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努力する彼女と努力をやめた僕  作者: 成浅 シナ
1年生編
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40/87

㊱何者

昨夜星の見える空に「雨ふれー」と念じてみたが翌日は清々しい程の快晴だった。

ポカポカと太陽の光が体を包み、風もほとんど吹いていない。


赤、黄色、青と学年によって色の違うジャージに身を包んだ集団に混ざって僕は直樹とグラウンドに向かっていた。



今日は1日かけてのマラソン大会。

午前中に全学年男女それぞれの持久走。午後は各クラス選抜でタイムが競われる。


これからグラウンドで開会式、その後スタート位置の校門前に移動して体育の授業で毎回走った学校周りの田んぼ道を走ることになっている。




「おっ」



まだ全員集まりきっておらず、久しぶりの学校行事にガヤガヤと賑わうグラウンドで欠伸を噛み殺しているとそんな声が聞こえた。



「よっすー」


同じ青色のジャージを着たそいつはいつも通りの軽いノリで手を挙げている。


「はよーす」


「んだよー、相変わらずノリわりぃなー」


満晴(みちはる)は朝からテンション高いな」


「え?そぉかぁ?だって授業ねぇし、勝負事って燃える」


グッと力強く拳を握って楽しみで堪らないという様子の満晴になぜか僕も頬が緩む。


「クラス選抜走るのか?」


そう聞くと満晴はニッと笑い


「おうよ!華麗にゴールテープ切ってやっから」


「1組には負けねー」と満晴は続けるがそれは問題ないだろう。

普通科の中でもとりわけ勉強が出来る奴らが集められている我が1組はほとんどが帰宅部か文化部で運動を得意とする奴は少数派。

一方、2組は女子を含め運動部の割合が高い。

初めから持っているものが違いすぎる?



「満晴ー」


だんだんと人が集まってきた中満晴と話していると不意にクリアなソプラノボイスが満晴を呼んだ。


「ん?」


満晴の側に近づいてようやく僕に気がついたらしいその子は僕の顔を見て首を傾げた。


大方「誰だ?」と思っているのだろう。

僕だってこの女子生徒には見覚えがない。



同じ青のジャージから彼女も同学年。

顔は美人というより可愛い寄り。

ポニーテールにした髪は校則で禁止されているから染めてはないんだろうが明るい髪色をしていた。

見た目からしてクラスの中心にいそうな子だ。



満晴はその女子生徒に相変わらずの爽やかな笑みを向け


「おう、明空(あすく)、手伝い終わったか?」


「うん。ほんとなんで陸上部だけ駆り出されるかなー」


陸上部という嫌な言葉に心臓が跳ねた。



僕を気にせず2人は会話を続ける。


「陸上部冥利に尽きるだろ」


「いやそんなんいいから。だいたい陸上部だからって機材全部把握してると思ったら大間違いだって。マジつかれたー」


「マッサージでもしろってか?」


ニヤニヤと冗談めいて満晴がそう言うと


「んや。なんかよからぬところまで触られそうだし遠慮しとく」


「ちょっ、それひどくね!?」


ケラケラと2人が笑う。

完全に僕だけ場違いだった。


邪魔しちゃ悪いし離れるべきか...


「んで」


そう思い左足を後ろにそっと引いたところで明空(あすく)と呼ばれていた女子生徒がこちらを向いた。

足を下げたまま不必要に体が強ばる。


「満晴って押川くんと友達だったの?」


ただ疑問に思ったからそう聞いてみたって様子で明空さんはそう聞いた。

僕の名前をまさか知られているなんて露にも思っていなかったので驚く。


「ああ。音楽で同じ班なんだよ」


満晴がそう答えると「ふぅん」と自分で聞いておいて興味無さそうに明空さんはそう漏らし顔をじっと覗いてくる。


まじまじと顔を見られる事が落ち着かなくてつい視線を逸らした。


「押川くん選抜出るの?」


「出ないけど」


「えー、意外」


その言い方にドキリとした。

頭の奥で警報音がガンガンに鳴り響く。




猛烈に嫌な予感がした。




しかもこの予感は当たっていたらしい。



「『中学の時すっごい早かったのに』。」


頬が引き攣るのをどうにか我慢した。


バクバクと鳴る鼓動を感じながら記憶を辿る。


少なくとも同じ中学ではない。

それ以外で中学のときの僕を知っている人は...


ダメだ。容疑者が多すぎる。


中学まではかなり目立つ方だったし。




そういえばさっき満晴が言っていた。明空さんはは現在『陸上部』であると。


だとしたら中学の時も陸上部に入っていて、どこかの大会であったとしてもおかしくはない。


残念ながらまだ目の前の彼女が誰なのか思い出せないけど、中学の時の僕を知っているならここでその話をされても不思議じゃ―――



「さっさと並ぼー」


そんな僕の心配を他所に、明空さんは僕から視線を外して満晴に視線を戻した。


既にグラウンドは人が溢れ各自クラスごとに列を作り始めている。




「じゃあまた話そーね」


手を振りながらそう言い、明空さんは満晴と共に歩いて行った。


数秒放心し、慌てて僕も自分のクラスの列に並ぶ。


前後の出席番号のクラスメイトに挟まれたところでようやく鼓動が通常通り打ち出す。



びっくりした。



同じ中学からあまりこの学校に進む人がいなかったし入学してから半年以上中学の知り合いが話しかけて来ることなんてなかったから。



パンッと開会を告げる号砲花火が鳴り前方に設置された本部テントの中から放送部の生徒が開会を告げる。


ここからは校長、来賓の挨拶、体育教師の注意事項と退屈な時間だ。


他の生徒もそれは同じで欠伸をしていたり、近くの人とコソコソ話していたりと様々。だが、ただ走って疲れるだけの行事なのにここにいるほとんどはいつもよりテンションが上がっているようだった。



明空(あすく)...明空。



校長先生のありがたーい話を聞き流しながら記憶を探る。


だが結局思い出すことは出来なかった。



そもそも女子との関わりなんてほとんどしていなかった。中学の時はきちんと『自分』を演じることで精一杯だったし。




強面の体育教師の注意事項が終わると女子が固まって動き出す。


女子からのスタートだから男子はその間応援か各自準備運動やアップを行うことになっている。



「透ー」


近くに来た直樹と共にグラウンドの隅で体を伸ばす。明空と呼ばれる女子生徒のことはいつの間にか頭から抜けて行った。


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