花火①
ムシムシと生ぬるい風が頬を撫でる。
早いものでもう7月半ば。
一学期最後の期末テストを終え、後は迫り来る夏休みを待つのみとなった今日この頃。
僕は浮かれていた。
理由はつい数分前のことだ。
『29日の花火大会一緒にどうですか?』
そんなメッセージが祈から届いたのだ。
そのメッセージを見た瞬間、僕の脳内テンションはカンストしそうな勢いのまま電話をかけた。
だが、一緒に会場に行くことはしない。
それは僕から提案した。
僕と祈が付き合っていることはもう学校中に広まってしまっているものの相変わらず祈は学校の人気者。
元々恥ずかしがり屋の祈が人目を気にして楽しめないという理由が表向き。
もう1つは、情けないし、みっともないけど僕の自分勝手な独占欲だ。
学校では相変わらず祈と話せないし放課後に毎日一緒に帰ることもしない。
だからこそ、その日だけは2人で、なんて思ってしまう。
『じゃあ...私の家に来ませんか?』
花火大会の会場は僕たちの通う学校の側だ。
学校近くの祈の家からも小さいが十分見ることが出来るらしい。
―――というわけで初めて祈の家に行くことになった。
※
そして当日。
「うわぁっとぅ!?」
勢いよくペダルを踏み外して大袈裟に悲鳴を上げてしまう。
幸い近くに人がいなかったが恥ずかしい。
信号待ちの間に何度も何度も自分の服を見下ろして本当にこれで良かったのかと首を捻る。
持っている中で1番マシな物を組み合わせて来たが根本的なセンスが欠損していればただただダサい奴なんじゃないだろうか。
一応、直樹に昨日連絡してスマホ越しに見てもらったが『いいんじゃね』とかるーく言うあの言葉を信じていいものか...
そうこうしているうちにいつもの通学路40分コースを自転車で進み、更に校門を過ぎて住宅街へと入っていく。
少し漕ぐと祈の住む真新しいマンションが見えてきた。
駐輪スペースに自転車を止め鍵をかけた後、身だしなみを僕史上最高に(自己満)整えてエントランスを潜る。
オートロックなのでそこで事前に聞いていた部屋番を1つずつゆっくり押すと
「はい」
くぐもった祈の声が聞こえた。
「あ、あの...!僕...押川だけど......」
初めてのオートロック、電話とは違う祈の声、これから起こるであることへの期待や緊張を含み言葉が詰まる。
その緊張は祈にも伝わってしまったのか
「あ、はい!今開けます!」
そう慌てたような声が聞こえた後、ブツッと通話状態が切れ自動ドアが開いた。
ゴクリと喉が鳴り、ゆっくり歩を進める。
さっき拭ったばかりなのに汗が垂れてきた。
エレベーターで8階のボタンを押すとき、8階に着き部屋の前まで行くとき、インターフォンを押すときと祈と会うまでのその1つ1つの行程を追うごとに心臓はバカみたいにバクバクと早鐘を打っていた。
だって女子の家に行くなんて初めてなんだもん。
ドアの奥でこちらに近づいて来る足音がする。
そして―――
「い、いらっしゃいませ...」
ひょっこり、祈が顔を覗かせる。
「お、おう...」
やばい。
視線、合わせられない。
休日だからか、しばらくぶりに2人きりでいられるからか、それとも初めての祈の家だからか...
色々な要因が重なって頭が嬉しさやら恥ずかしさやらの正の感情でパンクしそうだ。
ドアがゆっくり開けられ、祈の全身が見える。
ふわっとしたブラウスに淡いパープルのシフォンスカート。首元には主張しすぎない程度に控えめなピンクゴールドのネックレス。
足元は玄関だからかラフなサンダルだけどそのアンバランスな感じが逆に良いまである。
出会って間もないときに図書館で会ったときとは雰囲気がまるで違っていた。あの時は変装していたからかもしれないが。
「服...」
「...ッ」
ピクッと祈の体が震える。
「似合って...るな」
目を逸らしながらになってしまったがそう言うと
「あ...ありがと...ございます」
小さな声で祈は俯いた。
ちらりと覗いた耳は真っ赤になっている。
多分、それと同じくらい、いや、それ以上に僕も真っ赤になっているだろう。
「それじゃぁ...どうぞ」
「う、うん。おじゃま...します」
2人して照れながらやっと、中へと入った。




