頭ダイヤモンド
ダインの率直なお願いにエレオノーラは目を見開き、少し間を開けて口を開いた。
「......セクハラする人を手伝うのはちょっと」
「その件に関してはごめんって!!全面的に俺が悪かった、この通りだ!!謝るから、考え直してくれ!」
そう言い終わるとダインは両膝をつき、そのまま体全体を地面につけた。
誠心誠意の謝罪を体で表現する、土下座ならぬ土下寝である。
確か不倫して妻以外の人を妊娠させた牧場のおっちゃんが、こんなポーズで謝罪していた気がする。
きっとエレオノーラも許してくれるだろう。
しかしダインの思惑とは裏腹に、エレオノーラは眉をピクピクと震わせこう告げた。
「それは謝罪なのか...?それともおちょくっているのか...?」
「マジの謝罪だって!!俺の村ではこれが習わしなんだよ!!」
予想外の反応に悲鳴をあげ、拳を振り上げ威嚇する彼女から逃げ回る。
すると横からボソッとルイが呟いた。
「エレオノーラさん、文化の違いで差別するのはちょっと......」
「また私か!?私が悪いのか!?......前から気になってはいたのだが、やつに脅されているなら私が協力するぞ?」
予想外の援護射撃に狼狽えつつ、ルイへ憐みの目を向けるエレオノーラ。
「私の意思なのでお構いなく。......そんなことより、僕たちに協力してくださいよ。あなたが相当の実力者であることはわかっています。前回使ったのも、なにか理由があったのでしょう?」
ルイはというと気にする素振りもなく、自信満々に自論を述べた。
しかしエレオノーラは眉を少し下げ、頭上に疑問符を浮かべていた。
しばしの沈黙の後、何か思い当たったのかポンっと手をたたき、口を開いた。
「ああ、朝の祈りのことか。何を勘違いしているか知らないが、私はただ日課の祈りを捧げただけだぞ?」
と、大真面目な顔でとんでもないことを口走るエレオノーラ。
「......は?つまりなんだ?すごく強い敵がいたからとかそういうわけではなく?」
「ああ。今朝は魔物共も襲ってこない、清々しい朝だったな」
「そんなことは聞いてねえんだよ!!じゃあなにか?お前は敵もなく、あんな滅茶苦茶な魔法ぶっぱなしたってのか!?」
とんでも発言に激情したダインが詰め寄ると、エレオノーラは不満げに顔を歪ませた。
「魔法ではなく祈りだと何度も言っているだろうが!あんな汚らわしいものと一緒にするな....!!......しかし、あそこまでの規模になるとは私も思ってなかったのだ。少し、反省している......」
気まずそうに頬を掻くエレオノーラ。
祈った本人が想定していなかったことが起きただと......?
そんな彼女の不自然な様子にしばし頭を悩ませていると、一つの結論にたどり着いた。
「......お前、まさか」
信じられないものを見る目でエレオノーラを見ると、彼女は少し照れ臭そうに頬を赤らめ、柔らかな唇を震わせた。
「ああ、ご察しの通り。-----私は、その...祈りの威力を制御することができないのだ」
彼女の爆弾発言に、その場の空気が凍り付く。
ダインとルイはゆっくりと顔を見合わせ、同じ結論に至った。
「よし聞いたなルイ。こいつはダメなやつだ。他をあたろう」
「ええそうしましょうダイン君。この人を仲間にすると、ろくな目に合わなそうです」
そそくさと荷物をまとめ、その場を後にしようとする二人。
「ちょっと待て貴様ら!!私は威力を制御できないだけだ!攻撃用と潜伏用の使い分けくらいはできるぞ!だからそんな冷たい視線を向けるなぁ!!」
うっすら涙を浮かべ、ダインの肩につかみかかるエレオノーラ。
そんな哀れな聖騎士の手を、ペシっと払い落した。
「いや、さ?ふと思い出したんだよ。確か、任務があるとかなんとか言ってなかったか?......流石に、俺たちも任務をすっぽかして協力しろだなんて言えねえよ......邪魔したな」
「さ、さっきと言ってることが違うではないか!それに、任務はもう終わっている!あとは脱出するだけなのだ。ほら、目的は一緒だろう....?」
そういってなんとか引き留めようとするエレオノーラ。
そんな彼女をみて哀れに思ったのか、ルイが助け舟を出した。
