22.5 自己犠牲
永田詠子目線 (2回目)です。
「ねぇ」
昼休みが終わり昼休みと5限の間の掃除時間。教室のゴミを箒で掃いていると突然そんな声に呼び止められた。
回れ右をすると濡れた雑巾を片手に同じ5組のクラスメイト女子が3人固まっている。
...漫画とかで見たことがある。
箒で殴られたり、雑巾を顔に押し付けられる主人公のいじめシーン。
こんな風に数人で寄って集ってーー
「な、なに?」
体を強ばらせながらそう返す。
今背を向けている方は掃除のために教室の前半分に運んだ机と椅子が障害物になっていて逃げられない。逃げるとしたら教室後ろになるが...その方向では件の3人がいる。
もし、彼女たちが事に及ぼうとしたら窓の方に逃げよう、そしてその先の職員室に向かって助けを呼ぼう。
そう瞬時に状況把握と対策を考える。
「聞きたい事があるんだけど」
真ん中のクラスでも中心的な女子がそう口を開き1歩私に詰め寄ってきた。
ガツンと背に椅子が当たり音を立てる。
いつの間にか他2人も私を取り囲むようにして立っている。
ニゲラレナイ!
せっかく対策も考えたのに!!
絶望して、これからされるであろう事にギュッと目を瞑った。
そして目の前の女子 (確か佐々木さん)が口を開く。
「永田さんって、1組の押川くんと付き合ってるの!?」
目を開いた。
目の前には佐々木さん達の卑下た表情...ではなく興味津々というようなキラキラした瞳がある。
ちょっと、待って。
今、なんて?
「...どういうこと?」
私が透と?一体どんな解釈をしたらそんな勘違いになる。
「またまた〜。照れなくていいよ」と左端の女子が肩に馴れ馴れしく手を置いてきた。
「いつも一緒にいるんでしょ?何人も見た!って!!」
『いつも』って...私と透は『たまに』図書室で勉強しているだけだ。そこに友情以外の感情はない。憶測で物事を語るな。
「...違うよ。私と透は...」
友人だ、と言葉を続けようとしたが
「やだ!呼び捨てなんだ〜!めちゃくちゃラブラブじゃん!永田さんそういうの興味ないと思ってたのにー」
「ねー」と今度は右側の人が2人に同意を求めた。
今の話は掃除時間でいつもより静かな教室内に筒抜けで、近くにいた他のクラスメイト達がザワっとなった。
「ねぇねぇ、どっちから告白したの?」
告白も何も私たちは恋人じゃない!!
そう言おうとした。でも、それは喉がヒュルヒュル鳴るだけで言葉にならない。
普段は話さない3人の圧が、真っ直ぐ見詰めてくる目に完全に私は萎縮していた。
ここで彼女たちを怒らせてしまったら?、変なことを言って広まって透に、唯一の心許せる友人に迷惑がかかってしまったら?
そんな可能性がいくつも頭の中で交差する。
透が私を好きだとか、付き合ってるとか、そんな勘違いをここで広める訳にはいかない。
私なんかが、友達だと言ってくれた透に迷惑をかけてはいけない。
だったら、言うべきことはーー
「...私。付き合っていないけど」
「ヒャー!」と周囲が湧いた。
私が勝手に告白して、振られたって事にしたらきっと大丈夫だ。
幸い、私は学校で浮いていてそんな私を振るというのは自然な流れだ。透へも多少の迷惑はかかるかもしれないが、大きな迷惑がかかるよりマシなはず。
「え、じゃあじゃあまだ諦めてないって感じ?」
「まあ」
適当にそう返した。
「えー、永田さんかわいそーに」
可哀想?どこが?
私は十分幸せ者だ。
「ねぇねぇ!あたし達でよかったらさ!いつでも協力するから言ってね!」
どうして友達の話を関係ない人に話さなければならないんだ。
彼女たちも別に悪意がないことは分かっている。
でも、余計なお世話だ。
確かにクラス内で話す人がいたらいいなとは思ったが、こんな風に近づかれる関係は望んでいない。
「あ...ありがと」
でも私はそう言った。
こんな安い言葉でこの場が収まるのならそれでいいやと思って。
※
授業中、彼女たちの会話を思い出し、透と自分が付き合っている所を想像してみた。
一緒に勉強したり、下校したり、休日に遊んだり、...手を繋いだり......
ありもしない友人との未来。
何だか妙に胸がザワザワした。




