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努力する彼女と努力をやめた僕  作者: 成浅 シナ
番外編
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83/87

生徒会役員共

ずっと憧れだった人がいる。



ずっと追いかけていた背中がある。



だけど俺が少しずつその距離を詰めようと躍起になっている間にそいつはピョンと大ジャンプして距離はどんどん開いていく。




だから認められた。


そいつははそういう人だと。雲の上の存在なんだと。




同時に小さな願いを持った。


並べなくても、追い越せなくても、せめて近くにいられたら。



だから期待した。

高校の入学式でそいつを見た時。





なのに...





「うっはぁー...」



そんな声に書類に目を通していた目を止める。


顔を上げ、眼鏡の位置を直すと引き攣った顔で新しく会計に就いた1年の生徒会役員がファイルを手にしている。



「どうした」


「いや、聞いちゃいましたけど仕事量ほんと半端ないですね」


「そのくらいまだ少ない方だ。夏休みになれば2学期の行事に備えた準備があるからな。夏休み返上だぞ」


「うへぇ...マジっすか」



「でも、慣れてきたオレもさすがに引くレベルだよ。ジュンがおかしいんだって」


会計の横で書類を整理しながら話を聞いていた顔馴染みの生徒会書記が口を挟む。


そいつは去年も生徒会に所属していてそこそこ仲は良い。


「根性あればなんでも出来る」


書記の物言いに少しムッとしながらそう返すと


「出たよ根性論」


と茶化された。


文句を言っても仕方がないのは去年学んだので無視を決め込む。




7月の下旬。冷房のない生徒会室は蒸し暑い。


座っているだけなのに汗が垂れてくるほどだ。


近くで古い扇風機が駆動音を立て回っているがその場しのぎにもなっていない。


だが、今は出払っている1年の副会長は朝から生徒会顧問の使いっ走りで動き回っているのでそれに比べれば幾分マシだろう。



「あ、そう言えばあれから押川先輩とはどうなんです?」


会計がその名を口に出した途端、思考が停止した。


「...どうって...週に3回、外周走ってるが」



あの日、俺はあいつに負けた。


いや、実際先にゴールラインを抜けたのは俺だったがあの瞬間『負けた』と思った。



その結果、俺は会長になることを決めたのだ。


今こうしているのもあいつのせい......



「な、なんですか会長...!?机叩いて」


「あー、いつものやつだから気にしないでやって」


戸惑う声を上げた会計を書記が流す。




勝負に負けた翌日、俺は押川に頼みをした。


それは『週に何回か、部活の練習に付き合ってもらうこと』。


俺だって押川の願いを聞いたんだからこれくらい許して欲しい。


実際、押川も「交換条件ってことで」とすんなり頼みを受けてくれたし。


会長になってますます忙しくはなったがそれを言い訳には絶対しない。


いつか、ずっと憧れていたあの背中にグンと近づいてやるという目標も諦めた訳じゃないんだ。



「でも、凄かったですよね、押川先輩」


「あー、それな。まさかジュンとあそこまでいい勝負するとは」


ヒクッと小鼻が膨らむ。


自分のことじゃないのになんだか嬉しい。



だから


「当然だ。それにまだまだあれ程のもんじゃねぇよ。だから今性根を鍛え直してんだ」


「あーはいはい。だから文句言いながら仲良く走ってんだな〜」


書記が適当な声で言った。


「なんだ。見たのか」


どうにも押川と走る時は周りが見えなくなる。


テンションが自分で分かるくらい舞い上がってしまっているのは認めるが自重しないといけないかもな。


「そりゃ目立つって。いつも冷静な頼れる生徒会長が怒鳴りながら走ってればさー。押川も引いてんじゃん」


「え...」


目立つんだ。


そして押川引いてんのか...


「いや、そんなあからさまに落ち込まれると...」



落ち込んでない。



「あー、悪かったって、な?引いてるとは言っても嫌...ではなさそうだし。ほら、喧嘩するほど仲がいい的な?」


「喧嘩なんかしてない。喧嘩は対等な立場に立ってするものだろう?俺と押川は対等じゃないからな」



「いや、そんな堂々と言われても...」


書記と会計は顔を見合わせ何故かため息をついた。


「ホント押川先輩のこと好きなんですねー」


「ばっ、違ぇよ!!」


そう否定するとすごくかるーく流された。



どうにも後輩に舐められているような気がしてならない。


「雰囲気もまるで別人になるからなー」


「そ、それは格好のせいじゃないか?部活の時はコンタクトだし!」


眼鏡を外し「ほら」と言うように顔を見せる。


ボヤけていて2人の表情は見えない。


「いや、それもあるけど...でもなー」


眼鏡をかけ直すと、書記は意味深なニヤケ顔で頬杖をついてこちらに視線を投げる。



「ああ、もう!いいだろ、この話は。ほら、仕事はまだ山積みだ。さっさとノルマ終わらせないと帰れないぞ」


「うえ、それは勘弁」


会計が慌てた声を上げ、仕事を再開させる。

書記も「はーい」と適当な返事をして書類を再び手に取った。



たくっ...



仕事は出来るのにたまにこうやって俺をおもちゃみたいに扱うのが玉に(きず)だな。



壁時計で時間を確認し、ついでにその下の辺りにあるカレンダーを見る。



そう言えば明日は水曜日。


押川が部活に顔を出す日だ。


夏休みになれば休み明けまで部活には来ないことになっているし最後の練習、明日はどうしてやろうか。





そう考えながら富永淳太の口元は自然と緩んでいた。

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