グリム・ホッブス 完
「.....い、......おい!大丈夫か!?」
「う、うぅ.....」
深い意識の底から、誰かの呼ぶ声がして目が覚める。
ぼやけた視界に映ったのは白馬の王子様......ではなく、パッとしない黒髪の青年だった。
「......なんだ。お兄さんか」
「そんなにがっかりする!?」
彼の大声が頭に響き、ぐわんぐわんと頭が揺れる。
寝起きなんだから、もう少し配慮願いたい。
そんなことを思いながら、ぼーっと意識を漂わせる。
なんだか、懐かしい夢を見ていたような......
「おい、急に倒れてどうしたんだよ?......いや、別に心配はしてないが」
彼の言葉に意識が少しはっきりとして、現実に引き戻された。
見れば、チラチラとこちらを心配そうに伺ってくるダインの顔が。
「......お兄さん、実は私のこと好きなの?」
「なわけねえだろ!どんだけ痛い思いしたと思ってんだ!それに、うちの連れを痛めつけたお前を憎むことはあっても、好意を寄せることは百パーねえよ!」
言って、横たわる私の頭を片手で支えながら舌を出す。
「......ねえ、一つ聞いていい?」
「なんだ?聞きたいことがあるのはこっちの方なんだが」
しかめっ面で答えながらも、ノーと言わないダインに苦笑しつつ。
「あの聖騎士はさ、なんで祈祷使わなかったの?あいつが本気を出せば、私なんて一瞬で消し炭にできるのに」
言いながら、机に突っ伏して寝息を立てるノラへ視線を送る。
正確には、彼女のすぐ下にある血だまりだ。
彼女の奇行のせいで気付かなかったが、その血からはありえんばかりの魔力が感じられる。
魔力量だけで言えば、相当な実力者であることは間違いないだろう。
釣られるようにダインもそちらを見やると、やれやれと肩をすくめた。
「はぁ......なんでも、フレイヤ教徒は一日三回までしか祈っちゃいけないらしい。神へお願いする立場だから分を弁えろとかなんとか。だから今日は使えないんだとよ」
おかげで熊に殺されかけたんだぞ、とかぶつぶつ言っているダインに。
「そんな制限ないはずだけど...?」
「あれぇ!?」
彼にとって寝耳に水。
信じられないといった顔をしたダインに、大きくため息をつく。
私は負けたのだ。
会ったばかりの他人を信じ、あまつさえ命を預けあった、このパーティに。
「......はぁ、もういいわ。どっちみち私は負けたんだから」
そういうと、ポケットからあるものを取り出しダインへ手渡した。
「これ......魔道具か?」
それは小さな円盤の上に、赤色と白色が半分ずつ塗られた針が乗ったものだった。
「そう。これは強い魔力に反応する魔道具なの。.....お兄さんが目指す場所には、強力な魔力をもつ存在があるから迷うことはないと思うよ」
ダインはそれをまじまじと見つめると、
「ヒントっつーかゴールの場所教えるようなもんじゃねえか。こんなもん貰っていいのか......?あ、そうだ。これなんだけどよ」
ごそごそと鞄をあさり、彼が取り出したものは。
「......!!それをどこで.......ってそっか。部屋入ったんだもんね」
「ああ。ちょっと気になってよ。これに映ってるのお前...だよな?」
それは、私の家族の集合写真であった。
楽しそうに笑う私が兄に飛び掛かり、父が母に手を回して微笑んでいる。そんなありふれた家族写真。
この時はまだ、ペンダントを付けていた。
「......お前、フレイヤ教徒だったのか」
「もうやめたけどね。親が教徒だったってだけ」
「そっか。......なあ。お前、なんでこんなことしてんだ?写真見る限り、普通の女の子じゃねえか」
「今は違うみたいな言い方だねお兄さん?......別に、私には選べなかったってだけだよ。仕方がなかったの」
脳裏に、下卑た笑みを浮かべる父が脳裏に映る。
......いや、どっちみちダメだっただろうか。
蛙の子は蛙なのだ。
「自分の置かれた立場を理由に、私はたくさんの人を殺してきた。全部自分で背負うと言いながら、やっていたのは父と変わらない。父のせいだから仕方ないと、どこかで自分の行いを正当化していたの」
「その魔道具はせめてもの罪滅ぼしだと思って?......じゃあ私、もう行くから」
そう言い放つと、彼に背を向けて歩き出す。つい余計なことを言ってしまったと後悔していると。
