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努力する彼女と努力をやめた僕  作者: 成浅 シナ
1年生編
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㊺約束

「それで?」


勉強道具を鞄から取り出してから僕はそう切り出した。


平然とした様子を装いながらも突然の変化に少なからず動揺しつつ。



少なくとも詠子は今までこの姿を積極的にしたい訳ではないように感じていたから。


たった一言なのに詠子は僕の言わんとしていることを察したようで


「まあ...ちょっと」


「いや、僕はその『ちょっと』の部分が気になるんだけど...」


詠子は手に持ったままのペンに視線を落としたまま少し間を空ける。


「...『今まで避けてたもの』ともう少し真面目に向き合ってみようと思って」


意味深な言い方だ。


「避けてたもの?」


聞き返すと詠子はコクンと頷き


「まあ...色々。とりあえず今まで通りずっといるのも嫌だなって。だからとりあえず、手っ取り早く見た目を変えてみたってだけ」


やはり詠子は淡々とそう言った。

そしてペンを机に静かに置くと机の端に積んでいた教科書、ノートの中から1冊取り出してページを捲る。


抱えるようにして捲っているからその表紙が見えた。


詠子がTo Doリスト兼Wishリストと呼んでいた物だ。


「これ、覚えてる?」


「もちろん」


文化祭のすぐ後の週に見せてもらったものだ。

そのリストに則り2人でカラオケに行ったことも記憶に新しい。


詠子は目的のページを見つけたようでページを捲る手を止めノートを抱えたままじっとそのページを見ている。


そして意を決したようにノートを上下ひっくり返し机に置いた。


前に見たときと同じ文面だが既にいくつかに達成を表す丸が付けられている。1番上の『カラオケに行く』の文頭にも赤ペンの丸があり、2人で行ったあの日のことを思い出した。




詠子は突然深呼吸し出し


「じ...実は、ね。さるルートから水族館のチケットを手に入れたんだけど...」


「いや、どこだよ、さるルート...」


ついツッコんだ。

しかし詠子は特に反応せずじっと何かを待つように僕を見つめる。


なんだか気恥ずかしくなって視線を下げるとノートが目に入る。

もうだいぶ少なくなっている丸が付いていない項目のうちの『カラオケに行く』の1つ下に『水族館に行く』という文が並んでいた。



これを実行したいという詠子の願いをヒシヒシと肌で感じる。


突然のことで驚いたが改めて頭の中でスケジュールを確認する。



今週末。


今日が水曜日だから3日後か4日後。



先日全国模試を終え後は3月に控える学年末テストくらい。

それもまだ1(ひとつき)近く先だからまだ本気で勉強する程では無い。

土日はいつも部屋に籠るか暇を持て余して散歩に行く程度だからよっぽどのことがない限り今週もそうなのだと思う。つまり暇だった。


「まあ、...予定もないし僕なんかで良ければ付き合うけど」


何故か照れくさくて窓の方に視線を向けながら頬を掻く。


チラッと詠子を見ると自分から誘ったくせに初めポカンとした顔をしてそして顔を(ほころ)ばせる。


「よかった」


何度かこの姿の詠子を見たとはいえこんな風に緩んだ笑みを見せられたら友達とはいえ変に意識してしまう。




「じゃあいつにしようか」と聞き、話は当日の約束へと進む。


すっからかんだった図書室はいつの間にか人が徐々に入って来ていた。

学年も性別も違う。


だけど共通して言えるのはみんながみんな詠子に視線を向けるということだ。


詠子は話に夢中でそちらに気づいている様子がない。


結局、詠子は見た目を変えた理由を詳しく話してはくれなかった。


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