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努力する彼女と努力をやめた僕  作者: 成浅 シナ
1年生編
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㊽告白現場

3月に入るとすぐ3年の卒業式、そして高校の一般入試が行われた。


といっても僕にはそのどちらも関係ない。

関係があったのは妹の莉愛(りあ)だ。


高校受験はもう後半戦に入り、既に莉愛は滑り止めとして僕の通う高校の合格通知を獲得していた。残すは大本命の青島高校の結果待ちとなっている。


青島高校は家からはとても通えない距離にあるので莉愛はわざわざ休みを取った母と一緒に前日には出掛けて行った。

その間、家に完全に1人なっても特に変化はなく、目前に迫った学年末試験に向けての勉強をして、ダラケているうちに終わっていた。







「好きです」


3月も後半。


テスト返却も終わってあとは2日後に迫る春休みを待つのみとなったその日に僕は図書室を訪れていた。


今日は勉強をやる気になって来たわけじゃない。

詠子と毎日のように勉強するのはテスト前だけでそれ以外のときは気が向いたときに行っている。


詠子は大抵毎日放課後に図書室にいるから行き違いになったことはなかった。



3月の、しかもテストを終え春休み目前のこの時期図書室を利用する人はグッと減る。


だから油断していた。


それまでも大抵僕は一番乗りか先に詠子が他に誰もいない静かな図書室で勉強を始めている光景が当たり前で、それ以外の人がいるなんて思ってもいなかったのだから。





「付き合ってくれない?」




そう言ったのは僕じゃないし僕に向けられたものでもない。


咄嗟に身を隠した閲覧スペース近くの柱の冷たさが伝う。


一瞬しか見えなかったが先客は詠子の他にもう1人いた。


詠子はいつもの場所に座っていて、鞄を机に置いた状態だった。

恐らくここに来て間もない頃に声をかけられたんだと思う。

相手の男子は運動部にでも入ってそうな活発な雰囲気の男子生徒だった。

僕は見たことがないから上級生...いや、そもそも同学年全ての男子を覚えている訳では無いから違うかも。



少しでも顔を出すとバレる。

それに人の告白場面だ。

覗くのはマナー違反なのは分かってる。


でも、その告白の相手が詠子であったためか足が動かない。


『今動いたら足音でバレるかも』と頭のどこかでプラス思考で考えて言い訳すらしていた。



「......」


詠子は何も言わない。


2人から見えない位置で壁にへばりついているからか気づかれていないっぽい。

それはこちらも同じで2人の表情は伺うことが出来ない。



「あの、返事、いい?」


男子生徒が途切れ途切れにやや緊張を含んだ調子で言う。


初めて見る人の告白場面に僕までドキドキしていた。



詠子は、これを受けるんだろうか。



「ごめんなさい」


そう考えていると詠子がハッキリと言う声が聞こえた。


「なんで...!?」


男子生徒は食い下がる。何かにぶつかったのかガタッと音が鳴った。


永田(ながた)さん今誰とも付き合ってないんだよね?」


「そう...だけど」


詠子は萎縮したような小さい声でそう返した。


それに反するように男子生徒の声は大きくなる。


「じゃあさ!試しに1週間でもいいから付き合おう?ね?お互いまだ知らないことも多いし付き合ってみれば見方も変わるって!」


なんかむちゃくちゃなことを言い出してる。


あくまで噂で聞いた...というかクラスメイトが話しているのを盗み聞きしたことだがここ最近、具体的には詠子がクラスでも髪を下ろしコンタクトで過ごすようになってから告白する人が急増したらしい。それまでは永田詠子と聞けば顔を顰め、嘲笑う人が多かったのに。


今まで勉強のみにエネルギーを注いでいた詠子の急激すぎる変化に初め周りは戸惑っていた。だが、そこから皆一様に掌を返した。大方見た目に釣られたんだろう。


詠子の中身を、何も知らないで...


苛立ちでギリっと歯ぎしりする。


「ひゃっ...!?」


そう小さい悲鳴が聞こえた途端、僕は咄嗟に動いた。


ダンっと1歩目でわざと踏み鳴らし早歩きで詠子に近づく。


男子生徒は椅子に座って動けない詠子の手首を握っていた。

僕に気づくと一瞬驚いた顔をするもすぐに眉を(ひそ)める。


「なんだよ。今取り込み中なんですけど?」


明らかに不機嫌に男子生徒はこちらを睨みつける。だがそれに怯む訳にもいかない。あいにく、睨みつけられたりやっかまられたりするのは中学の時から慣れっこなんで。


「すみません」


僕はそう言いながら男子生徒と詠子の間に割り込んだ。男子生徒が咄嗟に詠子から手を離す。


「嫌がってるように見えたんで」


ちらりと詠子を見ると掴まれていた右の手首を左手でギュッと握りながら安堵した表情を浮かべていた。


良かった。『今回は』大事な場面で動けて。


「お前には関係ないだろ!どっか行けよ!」


それで引いてくれれば万々歳だったのだが男子生徒は怯まず威嚇してくる。


ここで怯んだら負けだ。


「あいにく、関係者なんだ」


大事な友達が困っているときに手を差し伸べられないなんてことがあっていいわけない。


「それに、詠子は嫌がっているように見えたけど?」


そう言うと男子生徒は顔を歪めその顔を詠子に向けた。


「はあ?永田さん、こいつと切れたんでしょ?」


切れた?

何が?




「切れてない」


詠子が答える前に咄嗟に口を挟んだ。なんのことかは分からなかったけど。


「切れるわけない」


念を押すようにそう言うと


「はあ!?」


男子生徒はしばらくあーだこーだと宙を見たり頭を搔いたりと挙動不審になったあと「んだよそういうことかよ」と吐き捨てるように去って行った。



男子生徒が去りいつも通りの静けさが戻る。


詠子は動かず椅子にじっと座ったまま俯いている。


「大丈夫か?」


そう問うとやっと顔を上げてくれる。その顔は若干赤い。


「あ...りがと。大丈夫」


「ったく。あんな強引に迫って勝ち目があると思ってるのか、あいつ」


「......」


悪態をついていると詠子の様子が普段と違うことに気づいた。手首を掴んだまま顔を赤く染めて俯いている。


そりゃそうか。あんなに無理矢理迫られて少なからず怖い思いをしただろう。


「助け、遅くなってごめん」


「う、ううん。来てくれて...嬉し、かった」


「あ...うん」


素直な言葉にどう返したらいいのか分からず戸惑う。

何だか落ち着かなくて視線を斜め上に向けて頬をかいた。


「今日は、もう帰らない?勉強どころじゃないだろうし...」


そう提案すると詠子はこくんと頷いた。

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