㊸クラスメイト
予鈴が鳴り詠子と別れて教室に向かう。
行事の直後、しかも月曜なのにいつも通り廊下まで話し声が響いている。
ドキドキと心臓が高鳴った。
もう1年1組のクラスプレートは見えている。あと数歩で教室へ着く。
とりあえず、目立たないようにそっと入ろう。
そう思っていたが
「おっ」
ちょうどロッカーの上に荷物を置いているクラスメイトと目が合った。
思わず顔が引き攣る。
「はよーっ。大丈夫か?」
特に毒気もなくいつも通りの様子に呆気にとられつつ
「...あ、ああ大丈夫」
「みんな心配してたぞ。特に村瀬」
「村瀬が?」
「体調悪かったのに無理に押し付けたーって。午前中から調子悪そうだったって黒木が話してて...」
どうやら直樹が知らず知らずのうちにクラスメイトにフォローしてくれてたらしい。
嬉しさで少し泣きたくなった。
そのクラスメイトと別れ、そっと教室に入る。
既にほとんどのクラスメイトが登校して来ていて直樹の姿も見つけた。
その傍に行こうとすると
「あー!押川くん大丈夫?」
とやけに大声でクラスメイトの女子が声を上げクラスメイトたちの視線が一斉にこちらに向く。じわりと冷や汗をかき、背筋がゾクッと震えた。
「だ、大丈夫。迷惑かけてごめん」
その女子だけじゃない。他のクラスメイトたちに向けるようにそう言って頭を下げた。
怖くてギュッと目を閉じていると
「いいっていいって!どうせ勝ち負けとかあのときもう決まってたし気にすることないよ」
「そうそう!むしろ体調悪いのに押し付けた俺たちにも責任あるっつーか」
「気にすんなよ。もう平気か?」
所々から思ってもいなかった声かけが届く。
もっと責められるんだと思ってた。「何やってんだよ」って非難の視線を向けられるものだとばかり思ってた。
本当に泣きそうになりつつ、声を震わせながら「ありがとう」とだけ言えた。
「あっそーだ!これ食べて元気だしてよ」
とクラスメイトの女子が開封されていない長方形の箱を渡してきた。イチゴ味の1口サイズのチョコが沢山入った有名なチョコ菓子だ。
「あっじゃー私も!」と他の女子も便乗して持ってきていたらしいチョコ菓子を次々に机に置いて来る。
それが収まると直樹が傍に来ていて
「少し早いバレンタインだな」と冗談めいて言って笑った。金曜日の夜に電話をかけたときの心配そうな、少し怒ったような声はいつも通りに戻っている。
「早く片付けないと先生来るぞ」
そうだった。一応校則では菓子類の持ち込みは禁止なのだ。黙認されているけど。
片付けが終わってから少し経ったタイミングで担任が来た。
空気はいつも通り。誰も僕を責めてはいないようだった。
連絡事項を聞きながらそっと横にかけた鞄に目をやる。正確には、その中に入れたお菓子たちに。
変な気分だ。
中学までは失敗したら非難されるのが当たり前だったから。
1度出来るやつと思われれば必ず成功しなければならなかったから。




