グリム、会合
暖かな温度。そしてそれに不相応な水流の音が耳を打ち、グリムの意識は覚醒した。
背中にごつごつとした感触が伝わり、いつも就寝しているベッドでないことに遅れて気づく。
重い瞼をゆっくり持ち上げると、視界に飛び込んできたのは淡い灰色。
同時に、右から強い光が瞼を焼くのを感じた。
見知らぬ天井をぼんやりと眺め、そのまま光源へ首を傾げる。
瞬間視界に映ったのは光る携帯用ランプと、楽な姿勢で座る聖騎士の姿だった。
柔和な印象を受ける青年だ。
ベージュ色の短髪をかき上げ、熱心に濡れた鎧を拭いている。
年はグリムよりも少し上だろうか。優しそうな顔とは裏腹に、しっかりと引き締まった筋肉をしていた。
「......あ!!」
ぼんやり靄のかかった頭で傍観していると、ふと聖騎士がこちらを振り向いてきた。
彼はパッと笑顔を弾かせ、口元を緩ませる。
「目が覚めたんだね!よ、よかったぁ......調子はどう?どこか痛むところはある?」
優しい声に誘われるまま、上体を起こし自分の体へ目を配らせる。
なるほど、暖かいわけだ。
体を覆うほどの大きさの毛布が掛けられているのを視認し、なぞの温度に納得感を覚える。
この暖かさを手放すのは非常に惜しまれたが、中を確認せざるを得ない事情がグリムにはあった。
......なんだろう、この違和感は。心なしかいつもより足がスースーするような?
下半身の心細さに抗えず、名残惜しそうに毛布をめくるとーーー。
瞬間、グリムは大きく目を見開いた。
それもそのはず、グリムがたった今着ていたのは普段着用している服より一回りは大きい、男物のシャツだったからだ。
さらにその先へ視線を這わすと、手入れの行き届いた生足がお出迎え。
ちらと辺りを見渡すと、濡れたはずの自分の衣類は無防備にも岩肌に干されていた。
辺りにいるのはこの青年以外に見当たらない。これらの状況から推測される結論は......
「......えっち」
「命の恩人に向かって失礼じゃないか!?......め、目はつぶってたから!!」
少し顔を俯かせ、両手で体を抱きしめるポーズ。
そんなグリムに耳まで真っ赤にしながら、手で顔を覆い必死に抗議する青年。
そんな彼の様子に耐え切れず笑いがこぼれると、青年も揶揄われていたのだと気付いたのか「勘弁してくれ......」と吐息。
「冗談だよ♡……助けてくれてありがとね、おにーさん♡」
ウインクしながら心からの感謝を述べ、今後の関係性がわかりそうなやり取りを交わしたグリム達であった。
どういたしまして......と照れ臭そうに顔を逸らした青年を尻目に、グリムは本来の目的を思い出す。
フロストに付けられた、耐えがたい痛みの発生源があったはずだ。
再び彼の私物であろうシャツに視線を移し、めくって傷口を確認する。
見れば胴体には包帯が巻かれており、右脇腹付近は赤黒い色に染まっていた。
多少の痛みを覚悟で立ち上がると......
「あれ?痛くない......?」
状況から察するに、渓谷に落ちてからさほど時間は立っていないはずだ。
この短期間にここまで傷は治るものなのだろうか......?
眉をひそめ、首を傾げるグリムに答えるように、青年は口を開いた。
「君に巻いたのは麻酔効果つきの包帯だよ。だから、あんまり激しく動かないほうがいい。痛みがないからって、完全に治ってるわけじゃないからね」
彼は目じりを下げながらも、たしなめるように釘を刺す。
「それって結構高いやつでしょ?私になにを求める気?......ハッ!まさか、こんな幼気な少女に見返りとして欲望の限りを......!!」
「尽くしません!......まったく、君はどうしても僕を変態に仕立て上げたいみたいだね!?」
命を救われた上に高価な魔道具まで使われたとあってはそれくらいの要求は飲んでしかるべきと覚悟していたのだが、彼にそのつもりはないらしい。
負い目を感じるような瞳で青年を見つめると男は顔を綻ばせ、
「聖騎士として子供を助けるのは当然さ......あ、自己紹介がまだだったね」
青年は姿勢を正し、グリムに向き直り片膝をつくと。
「僕の名はコログ。聖騎士コログだ。......君を、必ずここから連れ出すと約束しよう。だから大船に乗ったつもりでドーンと構えていてくれ!」
逞しい胸板をドンと叩き、柔和な印象にそぐわぬ男気を見せつけるコログ。
そんなコログに心を持っていかれ、そのまま墓場までゴールインーーーとはならないのが、グリムがグリムたる所以だろう。
ーーーやはり、聖騎士だったか。
これが、グリムが彼の自己紹介を聞いて初めに抱いた感想であった。
彼らからすれば、グリムの立場は微妙なところにある。
コログが属するフレイヤ聖騎士団の掲げる掟は二つ。神フレイヤへの絶対的な信仰と悪の殲滅だ。
悪事を働いていたけどもうやめました。だから襲わないで下さいと言って、通じる相手だろうか。
おそらく、無理であろう。
そもそもグリムはフレイヤ教に対していい印象を抱いていない。
素直に話して得られる信頼よりも、敵意が勝ると判断したグリムは......
「私はグリム。ここに連れてこられた可哀そうな被害者なの。......泥船じゃないって信じて乗ったげる。頼りにしてるね?おにーさん♡」
艶やかな唇を震わせ、息を吐くように嘘をついた。
ご愛読ありがとうございます!
まだまだ完結には程遠いけど、着実に進んでるの実感しております。
どうか、最後までお付き合いいただけると幸いです。
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