......」
たっぷりと溜め、妖しく炎を靡かせながら、ノーニャは言い放った。
「龍がいる」
ーーー龍。
かつてレナがみたいとせがんだ、伝説上の生き物。
ノーニャの言う通りなら、それがそう遠くない場所にいるということになる。
「ま、仮にソーサラーになれたとしても、まともな人生は送れないと思うよ?」
ソースは私~と、自虐し天を仰ぐノーニャ。
そんな彼女はどこか儚く悲哀に満ちたように見えたが、それを推し量る義理も動機もダインにはない。
ノーニャはこちらを向き直ると、「それに......」と続けて。
「龍の巫女と旧友の仲。そんな人が、平穏な生活を望めるわけがないでしょう?」
どこかで聞いた単語が脳をめぐり、胸を打たれたような衝撃を受ける。
「巫女.....?お前、まさかレナについて知ってんのか?レナが龍の巫女ってのはマジの話なのか!?」
「悪いが、おしゃべりはここまでの様だよ?ダインボーイ?」
自分を連れて瞬間移動し、ノーニャの攻撃から守ってくれたヴァイスはそう言うと、森の方へ顎をしゃくった。
その先を見やると、よろよろと起き上がる鬼面の男の姿が。
「二体一はさすがに分が悪い。ここはいったん引かせてもらうっ!」
「ま、待ってくれヴァイスさん、まだノーニャに聞きたいことが.....!」
言いかけて、視界が急に入れ替わる。
この身を突き刺すような威圧感が消えたこと。
そして体を包む暖かな魔力を感じたことにより、ヴァイスの瞬間移動が発動したのだと遅れて気づいた。
ご愛読ありがとうございます!
あと一話で一章が終了いたします。長かった!
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