「ダイン君。制御できないとはいえあの攻撃魔法は強力です。毎朝これを打たれると『非常にめんどくさい』ですが、他の魔法を使わせればいいだけでしょうし、『しかたなく』同行させてもよろしいのではないせしょうか」
毒のあるルイのフォローに若干顔を引きつらせるエレオノーラであったが、この好機を逃すまいとダインへ詰め寄った。
「そ、そうだとも。私はこう見えて、フレイヤ聖騎士団、第7班の副長なのだ。きっと役に立つと思うぞ?......おいルイ、今魔法と言ったか?何度も言うがあれは祈祷」
「はぁ......ったく、しゃあねえな。わかった、好きにしろよ。でも、さっきみたいな魔法は緊急時以外撃つなよ?」
ルイの言葉に引っかかるエレオノーラの発言を中断させ、しっかりと釘を刺すダイン。
そのまま散らばった荷物を片付けているルイの元へ。
「俺たちの元々の目的地はすぐそこなんだ。エレオノーラも手伝えよ。すぐ出発するから」
そんなダインの言葉に怒りを露わにしながら、後に続くエレオノーラ。
「まったく貴様らは......!!...ふん、わかっている。祈りは潜伏のみにすればいいのだろう?」
そうして三人で荷物を拾い集めていると、ふと気になることが。
「なぁ、エレオノーラ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。お前のあの槍、二度しか見てないんだけど今までどう戦ってきたんだ?」
「ん?......ああ、それは」
とダインの質問に答えようとした刹那、後方から怒号が響き渡った。
「......!!おい、魔物だ!貴様ら構えろ!!」
彼女の言葉に反射で振り向くと、そこには先ほどの槍に引き寄せられたのか、熊型リーパーが木々を掻き分けこちらへ向かってきていた。
「くそ!よりによってあいつかよ...!!」
散々苦渋を飲まされた相手に毒づくダイン。
正直、前回のように倒せる自信はない。前に負った傷を思い出し、足が震えだす。
「大丈夫ですダイン君、今回は彼女がいます」
そんなダインを見かねて、ルイが肩に手を置いてきた。
「そ、そうだ。エレオノーラさん、やっちゃってくださいよ!」
彼女のバカみたいな威力の槍なら、瞬殺だろう。
そう思いエレオノーラの方を見ると、「何を言ってるんだ」といった顔でこちらを見返してきた。
「貴様、同行というのは共に戦うという意味であって戦闘の代理をするという意味ではないぞ
?」
「ばっかやろう、何言ってんだ!こういう時のための祈祷だろうが!俺たちは木に捕まってるから、思いっきりかましてやれ!」
そう言ってルイとともに木に手をかけるダイン。
徐々に足音が迫ってくる。熊型リーパーのシルエットが大きくなり、血走らせた目でこちらを射抜いてくる。
刻一刻と危険が近づく中、エレオノーラは一向に祈祷を行うそぶりを見せない。
むしろ両腕を構え、まるで素手で立ち向かおうとしているようにすら見える。
「ちょっ、おい!早く祈祷唱えろって!まじでやばい!もうそこまで来てるからぁ!!」
ダインの絶叫に目を配らせ、ハッとあざ笑うエレオノーラ。
「貴様、自分が何を言っているのかわかっているのか?私たちは、『神にお願いする立場』なのだぞ?......一日にそう何度も何度もお願いするのは失礼だろうが」
彼女のとんでも発言に、思わず動揺が口からこぼれる。
「......は?.......おま、何言って」
「フレイヤ経典にはこう書かれている。......汝、分をわきまえよ。フレイヤの顔も三度まで、とな」
嫌な予感がする。冷たい汗が頬を滑り、地面へ落ちていく。
どうか勘違いであってくれと彼女の言葉を待っていると、当然のようにダインの期待は打ち崩された。
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「私は今日すでに三度祈った。......これ以上祈るくらいなら、この身をくれてやろう」
ダインはバカ聖騎士が言い終わると同時に彼女の手を掴み、迫りくる脅威から逃げるよう反対方向へ全力で走り出した!
「何がフレイヤ教だ!!ちっとも使えねえバカ集団じゃねえかあああ!!」




