失意
同刻、地上にて。
「これが、ソーサラー同士の戦いか.......!」
黄金に輝く閃光と、赤々と燃える炎が交差しぶつかりあう。
凄まじい衝撃に空気がビリビリと震え、骨の髄まで響いてくる。
木々は強風に吹かれ、ありえない角度に曲がったり戻ったりを繰り返している。
「今傘でもさしたら空を飛べそうだぜ......うおおおーー!踏ん張れ俺えーーー!!」
ダインを紙同然に吹き飛ばさんとする風が次々襲い、足腰に力を込めて必死に耐える。
なんとか片手を顔の前にかざし、目を細めて戦況を見守るダイン。
あまりのスピードに何が起こっているか把握しかねたが、一つ確かなことがある。
「ヴァイスさんが押してる.....?」
黄金の点が縦横無尽に飛び回っているのに対し、赤い炎の動きは直線的なように思えた。
黄金の点は一瞬にして空を移動し、それを炎が追いかける。
接触すると思われたら点は消滅。瞬間移動し、直後に襲う衝撃波。
素人目に見ても、ヴァイスが優勢であることは見て取れた。
「すごいだろう?うちの隊長は。ああ見えて、A級ソーサラーなんだ」
涼し気な顔をしながら身内自慢をするクルル。
見れば、風などもろともしていないようで、呑気に水筒の茶を飲んでいる。
あれか。鎧が重いから風なんて屁でもないのか。
にしても、その甲冑を着ながらも戦える聖騎士はゴリラすぎやしないか?
「俺からしたらあんたも十分すごいよ......ん?」
「プルプルップルプルッ」
強風に打たれ、葉が顔にぶつかろうとも茶をしばき続けるクルルに呆れていると、その場に不相応な軽快な音が響き渡った。
その音源に視線を向けると、クルルのポケットが微かに震えている。
クルルは水筒をしまうとポケットから何か、黒い板を取り出すと。
「この世で神は?」
「フレイヤただ一人」
「悪人いれば?」
「地の果てまで追いかけて」
「不届き者には?」
「裁きの鉄槌を!」
合言葉だろうか。取り出した機械から音声が聞こえると、クルルが間髪入れずに答えている。
「クルルさん、今のは.....」
「しっ静かに...」
クルルは人差し指を口にあて、沈黙を要求。
咄嗟に両手を口にあてると...
「よし、問題ないね。こちらコログ。聞こえるかな?」
「こちらクルル。問題ないよ。何かあったか?」
彼の持つ機械から聞きなれた声が響いた。
そう、重症のルイやノラを救出するよう頼んだコログだ。
「実はダイン君の仲間を門の外へ送った後、ほかの子供がいないか探すために帰ってきたんだ。しばらく空を飛んでたら、渓谷のすぐそばで凍った大地を見つけてね。そこに二つ人影が見えたんだ」
凍った大地....?それに二つの人影だと?
「ここからでも見えるんだけど、凄まじいよ。ここまで冷気が漂ってくる。......あっ!」
「どうした!?コログ!」
「一人谷に落ちた!......!助けに行ってくる!」
「おい!待てコログ!......くそっ通信が切れている.....!」
顔を歪めて機械を握りしめるクルル。しかし、今はそれどころではない。
「クルルさん!たぶん......いや絶対グリムだ!やっぱりソーサラーに襲われてやがった.......くそっ!......はやく助けに行こう!」
ダインは逸る気持ちを抑えつつ、クルルの騎馬に乗ろうとする。
コログ一人で助けるにしても、そのソーサラーに見つかれば救出する隙が無いかもしれない。
誰か......誰かが助けに行かなければ。
しかし、
「ここで君を守れと命令されている。行かせるわけには行かないな」
「なっ....!!」
ダインの思惑とは裏腹に、クルルはダインの肩を掴むと、動きを制止してきた。
ダインは乱暴にそれを振りほどくと、クルルに向かって大きく吠える。
「邪魔すんなよ!!あいつは、まだ子供なんだ!確かに最初は敵だったけど、俺や仲間を治療してくれた!......ああ見えて、あの年でデカい物背負わされた被害者なんだよ!」
「......それが、君が行く理由になるのかい?」
今まで仲間だと思っていたクルルの口から、あまりにも温度のない言葉が発されて思考が白で塗り潰される。
「......は?な、に言...って」
「君は、隊長の命令に背いてまで彼女を助けに行く合理的な理由を持ち合わせているのかと聞いている」
思考が白に染まっているせいで、なにも言葉が、理論が、思いが発せない。
ダインがしばらく口を開閉するだけでいると、クルルは小さくため息をつくと。
「冷静になれ、ダイン君。君が行って何ができる」
「......っ!」
彼の突き放すような正論に、胸の奥をバットで殴られたような痛みを知覚する。
当然だ。理にかなっている。
日々鍛錬し、重い鎧すら軽々着こなし戦う聖騎士に比べ、ダインはどうだ。
魔法も使えない。戦闘経験もまともに積んでない、ただの一般人。
今でさえ、ソーサラー同士の戦闘の余波に耐えるので精一杯ではないか。
無茶で無謀。おそらく相手も氷を扱うソーサラーであろう。
向かい合った瞬間氷漬けにされるのがオチだ。
ダインは空を見上げ、再確認する。
はるか上空にいるというのに、せめぎあう衝撃波はここまで伝わってくるではないか。
両者の動きを目で追うことすら敵わない。
あの場にいるのがヴァイスでなくダインなら、数秒で消し炭になっているだろう。
ソーサラーは、生物としての格が違う。
「.......大丈夫。コログはああ見えて小心者だけど、やるときはやる男だ。僕たちから見れば、君はまだまだ子供。ここは大人に任せておきなさい」
クルルはやさしく微笑み、ダインの方に手を置いてくる。
ーーー自惚れていた。
勘違いしていた。今まで上手くいっていたことがかえって裏目に出た。
ソーサラーの前では自分など、いつでも殺せる羽虫同然の存在でしかなかったのだ。
ダインは血がにじむほどに拳を握りしめ、奥歯が割れんほどに歯を噛みしめる。
苛立ちに任せて大地を蹴るも、瞬間吹いた強風に耐えられず体が吹き飛ばされる。
「ダイン君!」
ごろごろごろごろ転がって転がって、背中に鈍い痛みが走るまで転がった。
口の中に砂が入り、吐き出そうと唾を飛ばすも風に吹かれて顔面に帰ってくる。
「......くそっ!!!」
砂と唾液でぐちゃぐちゃの顔から吐かれた不甲斐なさは、さながら小汚い犬の遠吠えのようだった。
ご愛読ありがとうございます!
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