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努力する彼女と努力をやめた僕  作者: 成浅 シナ
1年生編
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49/87

㊹変化

2月14日、バレンタインデー。


日本では女子が男子にチョコを渡す日となっていて大抵の男子は浮き足立つ。


普通の平日で授業もいつも通り詰まっているはずなのに大半の生徒は甘々な空気を醸し出していた。

教師に隠れて休み時間にコソッと、あるいは大胆にラッピングされたチョコを男子生徒に渡す女子生徒の姿をチラホラ見かける。

きちんとラッピングはされているのにどこからか甘い匂いがほんのり漂っている気がする。





そんな日だった。





「めちゃくちゃ美人」


昼休みが終わって掃除の時間。


僕が箒で床を掃いているとそんな会話が聞こえてきた。


たまに話すくらいの付き合いのクラスメイト2人は教師の監視がないことをいい事に箒を一応持った状態で窓際に固まっている。


2人の会話はボリュームが大きい訳ではないが、比較的静かな空間だからかやけに響いている。



めちゃくちゃ美人。


何の話かすぐ察しがつく。


今日1日、その話題は午前中からもちきりだったから。



何でも5組にとんでもない美人が現れたらしい。

詳細は聞いておらず僕が知っているのはこのくらいだが。


休み時間や昼休みの間に確認に行ったらしい人が徐々に増えているようだ。



転校生だろうか?



大変だな。今この瞬間まで、受け付けてないのに見せ物みたいに人が押し寄せて。



「―――那須といい勝負だって」


2人のうちの1人がそう言ったのが断片的に聞こえた。


その名に不覚にもドキッとした。


僕の密かな想い人。

一時期はギクシャクした時期もあったし、ここしばらく直接会って話していない。

それでも連絡はちょくちょくしていた。火曜日の電話の日も健在だ。


願わくばもう一歩先の段階に行きたいと考え悶々とするときもある。

でも、それは考えるだけで実行には移せなかった。

祈は祈が築き上げたカーストトップの立ち位置があって僕は到底釣り合わない。

むしろ、今僕が無理に関わろうとしても相手に迷惑がかかるだけだろう。この間、詠子との噂がたったときのように。



そうなるくらいなら、ささやかなやり取りを続ける方が良い。例え、このまま関係が先に進まなくとも。



会いたい。


ふとした瞬間にそんな欲望が頭を掠める。そうして、今の自分の立ち位置を考えて、悲しくなる。



僕は努力をしようにも出来ない。努力した先の未来を考え、足がいつも止まってしまうのだ。


そんな僕が、努力して、積み上げてきた彼女と釣り合いが取れないのは理解している。

でも、頭で理解はしても心は納得してくれないようだった。



1度気づいて、願ってしまったことは見て見ぬふり出来なくなる。



そうして何もかも、手に入れようとして、全てが中途半端になって、結局失う。



僕はそういう奴だ。



だから、きっと、この先に起こることはそういうことなんだろう。





2月下旬に控える最後のテストに備え、僕は放課後、図書室に向かっていた。


約束はしていないがきっと詠子もいるだろう。

そうぼんやり考えながら。



今日のホームルームは終わるのが他のクラスに比べて遅い方で、既に廊下は騒がしくなっていた。

既にチョコの受け渡しはあらかた終わったようでテスト前最後の部活に向かう生徒が慌ただしく駆けていく。


その人たちにぶつからないように端を歩きながら教室棟を出て渡り廊下で繋がれた特別教室棟の4階に上がった。


4階に上がると同時に異変に気づく。


突き当たりの図書室はいつも静かだ。


だが、今日に限ってざわついている。1つ1つの話し声は小さいがそれらが合わさりボリュームが大きくなっていた。


人は入口付近に集まっていてなにやらしきりに中の様子を覗いている。

事件現場にでも出くわしたような気分だ。


恐らく図書室を純粋に利用してきた人達ではないということをすぐに把握する。



図書室の入口から少し離れた所に佇み、塞がれた入口から中にどう入ろうかと迷っていると司書教諭の姿が奥に見えた。

その司書教諭が何かを話し、入口を固めていた生徒達がぞろぞろと外に出て階段下に姿を消していく。


あまりのうるささに追い出されたらしい。


生徒が去り、司書教諭が司書室に引っ込むのを確認してからそろーっと中に入った。


先程は野次馬のせいで利用者が多いように見えたが中は思っていた以上に閑散としていた。

それどころか1人を除いてあとは誰もいない。



その1人しかいない利用者は窓際の席で教科書とノートを広げせっせと勉強していた。余程の集中力なのか僕が近づいてもピクリともしない。


綺麗な長い髪を下ろし横顔だけでもすごい美人だと分かる。



その『見覚えのある後ろ姿』に近づきながら僕はここ最近僕の定位置となった席に行く。


そしてその定位置に辿り着き荷物を机に置くと『向かいの席』の女子生徒はやっと顔を上げた。



「おつかれ」


「ん」


淡々と、いつもと変わらない様子で彼女はそう返した。

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