デスゲームⅩ エレオノーラの覚悟
「くふふふふ!!な~にが『あとは任せた』よ。責任から逃げただけじゃない!一人見殺しにするぐらいなら自分が死ぬ。ルイを一人にはしない。そう考えたんだね?......なんてバカな男。他人のために死を選ぶなんて、愚かすぎて反吐が出るわ」
ゆるゆると肩をすくませ、ピクリとも動かなくなったダインの体を視界に収める。
高圧電流を食らった彼の体は、内部がボロボロに傷ついているだろう。
確実に、死んだ。
そう確信し、ボタンを押した。
天井からアームが伸び、ダインの体を掴むと暗闇へ引きずり込んでいく。
「さぁ、どうするの?ただ一人図々しくも生き残り、のうのうと生きていく?それとも、バカ男を追ってあの世へ行くことを選ぶ?」
興奮冷め止まぬままエレオノーラに問いかけると、
「バカ男、か。確かにあいつはバカで変態でどうしようもないクズだ。......しかし、奴にはあって、お前にはないものがある。それがなんだかわかるか?」
真剣な眼差しを向けながら、そう問うてきた。
タイマーが残り30秒を知らせてくる。
「......なになに?もしかして、あのお兄さんを罵倒されてオコなの?悪いけど、私が劣ってるとこなんて」
ない、と言いかけたところで、エレオノーラは懐から黒く光る『短剣』を取り出した。
「......剣!?いったい何をするつもり?まさかベルトを......!?」
一瞬緊張が走るが、杞憂であったとすぐに気が付いた。
エレオノーラの体を拘束しているのは魔装の一つであり、そうやすやすと切れるものではない。
(そういえば、先刻ダインが何かを渡していたな。それが、この短剣だったというわけか。
コソコソ話していたのは、大方その剣で拘束を解き、私に襲い掛かろうという作戦についてだろう。)
と心の中で結論付け、不敵な笑みを浮かべる。
「そのベルトを切って私に襲い掛かろうっていう魂胆だったんだろうけど、残念でした!このベルトはそんな刃物じゃ絶対に切れることはない!あなたの希望は、今、ここで!終わったの!」
唾を飛ばしながら、彼女に現実を突きつける。
ただ一人残され、縋りついた希望さえも粉々に打ち砕かれた。
救いなどない。神に祈ろうとも助けなどない、と。ひどく絶望しているに違いない。
そう思った。
頬を伝う汗を拭いながら、どんな表情を見せてくれるだろうかと哀れな聖職者の表情を伺う。
しかし、目に入ってきた情報は予想とかけ離れたものだった。
エレオノーラの表情は、何もかもを諦め、この世に絶望する者のそれではなかった。
額に汗を滲ませ、ジッと剣先を見つめている。
ここで、何か異変を感じた。
(......狙いはベルトではないのか?)
彼女は短剣を持つ右手を小刻みに震わせ、唇をキュッと噛み、短剣と睨めっこを続けている。
ほんの数秒ではあったが、確かに彼女は躊躇っていた。
しかし今この時、彼女の纏う雰囲気が、著しく変化した。
見れば、彼女の目は戦地に赴く兵士のような、覚悟を決めた者のそれに変わっていた。
彼女は深く息を吐くと、左手を机に置き、あろうことか剣先を自分の掌に向けた。
「奴、そして私にはあって、お前にはないもの。せっかくだから教えてやろう。それは......」
彼女はそう言うと大きく右手を振りかぶり、そして......
『仲間のため、命を捧げる覚悟だ』ッッ!!」
自身の左手に、深々と突き刺した!
「くぅっっ!!!!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「な、なにぃぃぃ!?」
ズッという耳障りな音とともに、鮮血が弾ける。
これだけでも意味が分からないのに、何をとち狂ったか、エレオノーラは手に刺した短剣をグリグリと動かし、自身の肉をえぐり始めた。
「うぐぉぉぉぉっ......!!」
ギザギザとした短剣は、無慈悲にも彼女の左手に深い傷をつけていく。
左手を置いていた机から血液が滴り落ち、悲痛なうめき声が響き渡る。
「気でも狂った!?そんなに自分一人で生きるのが耐えられないなら、誤答して電流で死ねばいい!なんで、なんでそんな拷問を自分で......!!」
信じられないものを見る目で彼女を見ると、額に脂汗をかきながらこう言った。
「言っただろう......!!借りを作ったままは性に合わないと!!あいつは言葉通り、命を差し出してまで私に託したのだ。このバカげたゲームに、誰一人欠けることなく勝利するために......!!」
……こ、こいつは、何を言っているんだ!?
正気とは思えない行動をする彼女の前に呆然と立ち尽くしていると。
グリグリと傷つけていた右手を止め、エレオノーラがこちらを見てきた。
「......確かに、これまでのあいつの言動は腹が立って仕方がなかった」
しかし、と彼女は一拍置き、不敵な笑みを浮かべた。
「頼られるというのは、存外悪くない」




