㉟妬み
その日の夜。
夕飯を作る気にも慣れず冷食で済ませ、風呂に入った後自室のベッドに倒れ込んだ。
シーリングライトの明るさを遮るように腕を目に当てる。
放課後、詠子と久しぶりに会えて、話せて嬉しかった。それは確かなんだが。
相変わらず、詠子と付き合っているという噂や謎の美少女の正体に関する噂はチラホラされているようだった。
図書室で2人向かい合っていたら誰だってそういう風に考える。
でも噂は所詮噂だし、遠巻きに見ているだけで危害を加える気はなさそうだからと放っている。
大事なのは当事者がどう思うか、で他人から勝手に貼ったレッテルじゃないと思うから。
でも、世の中そういう風に思う人は意外と少なくて見たまま感じたままで好き勝手噂して他人を貶めようとする人がいて、そういう人は基本真正面からやり合っても、気にしても仕方ない。
無意識にため息が漏れゴロンと横に倒れる。
それはそうと今胸の内で燻っているのはまた別のことだ。
別に詠子に対し、嫌な気持ちになった訳じゃない。
みっともない、ただの、嫉妬。
何もかもを捧げて、努力して、けっきょく何も掴み取れなかった僕。
努力を確実に結果に変えて、勉強でも、運動でも、確実に掴み取る詠子。
みんな平等に、と偉い大人は言うけど『誰もが平等な世界』なんてありえない。
どれだけ努力したって同じように努力した奴と並べば最後は才能が優劣を決める。
最後の最後までやり遂げられるプレッシャーに強い奴が認められる。
羨ましい、羨ましい、羨ましい、羨ましい―――
その才能が僕にあれば。きっと全てが上手くいったのだろうか。
大事な場面で敵に打ち勝ち、有名高校にも行けて...母に失望されて、嫌われることすらなかったのかもしれない。
成功する人達はどうやって成功したのだろう。
いいな...夢を叶えて、認められて。
詠子も祈も。目標はそれぞれ違えどちゃんと自分の努力を確実に結果に変えている。『才能ある側』にいる。
ああ―――
「やっぱ...」
言いかけて口を噤んだ。
体を起こしズキズキと痛むこめかみに手を当てる。
嫌な奴だな、僕って。
自分は努力することすら諦めたのにそれを棚に上げて人を妬むなんて。
それにどんなに2人が努力してるかなんて間近で見てきたじゃないか。
「やめよう...」
服を脱いでジャージに着替える。
走って汗をかいて、嫌な気持ちごと流そう。
この焦燥も、不安も、膿んだ傷も。
何も考えられないくらい走って、走って、走って、走って。
その後はいつもの僕に戻るから。
人に感化されず、嫌な視線も、声も、気持ちも、全てシャットアウトして素知らぬ顔で淡々と日々をやり過ごす僕に。




