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不滅のリーパーキング~死体の山で梯子を作れ。あなたに届く、その日まで~  作者: 柳原ミツキ
第一章

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落下する少女

「......まずいわね」

霜焼けによって赤く染まった左手を温めながら、グリム・ホッブスは顔を歪めた。


ここは祠から少し離れた森の中。

光が木々によって遮られ、不気味なほどに暗く、静かな森だ。

グリムは鬱蒼とした茂みに身を隠し、居場所を悟られぬようジッと息を潜めている。


脈打つ心臓の音がやけにうるさい。

吐く息は白く、寒さのためか真っ赤に染まった耳が痛む。

カチカチ歯を鳴らしながら忍んでいると、後方から霜を踏む音が鼓膜を揺らした。


彼女はひたすらに乞い願う。

どうか、どうか見つかりませんように、と。


そんな彼女を嘲笑うかのように、絶望はこちらへゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてきた。


「無駄な抵抗はやめて大人しく殺されろ。どっちみち、お前は死ぬのだ。速いか遅いかの違いだろうが」


背後から霜を踏みしめる音とともに、低い男の声が伝わってくる。

それとともに、急速に気温が低下していくのを感じた。

気温からか恐怖からか、体はブルブルと震え始め、葉に張り付いた霜が崩れ落ちる。


「そこか.....ふん」

男は微細な変化も見逃さず、霜が崩れた場所に向かって手を向けた。

直後、男の前に鋭利な氷塊が作り出され......


「死ね」

風切り音とともに、勢いよく発射された。


拳2個分ほどの氷塊は、数十メートル離れた木に寸分の狂いもなく直撃。

鈍い轟音とともに大きな風穴を開けた。

フロストは表情をピクリとも動かさず、慎重に足を運び、穴の開いた木の後ろを確認すると......


