終わらない暗闇
数メートルから先は全く見えない暗闇の中を、先導するコログが持つ光だけを頼りに進んでいく。
足取りは重く、両者の間に会話はない。
鼓膜を揺らすのはペチペチという足音、鎧の擦れる金属音、苦しい息遣い、そして頭上から落ちる水滴の音だけだった。
何度見たかわからない二又の分かれ道と遭遇し、失望にも似た息をもらす。
「......こっち」
力なく左を行こうとする男の肩を寸でのところで掴み、少女は溜まっていた胸の内をさらけ出した。
「もう我慢できない!!代われぇぇぇぇぇ!!!!」
「!?」
体をビクつかせ目を見開く青年に侮蔑の表情を向けながら、グリムはその場に腰を下ろした。
有無を言わせぬ様子に、思わず正座するコログ。
いったいどうしてこうなった。
頭を抱え心の中で毒づくと、
「......船長命令よ、作戦会議を始めるわ」
第一回、グリムとコログの作戦会議が幕を開けた。
時は少しさかのぼり、数刻前。
目覚めた場所から見て前方。流されてきた渓谷とは反対に、ぽっかりと口を開けた暗闇を見つけたグリム達。
「ほかに選択肢はないみたいだし、行くしかないね......グリムちゃん、はぐれないようにね。何かあっても絶対守るから。安心して付いてきてね」
「りょ♡」
必死に勇気づけようとするコログに軽く返事し、眼前に影をのばす洞窟を見やる。
この先に出口がつながっている保証などないが、ほかに行き場もないので消去法で行くしかない。
しかし、どうにも嫌な予感がする。
どうかこの勘が外れてくれますようにと祈りつつ、コログの後に続くグリムであったが......
「なぁ、見てくれよグリムちゃん。道が分かれてるぞ」
「言われなくても見えてるって......はぁ、どうしたものか」
暗闇をおっかなびっくり牛歩で進むコログに白い眼を向け、「こいつ大丈夫か」と心配しながら数分ほど歩くと、分かれ道に遭遇していた。
「僕の予想だと左が正解の道だと思うんだけど、どうかな?」
「......根拠はあるの?」
「ない!...けど、しいて言うなら.......勘、かな?」
ライトに照らされた嫌に純朴な笑顔に顔をしかめ、訝しげにコログを見つめる。
「私の勘は右って言ってるんだけど。......私の勘ってよく当たるのよね、実は。そこんとこ考慮して冷静に考えると右.....ってちょっと!勝手に進まないでよ!」
「大丈夫大丈夫!言ったでしょ?大船に乗ったつもりでいろって!」
ぐんぐんと光源が離れていき、慌ててコログの後を追う。
ガチャガチャと鎧を揺らすコログに唇を尖らせ、
「なんでこういう時だけ即決なのよ」
「やっぱり決断力って大事だよね。戦闘訓練の時、教官に口酸っぱく言われたっけな......」
遠い目をしながら思い出に耽るコログの足取りはいつの間にか軽くなっている。
暗闇に慣れ、とくに脅威となる魔物などに遭遇しないことに安心感を覚えたのだろうか。
こうしてみると、堂々と先を歩き選択をためらわない彼が、不思議と頼りがいのある男に見えてきた。
「......ま、いっか。頼りにしてるよ~おにいさん」
そうしてグリムは若干の違和感を覚えつつも特に口を挟まず、行く先々で待ち構える分かれ道に対してもコログに舵取りを一任した。
ーーーこれが、全ての間違いであった。
グリム達は何度も何度も同じような分かれ道に遭遇し......前方も後方も見渡せない暗闇の中で、途方に暮れていた。
時は現在。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、グリムちゃん。代われって、どういう.....」
「言葉通りの意味よ!お兄さんは不甲斐なさを噛みしめて、床に転がる埃の真似でもしてたらいいわ!」
「酷い言われようだね!?言い返す言葉もないけども!!」
作戦会議兼コログの罵倒会で多少の鬱憤を晴らしながらも、グリムは一人思案する。
「何度も何度も同じような分かれ道......てっきり同じ場所をぐるぐるしてるのかと思ったけど......」
ちらと二又の中央、二つの道を隔てる細い壁に目をやると、そこには傷一つない岩肌が広がっていて、
「跡がないってことは全く違う場所っ......あーもう!どうなってんのよ!ここ!」
3回目辺りから違和感を感じ、傷をつけて歩いていたグリムだったが目論見が外れ頭を掻きむしる。
前歩も後方も見えない暗闇の中、小さな明かりだけを頼りに進んできたのだ。
進めど進めど変わらない景色に焦燥感が募り、永遠にここから出られないのではないかという恐怖に見舞われ、苛立つグリムを誰が責められようか。
「あ、あの......」
「なに!!」
おずおずと挙手をしたコログを鬼の形相で睨みつける。
コログは完全に委縮してしまっていて、巨躯に見合わぬほど小さくなりながら。
「ご、ごめん。......僕の勘なんかに頼っちゃったせいで、こんなことになって......」
悲壮に顔を歪ませながら、コログは唇を引き締め許しを請う。
その顔に何を見たか、グリムは瞳を一瞬揺らめかせると、
「......別に。私にだって、お兄さん一人に任せっきりにした責任があるし」
言って、コログに顔を背けるグリム。
その背中がやけに小さく見えた。
コログは絞り出すように言葉を探し、
「.......っ!あ、その、グリムちゃん!」
「.......なに」
その失望とも拒絶とも取れる、暗く淀んだ紫瞳に、
「......なんでも、ない」
みっともなく行き場を探して開閉させる口を、静かに閉ざすことしかできなかった。
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