デスゲームⅨ ダイン、散る
私はなぜこんなに苛立っているのだろう。
あの無力だと思っていた男に出し抜かれ、卑怯な手段を取らざるを得なくなっているから?
画面を切り替えながら、自分の中に渦巻く憎悪の正体を模索する。
……それもあるが、どうにもその隣の女。エレオノーラに意識が持っていかれる。
どうにも気に食わないのだ、この女は。
自分で解決すると息まいておきながら、結局は窮地を青年の助けで脱している所が特に。
それに......と、彼女の胸元へ視線をやると、そこには特殊な紋章が入ったペンダントが。
(こいつ、わかってはいたけどフレイヤ教徒か......ちっ、どうにもこいつとは相容れない様ね)
心の中で唾を吐きかけ、目の前に座る二人へ口を開く。
「第三試合ではルールが変更される。解答制限はなしでいいよ。どうせ正解したくてもできないし。あと、『一分以内に答えないと鞭で叩かれる』とか追加しちゃおうかな。正解するか迷ってるお兄さんたちを、いっぱい痛めつけてあげる」
それに.....と。
「また首輪、つけさせてもらうね」
パチンと指を鳴らすと、天井から延びたアームが、二人の首にチョーカーを付ける。
「安心しなよ。今回は首が締まったりはしないから。ただ......誤答したらそいつに電流を流すから。慎重に考えてね?自分たちの命と仲間の命、天秤に掛けなよ」
くっ......!と唇を噛みしめ、こちらを睨んでくるダイン達。
どうせこいつらは、わが身可愛さに仲間を見捨てることなどできないだろう。
「正解したらルイが死ぬから正解できない。かと言って誤答すると電流が流れるから黙るしかない。しかし黙っていれば無限に鞭打ちされる......まさに地獄だな」
悔し気に言葉を紡ぐエレオノーラを見下ろしながら。
「どうせ仲間を見殺しになんてできないでしょう?さぁ早く私に懇願しなさい?どうか問題に答えてください。負けさせてください。こんな地獄耐えられません.......って!!」
状況を理解したのか、みるみる青ざめていくダイン。
「クソが!お前に人の心はねーのかよ!!人の命を盾にして、一方的に俺たちをいたぶるつもりだろうが......これは『テスト』だって言ってたよな?こんな横暴がまかり通んのかよ!監督者を呼べよ!公平にジャッジしてもらおうか!」
「残念だけど、博士からここでの試験は一任されてるの。いうなれば......私が監督ってとこかな」
非情な現実を突きつけられ、ダインとエレオノーラの引き攣った顔が戻らない。
ああ!最高に気持ちがいい。
くそ生意気なあの女の表情ときたら!
今夜はあれを肴に美酒に酔いしれよう。
「というわけで、可愛く私に媚びて降参をねだってね♡……第一問、スタート!」
画面に問題が映し出される。
さきほどの法則に当てはめれば簡単に答えられるが......もちろん、彼らにそれを決断することはできない。
二人がどんな無様な懇願をしてくるかと期待していると、なにやらコソコソ話し始めた。
「何をコソコソ話してるか知らないけど......もしかして効果的な懇願の言葉を相談してるの?それならまあ、許してやってもいいけどね?」
今の私は非常に機嫌がいいのだ。
ここから逆転されることはまず100%ない。断言できる。
ダインの言葉になにやら驚いた表情を見せるエレオノーラ。
「貴様、正気か......!?ほんとに、ほんとに大丈夫なんだな!?」
と、なにやら食って掛かっている。
「何話してるか知らないけど、時間ちゃんとみてよね~?私におねだりしないと、鞭で打たれちゃうよ~?」
ニヤニヤと二人を見つめていると、相談は終わったのか、ダインがこちらをまっすぐ見てきた。
……違和感。
なんだ、この男の目は。まるでここからが勝負だとでもいうような目をしているじゃないか。
「......生意気。自分の立場、わかってる?もうここから勝つ方法は一つもないの。バカじゃあるまいし、それくらいわかるでしょ?わかったら、さっさと懇願を」
「なぁ、グリム。俺バカだからさ、ここから勝つ方法がないだなんて発想、出てこねえんだわ」
私の発言をさえぎり、とんでもないことを言い出すダイン。
「は?お兄さん、なにを......」
言って、と呆気に取られていると、『ピンポーン』と軽快な音が鳴り響いた。
見れば、彼の右手が赤いボタンに添えられているではないか。
「なにをするかと思えば......なに?まさか仲間を見捨てて二人で勝つつもり?お兄さんって外道?人の心ないのはお兄さんの方じゃないの?あ~イケメンのお兄さんがかわいそう!」
と、嫌な汗が滴り落ちるのを感じながら捲し立てる。
まずい!予想外すぎる、この男!
てっきり仲間を見捨てられない甘い男だと思っていた。
すっかり選択肢から外していた行動をとられ、思考が白く染まる。
まずいまずい、負ける!この私が!くそっ!あと一回、あと一回勝てばここから解放されるというのに......!!
「おいおい、随分必死じゃねえか。さっきまでの余裕綽々な態度はどこ行ったんだ?グリムちゃんよぉ?......でも、安心しな。俺はルイを見捨てるつもりはねえ。」
「は?」
この男、今度は何を言い出すのだ。
見捨てるつもりはないということは、つまり間違うと。そういうことなのか?
「正解は、『俺』だろ?」
「ブブー!不正解。誤答者に電流が流れます。」
「バカが.....!!考えうる限り、最悪の選択をしたねお兄さん!!......どちらかを選べないやつは何も得ることはできないと、その身をもって思い知れ!この間抜け!」
「ぐあああああああああああ!!!!!」
「ダイン!!!!!」
ダインの絶叫に、エレオノーラが悲鳴を上げる。
まったく、焦って損をした。
めちゃくちゃな行動をする奴だった。
そうだ。私が負けるはずがないのだ。慌てる必要などどこにもなかった!
「......」
優越感に浸りながら、ダインの最後を見届けようと視線を向けると、かすかに口を動かしているのが見えた。
なんとなく、口の動きでメッセージを読み取る。
あ と は ま か せ た
それにこたえるように、エレオノーラが。
「この大馬鹿が。本当に死ぬやつがあるか......一度だけ。一度だけ信じてやる。借りをつくったままなのは性に合わないんでな」
その言葉を聞いて安心したのか、ダインは力なく机に倒れ......静かに息を引き取った。