「......ちっ。小賢しい真似を」

そこには少女の姿はなく、ちょこんと置かれたチョーカーが揶揄うように振動していた。


ーーー脱兎のごとく、とく駆ける。

グリムはスイッチを入れた数秒後に轟音が響いたのを確認すると、身を低くしながら走り出していた。


「ばーか♡こんな子供だましに引っかかるなんて、フロストも間抜けね♡」

グリムは口端を綻ばせながら、憎き相手を嘲笑する。


しかし、手放しで笑えるほど優勢というわけでもなかった。

相手はA級相当のソーサラーで、こちらはただの一般人。

頼みの綱の魔装も、さっきの陽動で使ってしまった。


「化け物相手にするのも骨が折れるわ......ダインのお兄さんが可愛く見えてくる不思議」

一度死んでも蘇ってくるダインとソーサラーを比べ、どっちもどっちかと短息する。


状況は依然劣勢。気を抜けば一瞬で勝負は決するだろう。

……もちろん、グリムの敗北という形で。


グリムは目つきを鋭くし、小さく吠える。

「博士のモルモットのくせに......!!こういう時ばっかりは、あの日の選択を後悔しそうになるわ.....!!」


しかし、いくら吠えども状況は変わらないことぐらいグリムもわかっている。

蛇のようにうねる根っこを飛びこえ、鋭利な葉に頬を切られながら、できるだけ遠くを目指しひた走る。


逃げ回っているだけのグリムであるが、なにも闇雲に逃げ回っていたわけではない。

「あの門から出てきた聖騎士に見つかれば、なんとかなるかも.......!!」


フロストとの戦闘直後、グリムは空に大きな門が出現するのを確認していた。

この混乱に乗じフロストが追跡を中止してくれれば、なんていう希望はとっくの昔に砕けている。

しかし、まだ諦めない理由がそこにはあった。


おそらくあの騎士たちは、被験者を救助しに来た者たちだろう。

今いる森は木々が邪魔して発見される可能性は低いが、ここを抜ければあるいは。


「実は私もこっちサイドでした~ってバレたら終わりだけど、ここで氷漬けにされるより全然マシ....ってきゃああ!!!」

突如、右脇腹に痛みが走り視界に火花が散る。


恐る恐る視線を向けると、痛みの源は赤く染まっており、動くたびに激痛をもたらしていた。

「痛っっ.....!!痛い痛い痛い!!」

あまりの激痛に視界はチカチカと点滅し、自然足取りは重くなる。


涙目で背後を振り向くと、鬼面の男がこちらへ走ってくるのが見えた。

両者の距離はぐんぐん狭まってきており、グリムの首に毒牙がかかるのも時間の問題だろう。


息が荒い。額に浮かぶ脂汗が目に入りかけ、苦しい瞬きをしながら汗の逃げ道を作る。

「くそっ.....!!こんな所で......あっ!」

迸る痛みに顔を歪め、それでも歯を食いしばり進んで行くと、前方から光が差し込んでくるのが見えた。


「くっっ!!!正念場ぁぁ!!」

みっともなく酸素を求めて口を開閉しながら、不格好なフォームでひた走る。

ようやく見えた希望に縋るように。


この森を抜けたら、きっと騎士が見つけてくれる。助かる。

ようやく見つけた居場所に、帰ることができる。


「っ!!!抜けたっっ.....!!........は」

よだれを口端から垂らしながら、息も絶え絶えに森を抜けたグリム。

そんな彼女の眼前に広がっていたのは。


「ハ、ハハ......どんな、冗談よ」

乾いた笑いとともに膝から崩れ落ちる。

鼓膜を揺らすのはバクバクと脈打つ心臓の音と、背後から迫る男の足音。

そして、大量の水が岩に叩きつけられる轟音だった。


「言っただろう。どっちみちお前は死ぬのだと。......何か言い残すことはあるか」

声のする方へと振り向く。

霞んだ両目がとらえたのは冷気を吐きながら大地を凍らし、氷剣を携え近づくフロストだった。


「......あんた、知ってたの?森の先に渓谷があるって」

「当たり前だ。引きこもりのお前と違って、私は日々この地を見回りしているからな」


渓谷は非常に深く、流れる水流も早い。

落下すれば、まず命はないだろう。


冷気に喉が張り付き、呼吸が苦しい。耳鳴りは止まず、腹部からは流血が止まる気配はない。

血が、酸素が、考えが足りない。

もしかすると自分は正常な判断ができてないかもしれない、とグリムは思う。


しかしグリムができることは、限られた選択肢の中で最善の選択をすることだ。

グリムは乾いた口を唾液で湿らせると、口元を微かに歪ませて。


「あんたに殺されるなんてまっぴらごめんだわ。......地獄でまたね」


深い深い渓谷に向かって、身投げした。


「......愚者め」

吐き捨てるようなフロストの声が遠ざかっていく。

体内の臓器が上に引っ張られるような嫌な浮遊感にさらされながら、グリムは落下していった。


落ちて落ちて落ちて落ちて。顔面に吹き荒れる大量の風を浴びて...瞬間、体の正面を衝撃が襲った。


直後グリムを襲うのは荒れ狂う波と、あらゆる穴から侵入を試みる水。

衝撃にともなって口を開けたせいで、ごぼごぼと口腔を水が満たしてくる。


自由に体を動かすことも、視界を開けることもかなわず、苦しいままに流される。

意識は掠れ、音が、感覚が、遠ざかっていく。


暗い暗い意識の海に飲み込まれ、わずかに残った自我さえ消え去っていく......寸前。

冷たい暗闇の中で微かだが、確かなぬくもりを感じた。


(......お兄?)

浮上しかけた意識が再び飲み込まれるのを感じながら少しばかりの温度とともに、グリムの意識は遠のいていった。

ご愛読ありがとうございます!

今回も書いてて楽しかったですね。

もし感想やコメントがあったら書いていただけると嬉しいです!

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