旅立ち
「......すまないね。私の力量不足だ。クルルを死なせたうえ、君まで失いかけた」
トーンを落としたヴァイスの声は、本気で悔いていることを感じさせるものだった。
見渡す限りの静かな森の中で、彼の謝罪が響き渡る。
それが、無性にダインの心を逆撫でてしまって。
「力不足は俺のセリフだろ.....!?なんだ?俺への皮肉のつもりか!?......くそっ」
失意の中、命の恩人にさえ噛みついたことへの罪悪感が、さらにダインの心を蝕んでいく。
戸惑い、というよりも憐れみに近い色を浮かべるヴァイスに、いたたまれなくなったダインは話題を変える。
「......ヴァイスさんの瞬間移動の門って、もう出せないのか?」
「残念ながら、ここから脱出できるほどの距離は稼げないな。せいぜい、この施設の範囲内に留まるだろう......今日ほど、自分の弱さを感じることはない」
またしても本音で悔いる様子のヴァイスに、ダインはかける言葉が見つからない。
ここから出るという選択肢は、そもそもグリムを連れ出していない現状、取れない選択肢だ。
「ヴァイスさんと一緒に、グリムの元へ向かって皆と合流。そんで、体力を回復させて脱出する.......ってのは?」
「そうしたいのは山々なんだが......」
そうこぼすヴァイスの視線の先には、空を二分する赤い閃光、そして大地を白く染める白光が。
「私の完全回復まで、彼らは待ってはくれないだろう......まったく、困ったものだ」
「一応聞くんだけど、一人で二人を相手できたり......?」
ダインの質問に対する答えは、力なく首を振るヴァイスの身振りでお察しだった。
しばしの沈黙が落ちた後、ダインはあることを思い出した。
懐をまさぐり、取り出したのは小柄な魔道具だ。
「確か、ゴールの場所を指すとか言ってたよな......」
すっぽりと手に収まったそれは、ダインの後方を指し続けていた。
「なぁ。ヴァイスさん、この魔道具のさきにでっかい魔力を感じないか?」
「......?ああ、確かに禍々しい魔力を感じるとも。それがどうかしたか?」
ヴァイスの解答に、ダインはニヤリと笑みを浮かべた。
確信を得た。
間違いなく、やつはそこにいる。
そして、自分を悩ます問題のすべてを吹き飛ばす手段もそこにあるのだ。
この実験場の目的、そしてゴールの先からあふれる禍々しい魔力。
今までのピースがはまっていき、ダインに決断を迫ってくる。
「そこにいるんだな。ーーー龍が」
針の指す場所を見るダインの表情は、あたかもそれを歓迎するかのようなものだった。
「......ヴァイスさん。二人のソーサラーを相手にするのはきついって。自分は弱いって。そう言ってたよな?」
「突然傷口をえぐられてびっくりした......が、事実だね。残念ながら」
肩をすくめ、力なく肯定するヴァイス。
自然と拳に力が入り、きつく歯を噛み前を向く。
「ソーサラーになれたら、全部うまくいくはずだ。何もかも」
ソーサラーになれば、ノーニャやあの鬼面だって敵じゃない。
ソーサラーになれば、グリムを助けられる。
ソーサラーになれば、レナだって連れ戻せるに違いない。
禍々しく嗤ったダインは、そのいびつさに気づくことなくヴァイスへ申し出た。
「俺をそこへ転送してくれ。俺は......ソーサラーになる」
通信を聞いていないヴァイスは、ソーサラーになることのリスクを知らない。
しかし、邪悪に歪んだダインの顔から嫌な物を感じ取ったのか、
「ソーサラーになるだと?バカげた妄言......というわけでもなさそうだ。」
ダインの目を見通すように見つめた後、「しかし.....」と眉をひそめ。
「嘘は言っていないようだな。......しかし、あんな禍々しい魔力だ。碌なことにならないと思うが?」
「ならどうすんだよ。このまま二人から逃げ続けるのか?......ヴァイスさんの魔力が底なしってんなら、話は別なんだろうけど」
肩をすくめるダインの指摘に、ヴァイスは苦し気に唸ると。
「ふむ、一理ある......か。ソーサラーになるという件について詳しく話を聞きたいところだが......」
ヴァイスは振り向き、先の方角を見て二つの閃光がもうすぐそばまで迫っているのを確認すると。
「悩む時間もない、か」
「安心しろよ。ちゃっちゃとソーサラーになって、すぐ戻ってくるさ。それまで頑張って耐えてくれ」
「頼もしい事この上ない話だが........ダインボーイ?本当に、大丈夫なんだな?」
念を押すように、ダインを両目に収めて問いかける。
ダインはひらひらと手を振ると。
「心配すんな。ヴァイスさんはただ、俺の帰りを待っててくれよ。......それで、全部うまくいくんだから」
その答えに納得したのか諦めたのか、ヴァイスはこちらを案ずるように見やると、光沢に包まれた手を伸ばしてきた。
「......死ぬなよ。ダイン」
「必ず戻ってくる。ヴァイスさんも、死ぬんじゃねえぞ?」
生意気な、と彼は微笑し詠唱を開始する。
体が淡く光り始め、温かい魔力が通っていくのがわかる。
そして、彼の後方から二本の光が迫るのを見届けたのを最後に。
「幸運を祈る」
ダインの視界は、眩い光に包まれ......何も、見えなくなった。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
第一章、完結です!
そして、第二章へと突入したいところなんですが......少し、投稿するまで時間がかかりそうです。
しっかり書ききってから投稿したいので、2~3か月ほどお待ちいただきたい!
その分完成度は一章より爆上がりする予定なので、楽しみに待っててください!
では、また数か月後に!




