51.5 注目
今日から私は2年生に上がる、のだが...
頭が重い。
昨日緊張で眠れなかったから?
これまでは学年が1つ変わるだけでこんな気持ちになることなんてなかった。
教室の場所やクラスメイト達が一変しても私は変われなかったから。
いつもただ1人、机に向かっているだけ。
離れ離れになって困る友人もいない。
だけどこの日は違った。
『ねぇ、透は文理選択どっちにした?』
『んー...理系』
私と同じ道を選んだと知り心臓が跳ねた。
この時から私の中で『ある期待』が膨らんでいた。
膨らみすぎて、もう破裂しそうなくらい。
理系クラスは毎年2クラス。
それも成績が良い順に振り分けられる。
ほぼ間違いない確率で同じクラスになれる。
それは夢にまで見たことだ。
放課後だけだった『その時間』が増えるのは。
顔が熱い。
心臓の音ばかりうるさい。
感覚が遠くなって自分が自分じゃないみたいだ。
楽しみと不安半々くらいの気持ちで少し早く登校する。
まだ早い時間だからかクラスが張り出されている掲示板前の人はまばらだ。
意を決して2年1組の上から自分の名前を探していこうと目を向け
あ...
1番前に『押川透』の名前を見つけた。
名前が書かれているだけ。
それなのに心臓が平常以上に暴れ出す。
喉がカラカラに乾く。
1度は突き放そうとした『想い』は日を増す事に自分じゃどうしようもないくらい溢れてきている。
もはや理屈じゃ抑えきれない程に。
ゆっくり、ゆっくり。
1つずつ名前を確認していって後ろの方に『永田詠子』の字を見つけた。
「やっ......」
やったー!
と思わず声を挙げかけて慌てて口を抑える。
夢じゃない...
事前に予測していたといっても実際にそれを目にして嬉しさや安堵感、先への期待が増す。
ニヤけそうになり唇を強く噛んだ。
それでもなかなか収まってくれそうにない。
私は早足で靴箱から遠ざかり急ぎ足で図書室へと向かった。
※
「...おはよ」
イタズラ成功。
勇気が出ず図書室に留まっていたから結局教室に着いた時間は結構時間ギリギリになってしまった。
教室には既に半数以上の生徒が談笑している。
その中で廊下側の1番前。
口をぽかんと空けて目を驚きで見開いた、明らかに戸惑った様子の透を見てあからさまにニヤけそうになった。
が、クラスメイト達からも視線を集めてしまっていることに気づきもっと話したいという思いを断ち切って急ぎ足で黒板で席を確認し着席する。
その間、透だけではなくクラスメイトの視線が自分に向いていることを自覚していた。
2月に思い切ってメガネからコンタクトに変え、髪を下ろした時から異常なまでの視線が私に向いている。
別に私は注目を集めたい訳じゃない。
見て欲しいのは1人だけなのに。
そんな想いは周りはちっとも理解してくれない。
新しいクラスメイト達が私の周りに寄ってきて好奇の目を向ける。
私はその輪の中で完全に萎縮していた。
質問をされ当たり障りのない答えを返す。
ただそれだけのやり取り。
ちゃんと答えられたかな?
今のあれで良かった?
そんな不安が頭を覆い尽くす。
結局透とは少しも会話出来ていない。
席もほぼ正反対の位置だし。
「あ、そうだ。永田さんっ」
昼休み。そう言って元気そうな女子生徒が私の机に手を着いた。
「押川くんと付き合ってるの?」
「......え」
その女子生徒に続けとばかりに周りを囲んでいた他のクラスメイト達が質問をする。
「あっ、やっぱそうなの!?去年よく放課後一緒にいたよね!?」
「私も見た!仲良いよね〜。押川くん。根暗そうだけどよく見ると結構顔悪くないし」
反論しようにも、何か言おうにも次々とクラスメイト達は話を勝手に進めて都合よく解釈して
「で、実際どこまで進んでんの!?」
キャーと女子たちは盛り上がる。
どこかこの流れ既視感があった。
そうだ。
去年佐々木さんたちに詰め寄られたときと同じ。
去年は嘘を言うことで何とか透を守ろうとした。実際あの後はクラスメイトから詮索されることもなくなったし。クラスも透とは端と端で離れていたから。
でも今年は違う。透とは同じクラスでここで私がヘタに何か言えばすぐに、簡単に透に飛び火する。
どうしたら。
「もう、みんな永田さん戸惑ってるよ?」
いつの間にか近づいてきた新たな乱入者がそうやんわりと私を囲っていたクラスメイト達に言った。
みんなの視線は私から一斉に離れ、その女子生徒―――那須祈さんへと向く。
学内アイドル。
まさにそんな言葉がピッタリな存在。
容姿端麗。才色兼備。成績優秀。運動だって出来る。
噂では次期生徒会長候補だとか。
その注目は私なんか比じゃない程。
那須さんとは1年の時に偶然知り合った。
その時私はまだ『変身』する前で周りから浮いていた。
だが、そんな私にも初めて話すのに優しく接してくれた。
那須さんはクラスメイト達とやり取りし穏便に解決する。
「ありがとう...」
「いいって。それより話すのだいぶ久しぶりだよね」
そう言って笑う那須さんに私は思わず見とれてしまった。
そりゃみんな注目するわけだ。納得。
那須さんは昼休みが終わるまで一緒にいてくれた。
それが自然とクラスメイト避けになっていて少し私は安心した。




