デスゲームⅪ 形勢逆転
ピピー!と、1分が経過したことを知らせる通知音が室内に鳴り響いた。
懐から黒い鞭を取り出し、グリムが距離を詰めてくる。
ああくそ......っ!!予想はしていたが、かなり痛い......!!痛い痛い痛い痛い.....!!
ズキズキという表現では言い表せないほどの痛みに、熱に意識が飛びかける。
その忌まわしい源泉に目をやると、今なお左手を侵略し、血肉を食らう短剣がこちらを睨んでいた。
「あのバカ、嘘なら末代まで祟るからな......っ!!!」
と、恨めし気に天井を見上げる。
そこには暗闇がぽっかりと口を開けており、あの男の遺体は見えない。
カッカッ、と目の前まで歩を進めた少女が冷たい眼差しを向けてきた。
「何を狙ってるか1ミリも理解できないけど、これだけはわかる。......あなた、まだ終わってない、まだ希望はある、と。そう思ってるでしょ」
朦朧とした意識の中、グリムの冷たい声が頭に響いてくる。
歯を食いしばり、声を上げないことに注力していたため、返事の代わりに彼女を睨みつける。
「はぁ、まったく。......やっぱりあんた、嫌いだわ」
深くため息をこぼすと、持っていた鞭を振りかぶり、思いっきり打ち付けてきた!
「ぐあああああああ!!」
「ほらほら!痛い!!苦しい!!泣き出したい!!...救い?あるわけないでしょ!!いくら願っても、いくら祈っても!神も仲間も助けてなんてくれないの!!」
ビシッ!ビシッ!といった鈍い音と、自分の悲鳴だけが鼓膜を揺らしている。
しなる鞭は左腕、胸、そして左横腹に赤黒い痣を何度も何度も作っていく。
両目からはうっすら涙が浮かび、襲い来る脅威から身を守ろうと、自然と全身に力が入る。
「29っ!30!...はい、30回。また1分後にまた30回打つから。......さっさと一人で勝ち逃げしなよ。このままだと、みんな仲良くあの世行きだよ?」
ヒュー、ヒューと口から息を吐き、必死に痛みを排出する。
許容量を超えた激しい痛みに、今すぐにでも意識を手放しそうだ。
「瘦せ我慢も限界って感じじゃない?この時間、はっきり言って無駄だから。頼みの綱のダインも死んで、頼れる人はだれもいない。このまま痛みに耐え続けたところで、何になるの?......もう仲間なんて見捨てて逃げればいいじゃない。」
やれやれと肩をすくめ、蔑んだ目を向けてくる。
そんなグリムに対し。
「......ふっ」
「!?......何がおかしい!!」
「いや、なに。貴様が私の心を折ることに執着していることが、あまりにおかしくてな。勝利するだけなら、もうとっくにできるはずだろう?」
グリムは虚を突かれたような表情をし、言葉に詰まった。
「貴様にとって、私を屈服させることの方が勝利よりも重要らしい。......いや、違うな。確かめようとしているんじゃないか......?」
「お前、何を」
「自分に重ねでもしたか?今の貴様は......過去の行いを正当化しようと必死に見えるぞ?」
「調子に乗るなよエレオノーラァ!!立場を弁えろ!お前は今、私に生かされているということを忘れるな!?私がその気になれば、お前なんて今すぐにでも......!!」
と、グリムが言いかけたところでタイマーが鳴り響いた。
前回の鞭打ちから、ちょうど一分が経ったらしい。
「......ふふ、いいよ?あなたはまだ知らないみたいだから、教えてあげる。......痛みによる教育ってやつを!!」
言い終わるや否や、再び鞭打ちが始まった。
「ぐっ!ぐぁぁ!......ぎぃっ!!」
「ほらほらほら!教育教育教育!痛みでしっかり覚えこみなさい!他人に命を預けるとはどういうことかをね!!」
不規則に襲う衝撃に、構える暇なく痛めつけられる。
次第に感覚が麻痺していくのを期待したが、存外人間は頑丈な生き物の様で、一向に慣れる気配がない。
正確無比に電気信号を伝える体に舌打ちしながら、震える唇で詠唱を唱える。
「汝、聖なる信徒よ...我が救援に応じ...給え」
体の周囲が淡く光り、懐から飛び出した光の粒が宙に舞う。
それはひらひらと宙を泳いでいたが、しばらくするとどこかへ去ってしまった。
「!?......びっくりしたぁ。その状態じゃ、祈祷なんてできなかったようね......!」
詠唱を始めたとたん距離を取ったグリムが、ホッと胸を撫でおろす。
そしてニヤニヤと近づいてきて、こう囁いた。
「まだ回数は残ってるよ?......さ、続きをやろっか♡……じゅうは~ち!」
「ぐぅっ!!」
「じゅ~うきゅう!......ほらほら、はやくボタン押せ!押して裏切って!一人で勝利を掴め!それが正しい生き方ってもんでしょう!?」
そんな彼女の言葉に、思わず笑いがこぼれた。
「.....ふ、くく。正しい生き方、か。......そうだな、貴様に一つ...教えといてやろう。正しい...生き方など存在せん。私たちは...ただ、自分の中の正義を信じるのみだ」
「!?な、生意気なんだよ!さっさとあきらめろよ!痛いだろ!辛いだろ!手足は震えて、もうろくに意識も残ってないだろ!なんでそれでも、一人助かろうとしない!希望なんてないくせに!」
強烈な衝撃で意識が飛んでは戻される。
全身を襲う熱がだんだん寒さへと変わっていき、命が消えていく感覚が強まってきた。
死が、もう傍まで近づいている。
……ここまでか。
私は、ちゃんとやれただろうか。
役目を、全うできただろうか。
答える人などいない、そんな問いを投げかけながら、命が消えていく。
蝋燭のろうが溶けるように、ゆっくりと。
そんなことをぼんやり考えていると、かすれた視界の先に確かに映った。映ってしまった。
ずっと待っていた、あの色が。
「......ああ、そうだな。希望などなかった。悔しいが、私の負けだ」
「!!...そう、それでいい!あなたは負けを認め、みじめに一人で生きていけばいいの!」
「私一人であったならな」
「......は?」
彼女の口から疑問符が漏れたと同時に、ガシャンとモニタールームの扉があいた。
思わずグリムは後ろを振り返ると。
「よっ!ギリギリってとこかな!!......よく耐えたな!偉いぞノラ!」
そこにはルイを担ぎ、ニッと笑う黒髪の男がいた。
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