ヴァイス・カーネル、参上っ!
彼は片手でダインを制止すると、背後の騎士と話し始めた。
何かの命を受けたらしい騎士は、懐から筒状の何かを取り出し、詠唱を唱え火を付ける。
すると筒状の先端から、モクモクと淡い赤色の煙が立ち上っていった。
それを合図に、頭上の騎士たちは散り散りになって消えていく。
空に残ったのは地上に大きな影を落とす、重厚な扉だ。
「待たせて悪いね。なにぶん、時間がないもので。......そうだ。俺が何者か、だったな?」
嫌に眩しい男は謝罪を述べ、ダインにきらりと歯を見せると。
「俺はフレイヤ聖騎士団第七班隊長、ヴァイス・カーネルだ。.....君も、名前ぐらいは聞いたことあるだろう?」
自信満々に答えるヴァイスに一言、
「いや知らんが」
「なにぃ!?」
酷くショックを受けた顔でよろめき、がっくりと膝をつくヴァイス。
「そんなことよりさ、黒髪の少女を見なかったか?俺の......仲間候補なんだ。もし上から何か見えてたら、教えてほしい」
「この俺を...知らない....ははっ...巷で噂の黄色い閃光とは、俺のことですよー......」
「なんなんだあんた!めんどくせえな!......っていうかさっき、第七班っていったか?」
体育座りをしながら遠い目をしたヴァイスにツッコミつつ、彼の言葉に引っかかりを覚える。
確か、第七班といえば....
「そう!第七班といえばこの俺!ヴァイス・カーネル....だっ!やっと思い出したか少年。まったく......いやそうだよな?この国で、俺のことを知らんやつなど」
「だから知らねえって。先進まねえから自分語りは後にしてくれ!......俺が気になったのは、お前じゃなくて第七班ってとこだ。俺の連れにエレオノーラっていう聖騎士が」
またしてもどんよりとしたオーラを放ち始めたヴァイスが、急にこちらへ距離を詰めてきた。
「エリィがいるのか!?君、やっぱりエリィを知っているのかい!?」
「近い近い近い!暑苦しいから近寄んな!......というか、やっぱり知り合いだったのか」
ふんふんと鼻息を荒くし、ぐいぐい顔をよせてくるヴァイスを引き離しながら。
「ああ、もちろん知っているとも。知りすぎているくらい知っているともさ!彼女の趣味嗜好、スリーサイズ、はたまた今日の下着の色まで......。なんせ俺たちは彼女に呼ばれて、こんなところまで来たのだからっ!」
両手を広げ、天を仰ぐようなポーズをとるヴァイス。
「うんうん、今日は水色のストライプだよな......じゃなくて、呼ばれた、だと?そんな暇」
ない、と言おうとした瞬間、ある発言が脳をよぎった。
確かノラは以前、『任務を終わらせた』と言っていた。まさかそれが....
「ノラの任務って、あんたたちを呼ぶことだったのか......いや、厳密には違うんだろうが」
「ふむふむ、君はエリィをノラと呼ぶのかい。それに下着の色まで的中させた......なかなかどうして、君はセンスが良いようだね。仲良くなれそうだ。......そう、彼女の任務は、最近多発している児童失踪事件の調査をすること。そして拠点を調べ、私たちを呼ぶことだ。」
謎の親近感が湧いたらしいヴァイスが、満足げに頷いている。
「じゃあ、あんたがさっき送った合図って」
「ああ、君の予想通りだろうさ。今頃仲間たちは、ここに拉致されてきた被害者を救出しているところだろう。......ほら」
彼の指さす方向に目をやると、今まさに一騎の騎士が空を泳ぎ、門の中へと吸い込まれていった。
よくよく見ると、騎士の前には一人の子供が乗せられている。
その騎士を皮切りに、どんどん空飛ぶ騎士団が子供を連れて門の中へ。
「おお......!!じゃ、じゃあグリムもそのうち見つかるよな!......よかったぁ」
さきほどの焦燥感からようやく解放され、ほっと胸を撫でおろす。
「随分そのグリムという子に熱をあげているようだね。俺はてっきり、君はエリィがお気に入りだと」
形のいい顎に手を置き、不思議そうにこちらをみてくるヴァイス。
……別に下着の色を知っているからといって、そういう仲ではないのだが。
「どっちも違ぇよ!俺の一番は......っ!......いや、なんでもねえ」
ふいに出そうになった名を、寸でのところで押し留める。
自分でもまだわからないが、一番を挙げるとするならば......あの、生意気な幼馴染だろう。
「そんなことはどうでもいいんだよ!......ほら、早く付いてきてくれ。実はノラを含めた俺の仲間が、結構な重症を負ってるんだ。はやく脱出して医者に見せてやらねえと」
「なんだと!?くっ!待ってろ!エリィィー!!」
「ちょっ!そっちじゃねえよ!......おーい!ヴァイスさ~ん!?」
「うおおおおおお!!」と雄叫びをあげながら、明後日の方向へと駆けだすヴァイス。
人の言うことをちっとも聞きやしねえ。
あのノラでさえ、あいつを制御するのは無理ではなかろうか。
「......はぁ、あんたらも苦労してるだろ」
ダインの問いかけに、あはは....と苦笑いする二人の聖騎士。
「あんなでも、一応は隊長ですから。実力は折り紙付きですよ?.......まぁ、時に暴走するのが玉に瑕ですが」
もはや慣れっこといった風に、騎馬にまたがり追いかけようとする一人の聖騎士。
「コログ。彼と副長、そしてその仲間をお願いします」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺も連れてってくれないか?......その、俺も探したいんだ。グリムって子を」
今にも飛び立ちそうな騎士に、懇願するダイン。
その騎士は軽く考えた後、ため息をつくと。
「仕方ないですね。......ですが、先に隊長を止めますよ」
「ああ!その後で頼む」
ダインは彼の手を借り、空飛ぶ馬に腰掛ける。
想像していたより乗り心地はいい。鞍は、上質な革でできているようだ。
「コログさん。あの階段の先に、俺の仲間が二人眠ってるんだ。悪いけど助けてやってほしい。」
もう一人の騎士、コログはダインの指さす方向に目をやると、
「ええ、任せて下さい!......重症とのことですから、急ぎますね!」
足早に階段の中へ走り出した。
「僕たちも行きましょうか。......隊長、迷子になってないといいのですが」
お前は子供を心配する母親か、と内心ツッコミつつ、ダインは騎馬の上で風を受けるのだった。
ご愛読ありがとうございます!
しばらくほぼ毎日投稿できそうなので、楽しみに待っててください!
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