52.5 恋バナ
「永田さんっ」
男女別れた体育の授業。
体育館の女子更衣室で着替えているとクラスメイトの那須祈さんが無邪気に話しかけて来た。
「隣いいかな?」
頷くと那須さんは隣のロッカーに荷物を置き、制服の上着を脱ぐ。
普段から那須さんは男女問わず人気者でクラスの中心。
去年からの知り合いとは言っても那須さんはいつも誰かと一緒にいて新学年になって1週間経った今でもたまに短いやり取りをするだけだった。
何度かクラスでの遊びに誘われたこともあるが大勢でいる苦手な私は毎回なんだかんだ理由をつけて断っている。
那須さんのことは嫌いじゃない。
初めは何か裏があるんじゃないかと疑っていたこともあったけど裏表ない善人なんだろうなとすぐに考えを変えた。
新学期初日、新しいクラスメイトに囲まれ堂々としている様子もクラス委員に推薦されすぐに引き受ける人望も自信も素直に凄いと思う。
「やっほー」
そんな掛け声と同時に那須さんの隣のロッカーを陣取ったのは同じクラスの春海香恵さん。
よく那須さんと一緒にいる姿を良く見かける。
2人は仲良く談笑しながら着替え始めた。
更衣室の端で縮こまるように着替える私は邪魔者になった気分だ。
ここは気配消してさっさと着替えて出よう。
「あっ、そう言えばさ。永田さんって実際押川くんのことどうなの?」
いきなり話しかけられた事と突然の透の話題に不意をつかれた私は思わず咄嗟に否定出来ず口ごもる。
「や...それは......」
「ちょっと、香恵。あまり詮索しちゃだめだよ」
那須さんがそう止めてくれようとするも
「えー、いいじゃんいいじゃん。なんか有耶無耶ーな感じになってるけどさやっぱ気になるし。ほら、今女子しかいないし?」
「......」
いや、諦めないで止めてよ!那須さん!
私の心の声は届かず那須さんは困ったような、でもやはり興味はあるといった様子でちらりとこちらを見た。
「...付き合っては...ない」
そう声を絞り出すと
「お、含みのある言い方。実際押川くんのことどう思ってるの?去年よく一緒にいたよね?」
なんかグイグイ来る!!
「それは......」
正直に答えるべきか...
でも私なんかが透のこと...そういう風に思っているなんて話が広がったら透が変な風に思われてしまうかもしれない。
それに...嫌われることだって...
感情がごちゃ混ぜになる。
自分じゃどうしようもないほど顔が、体が熱い。
伏せていた視線を上げると2人は好奇の目を向けている。
逃がしてくれそうな気配がない。
「き...嫌いじゃ...ない」
小さな声でそう言葉を絞り出すと
「やっぱり!そうなんだぁ!うんうん!」
と春海さんは何やら1人納得したように声を上げ「応援する!」と拳を握った。
一方の那須さんは驚いたような顔で固まっていたが私と目が合うとニッコリと笑みを作った。
そんな話をしているうちに予鈴がなって更衣室に残っていた女子生徒達は「ヤバッ」と声を上げ慌て出す。
そうなると悠長に話してはいられなくなる。
ようやく私は解放され着替えて更衣室から脱出した。




