再会
身長はダインよりやや高い。
鬼面は筋肉質な体つきをしていて、空いた目の部分から赤い光が揺らめいている。
冷酷な低音が鼓膜を揺らした瞬間、はっきりと自覚した。
ーーー怖い。
立ち向かうだなんて冗談じゃない。
無茶だ。無謀だ。意味がない。価値がない。勝ち目が......ない。
ダインは、今まで相対したどの存在よりも恐ろしい威圧感に、ポッキリと闘志を折られてしまっていた。
このまとわりつくような殺気が、恐ろしい。
自分より何倍も強いクルルを瞬殺した、目の前の男が怖くてたまらない。
切られるのが、刺されるのが、凍らされるのが。......死ぬのが、怖い。
「うぁ、あああああああああああ!!」
先ほどまで死への抵抗感が薄いなどとほざいていたのが噓のように、みっともなく生にしがみつく。
震える膝を無遠慮に叩き、凍った靴を無理矢理動かし背後を向いた。
そして、
「はぁっ、はぁっ!」
ダインは口を開けたまま、惨めったらしく走り出した。
どこでもいい。一秒でも速く、この場から逃げ去りたいという欲求に身を任せ。
「はぁ.....先ほどの少女でさえ、始めは威勢がよかったぞ」
背後から何かが聞こえた気がしたが、激しい耳鳴りのせいで脳へ到達することはない。
「く、くるなあああ!!ぐぁっ.....」
視界がぐらぐらと揺れるのを感じながら、下半身に力をこめて敗走する。
走って走って走って走って........衝撃。
突然背中に鈍い痛みが走り、顔から地面に倒れこんだ。
口に含んだ砂を反射的に吐き出す。遅れて、自分は今踏みつけられているのだと自覚した。
背中に突き刺さる刃のような殺気に全身が逆立ち、史上最大級のアラートが鳴り響く。
ダインの顔面は病的なほど血色を失っており、滝のように流れる冷や汗が体温を奪っていった。
せめてもの抵抗として身をよじり、殺意の根源へと視界を移すと。
「なにか、言い残したことはあるか?」
振り向いた目の先に、嫌にきらめく氷剣があった。
ダインが今まで戦ってきた相手と言えば、少女、魔物、メスガキだ。
いずれも強敵であったことには変わりないが、微かにでも勝機があった。
このちっぽけな命を捨て駒にし、ほんの少しの度胸と根性を見せれば勝ち筋を見出せる相手であったのだ。
しかし、この鬼面の男は違う。
「.....っ!」
ダインは咄嗟に自分の腰辺りに手を伸ばし、魔装を掴む。
そして、この鋭利な黒剣の切っ先をーーーー
「......ぁ」
突き刺そうとし、ダインはあまりにも遅すぎる現状把握の後、無様な吐息が漏れた。
今まさに命の主導権を握っているのは鬼面だ。
ダインが鬼面の心臓を貫くより速く、自分の首が飛ぶだろう。
「......ひっ」
ーーー突如包み込まれるような絶望感が全身を襲い、とてつもない不快感とともに嗚咽がもれた。
ダインの不死身の能力は限定的である。
剣に魔力を吸わせなければ、発動しない。
ダインはカタカタと震える剣先を見やり、その先になにも存在しないのを確認すると。
「......た」
「た?」
「たすけ、て....ください......」
汗と土と涎で汚れ、恐怖でゆがんだ口が絞り出した言葉は、滑稽なほど惨めな命乞いであった。
男は一瞬固まった後、心底軽蔑した視線をのぞかせると。
「これだから弱い者は嫌いなのだ」
へらへらと媚びへつらうダインの首元に氷剣をあてがい、
「その醜悪な顔のまま逝け」
ダインの首を落とし、命を散らす斬撃が振り下ろされるーーー
瞬間、火花が散った。
「!!」
「ちぃとばかし、やりすぎだぜ......鬼野郎」
見れば、黄金に輝く脚が鬼面の氷剣を弾き逸らしていた。
直後、眼前で黄金の光が瞬いたその刹那。
「.....ぐっ!!」
光速で真横に振り下ろされた脚が鬼面の腹部に突き刺さり、男は小さく呻くと目で追えないほどのスピードで宙を舞った。
凄まじい轟音の後、地面を何度か跳ねる音が遅れて続く。
そして、メキメキと倒れる木々の悲鳴が響いた後、森には静寂が落ちた。
「......ヴァイス....さん?」
「危ないところだったなっ!少年。無事で何よりだ」
きらめく歯を見せつけながら、命の恩人は手を差し伸べてきた。
ダインはその手を取ろうとし......その手を引っ込めた。
彼のあまりの眩しさに、心が毟られるような不快感に駆られたからだ。
「......大丈夫っす....一人で、立てる」
先ほどまでの自分を思い返し、酷い自己嫌悪に苛まれる。
自分の弱さが許せなくて、涙が出そうになるのをぐっとこらえながら。
「......それより、クルルさんが......死」
「その話は後でじっくり聞くとしよう、それより......っ!」
言いかけた瞬間、またしても上空から光が落ちた。
その光はまるで怒りの具現のように赤々と燃えており、嫌に煌びやかなヴァイスとは似て非なるものであった。
なにより驚いたのは.....
「ノー.....ニャ?」
乱れた桃髪をたなびかせ、先ほどダインがいた場所目掛けて落下の勢いを借りて蹴りつける紅蓮の少女。
ーーーそれは自分をだまし、ここの実験場へ突き落した張本人であった。
「......?ああ、あまりにもひどい顔してるからわかんなかったよ。......久しぶりだね、ダイン」
ノーニャは艶やかな口元を歪め、開口一番、色んなものでぐちゃぐちゃのダインを嘲笑した。
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