㊾通知
詠子の告白事件から2日。
あれから詠子には会っていない。
翌日は終業式で図書室は閉鎖されていたしわざわざ教室に行くこともしなかった。
一応あの日の夜に連絡はしたのだが簡素なやり取りを少ししただけで終わった。
そんなこんなで春休み初日。
来年は受験対策で忙しいだろうから実質高校最初で最後の心置き無くダラケられる長期休みだ。
―――なのだが、僕は早く起きる必要が無いのにいつも通りの時間に目が覚めた。
目が覚めた直後には早くも心がザワザワし始める。
理由は簡単。
莉愛の合格通知が届くのがが今日かもしれないのだ。
『今日かもしれない』と断言していないのは高校が第2次試験の通知書の発送を『3月下旬』としているため。
なんだよ下旬って。
それを伝えたときに『いつだ』って断言出来ないなら通知書を発送した日に『発送しました』って言ってこいや!!
―――と文句を言いたい気分になる。
それを言いたいのは莉愛も同じだろう。
3月の初めに第1次試験、そしてその結果をネット発表で見てからすぐに2次試験に向かった。
それが終わってあとは結果待ちのみとなってから莉愛が何をするでもなく休日はリビングでボーッとしている所を度々見ていた。
今まで通っていた塾も辞め家にいることが多くなっている。
それが卒業式が終わった一昨日くらいから様子が変わり落ち着きがない。
昨日は午前で学校を終え僕が帰ったので久しぶりに一緒に買い物に行ったのだが郵便局のバイクやポストを見つける度に明らかに顔を強ばらせていた。
そして帰って自宅のポストを恐る恐る開け、通知が来ていないことを知ると安堵したようなこれから来る通知に不安げな顔をするのだ。
昨日一昨日に通知が来なかったのであればきっと今日。
莉愛だってそれは分かっているだろう。
※
午前中は1人朝食を簡単に済ませ自室で本をダラダラ読んで過ごし莉愛が作った昼食を食べた後2人リビングでいた。
といってもやっていることはバラバラだ。
僕はテレビを見て莉愛は分厚い本を読んでいる。
だがそのページは本を開いたときから1ページも進んでいない。
莉愛は苦々しい表情のまま口をキュッと引き結んでいる。
その視線は時折窓の外に向いた。
正確には1階のエントランスに備え付けられたポストにだろう。
この辺りに郵便物が届く時間は午後2時から4時の間。
もう来ていてもおかしくない時間を時計は示す。
テレビのチャンネルはそのまま変わらず昔のドラマの再放送をやっていた。僕はリモコンに手を伸ばし手持ち無沙汰にチャンネルを送る。
すると唐突に莉愛が立ち上がった。その顔は緊張で強ばっている。
時刻は午後4時をほんの少し回っていた。
無言で莉愛は外へと出ていく。
「はぁー...」
大きく息をついた。
僕だって緊張している。
受かっていて欲しいな...
そう思って窓の外を眺めていると
ガッ!!バタンッ!!
と大きく玄関の扉が開いて閉まる音がした。
だが莉愛はリビングには入って来ない。
不安になって慌てて玄関に向かうと莉愛が玄関の扉に背を預けたまま立っていた。
走って帰ってきたのか肩で息をしている。
その胸には両手で大事そうに封筒を持っていた。
「お、おい...」
そう声を掛けると莉愛はまだ強ばった顔のまま靴を脱ぎ僕の脇をすり抜けてリビングへと入っていく。僕もそれに従った。
「......」
テーブルの上に置いた高校名の入った封筒を莉愛がじっと見る。
こちらまで緊張が伝わった。
莉愛は深呼吸をし封筒を持ち上げてひっくり返し、慎重に封を切っていく。
だが、僕は莉愛が封筒を開ける時、気づいてしまった。
先程までの緊張は霧散し別の感情が込み上げる。
ネットや掲示板での合格発表とは違い郵送の場合は封筒を人目見た瞬間に封筒の重さから結果がだいたい予想出来る。
不合格なら通知書1枚で良いから封筒自体が軽く、薄いが合格発表ならその後必要な高校の案内やらなんやらで自然と封筒も厚くなる。
見るだけでも明らかに莉愛の封筒は分厚かった。
莉愛はそれでも通知書を見ないと安心出来ないのか慎重に、ゆっくり中身を掴む。
一瞬中身を引っ張り出す手が止まった。恐らく『まさか』の出来事を想定しているのだと思う。
中身が沢山入っていれば合格。
そんな認識が誤っているかもしれない可能性を。
莉愛はギュッと怖がるように目を閉じて勢い良く引っ張り出した。
1番上には白い紙に印字された通知書。
その紙の『合格』の文字を僕はすぐに発見した。
その下には合格であることを念押しするように入学手続きの各種書類の提出のことやオリエンテーションの日取りなどが書かれている。
その文は当然、正面から見る莉愛にも見えている。
「あ......」
莉愛の目が大きく開かれる。
そして瞳にみるみるうちに涙が溜まり、そして溢れた。
今まで溜め込んでいたものが決壊して一気に流れた。そんな感じだった。
莉愛は声を上げず、涙を拭うこともせず腕をだらんとたらしたままでいた。
「おめでとう」
静かにそう言うとゆっくりと莉愛が顔を上げる。
「お、おにい......」
その先は言葉にならず、莉愛は声を上げて子供のように泣きじゃくり始めた。
その姿は子供の頃を想起させた。
莉愛は泣き虫でよく僕の後ろに隠れていたっけ。
昔だったらここで頭を撫でるところだけど今の莉愛にしたら怒られるだろうな。そう思い伸ばしかけた手を引っ込めた。
莉愛は宣言した以上必ず実現する。
それはまたしても達成された。我が妹ながら本当に尊敬する。元々の才能もあって、努力を積み重ねて確実に結果を出していく。簡単なようで簡単じゃないことだ。周りからのプレッシャーもあった中、最後までやり通した莉愛が僕には眩しく見えた。
良かった。本当に良かった。
心から、そう思った。