「.....俺は、幼い頃に両親がどっか行っちまったけど、優しかったのは覚えてる。だからお前に言えることなんてないかもしれないけどよ」
「誰だって間違うことくらいあんだろ。人間は完璧じゃねえんだから。......大事なのは、自分の罪を認められるかどうかだと、俺は思う」
彼の言葉に、ピタリと足が止まる。
「......私は人を殺してきたんだよ?ただただ自分が楽になりたいがために、何人も」
「それを言える奴は悪を知覚できてる奴だよ」
「......私はお兄さんの仲間をたくさん傷つけた。お兄さんのことだって......!!」
「ああ。なんなら一回殺されたしな」
「じゃあなんで!......なんで私に、優しくするの?」
体を後方へ回し、手を差し伸べてくる彼に鋭い視線を向ける。
彼の真意を探るように、深く深く抉るように。
「うーん......お前が純度百パーセントの悪だと思えないから、かな」
「なにを...っ根拠に...!!」
「それだよ」
彼の指差す先、自分の頬に言われるがまま触れてみると、冷たい感触がした。
「お前だって、必死だったんだろ。俺より年下で、身寄りもいなくて。きっと博士ってやつに脅されでもしてたんだろ?......そんな重荷、背負う道理なんてねえよ」
「......!!」
「神が許さなくってもよ、その重荷を一緒に背負ってやるくらい、罰は当たんねえだろ?」
彼は目がくらむほど明るい笑みを見せ、こう言い放った。
「一緒に来いよ、グリム。ここから抜け出して、ちょっとずつ荷物を返していこう」
それはあまりにも眩しく、きらめいて見える提案だった。
しかし、
「......ほんとに、いいの?私は人殺しだよ?」
「ああ、大丈夫だ。お前は自分の罪に涙を流せる、根はいい奴だ」
「でも、でも仲間の人がなんていうか....」
「それなら......おい、ノラ起きてんだろ?」
ダインの声に体をビクっと跳ねさせ、気まずそうにノラがこちらを見てきた。
「.......フレイヤ様のご慈悲だ。どうしようもなくなったらフレイヤ教会へ来い。......食事くらい恵んでやる」
どこから聞いていたのだろうか。いつの間にか目を覚ましたノラが私を受け入れてきた。
「な?大丈夫だって。これまで下り坂だったんだから、後は上がるだけだ。知ってるか?」
そういうと彼は右手の親指をグッと上に向けると、
「確率は収束するんだぜ?......だから、絶対上手くいく。な?」
「なにそれ......ふふっ......」
彼の発言になんの科学的根拠もない。
しかし、そんな薄い論理に笑いがこみ上げ止まらなかった。
彼の言葉に、少し救われた気がした。
「よし!決まりだな!じゃあさっそく、魔道具の指す先へ出発~...ってあれ?」
「え?お兄さん!?ちょっと、お姉さんまで!」
彼は言い終わるや否や、その場に倒れこんでしまった。
同様に、ノラも机に突っ伏してしまう。
当然だ。方や重症、方や得体の知れぬ蘇り。
倒れてしまっても不思議ではない。
「仕方ないな~。『仲間』として、助けてあげますか」
そういうと、救急セットを取り出し二人へ処置を施す。
そして床へ三人川の字に寝かせ、毛布を掛けてやった。
「......私、これからやり直せるかな......お兄」
ダインが持ってきた写真に呟いて、裏口から外へ出る。
ここは地下であるというのを忘れさせるほど青々とした空の元、大きく深呼吸をする。
「とりあえず、退職届でもだそうかな~......って、はぁ。そうだよね。そううまくはいかないか」
後方の木の陰に気配を感じ、振り返る。
そこには、鬼の仮面をかぶった長身の男が立っていた。
男はゆっくりと近づいてくると、
「ああ。お前のような人間に、そううまい話はないぞ?......グリム・ホッブス」
仮面を外し、口から吐く冷気で刀を作り出す。
「モテ期ってやつ?今日はやたら男に言い寄られるのよね......フロスト」
「規約違反を犯したものを、博士は許さない。......その罪、お前の死をもって償え」
私の軽口を無視し淡々と、ただ冷たく罪状を述べてくる。
「悪いけど、死ぬわけにはいかなくなったの。......私のこれからを邪魔するやつは、死ね!」
私はチョーカーとステッキを取り出し、フロストに向かって飛び掛かった!
お久しぶりです!
お待たせしてしまいごめんなさい!
また高頻度で投稿していくので、よかったら星とコメント、よろしくお願いします!




