グリム・ホッブス④
そこから先は記憶が無いが、気がつくと家に着いていた。
玄関で靴をよたよた脱ぎ捨てていると、リビングから騒がしい声が。
「だから!いい加減働いてほしいって言ったんだ!仕事のミスがなんだ!みんなに謝って、これから挽回すればいいだけじゃないか!」
「このガキが......!社会の浅瀬でちゃぷちゃぷしてるだけのお前が、どうして深海の暗さを知ってるよ!?何も知らねえくせに、いっちょ前に説教してくんじゃねえ!」。
どうやら、兄はもう仕事から帰ってきていたらしい。
足をもつれさせながらリビングへ向かう。
「あっ!また一瓶開けて......!言わせてもらうけど、父さんのせいで迷惑してるんだよ!没落した司教の息子だと、周りのやつらは憐れみと忌避の目を向けてくる!......いや、俺はまだいい。問題なのはグリムだ!」
急に自分の名前を呼ばれ、ドアの前でピタリと止まる。
「父さんだって、気付いてるんだろう?もう日が落ちるっていうのに、まだ帰ってこない。......今日職場で聞いたんだ。グリムが最近学校に来てないってね。......なんでだと思う?」
「さぁ。あいつも、学校でなんかやらかしたんじゃねえか?」
突然ドンッと鈍い音が響き渡り、心臓が飛び出そうになった。
「何他人事みたいに言ってんだ!父さんがそんなだから!きっとグリムはいじめの標的にでもなったんだろう!わかっているのか!?父さんは今、娘の人生をめちゃくちゃにしているんだぞ!?」
「ああ!?......クソッ!どいつもこいつも俺のせい俺のせいと!!もううんざりだ!」
父が一際声を荒げると、しばらく喉を鳴らす音だけが聞こえてきた。
チラリと部屋をのぞくと、兄が椅子に座りながら酒を飲む父と対峙している。
父は酒瓶をラッパ飲みすると、勢いよく机に打ちつけた。
「ゴキュッゴキュ......プハァ!......そうだ?お前が嫌な目で見られてるのも、グリムがいじめられてるのも、全部全部俺のせいだ!俺のせいで俺も、周りのやつらもみんな不幸になっちまう!......だから」
父は兄の目をじっと見つめると。
「だから、俺のいない場所で勝手に生きてくれや」
「......!!くそっ!もういい!母さんを探し出して、グリムと三人で暮らしてやる!!」
「無理だよ」
「!!」
「グリム!?」
私は、気が付くと二人の前に飛び出していた。
「グリム!帰ってきてたのか!!......心配したぞ?もう遅いっていうのに、まだ帰ってきてなかったから。......というか、今何か言ったか?」
お兄が私の身を案じてきたが、私は無視して続けた。
「......今日、お母さんにあったんだ」
「......え?そ、そうか!まだ近くにいたんだな!......さっきまでの話は聞いていただろう?ほら、一緒に母さんのとこへ行こう?そこまで案内して...」
兄がドアの方へ向かい私の手を取るが、それを無情にも振り払う。
「......グリム?」
私は口を開いた。
言わなければ。私が手を振り払った理由を。
母は私たちを見捨たから、一緒に暮らすことはできないと。
「......なぜ、答えないんだい?」
兄が困惑したような顔をしながら、再度手を取ってくる。
……声が、出なかった。
言ってしまえば、信じたくない現実が確定してしまう気がして。
代わりに涙がボロボロこぼれ、嗚咽を漏らす。
「......!どうしたんだグリム!......学校でなにかされたんだな!?俺に言ってみろ!お前にひどいことをしたやつらに、地獄を見せてやる......!!」
手を握る力を強めながら戦慄く兄に、ふるふると首を横に振る。
そんな私の態度に疑問符を浮かべる兄に、なんとか伝わるよう唇を震わせる。
視界がぼやけてうまく見えなかったが、兄の目をちゃんと見て。
「おかあさんね、私のことなんか知らない...って言ってきたの。それでね、おかあさん......知らない男の人と歩いてた。......ねえお兄、処女ってなんなの?隣にいた男の人が、おかあさんは処女だって...」
両目を見開き言葉を失う兄の背後から、父の呆れたような罵声が飛んできた。
「あんなアバズレ、捨てて正解だったな。お前らもその血を引いてること、忘れんじゃねえぞ?」
「お前えええええ!!!」
兄は激昂すると、父のもとへ飛び掛かった。
叫びをあげながら父の胸ぐらをつかみ、思い切り拳を食らわせる。
温厚な兄があそこまでキレている姿を見るのは初めてだった。
父の鼻から赤が飛び散り、よたよたと壁に寄りかかる。
「て、てめぇ......!!もう容赦しねえ!お前は俺の息子でもなんでもねえ!ぶっ殺す!」
「それはこっちのセリフだクソ親父!あんたの暴行に耐えながらも、必死に俺たちを育ててくれた母さんをバカにすんじゃねえ!!」
兄と父の、本気の親子喧嘩が始まった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
次回でグリムちゃん回は終了です。
大きく話が動く予定ですので、どうか期待して待っていてください!
星を付けてくれると、私のモチベが上がります!よろしくお願いします!
では、また明日!




