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第6話 六英雄

 翌日。学園の正面玄関に張り出されたクラス表を確認したアステルは、階段を上り、1年Aクラスの教室へと足を踏み入れる。

 Aクラス。アルベルス学園の新入生に対して行われる「組分け試験」で最高成績を収めた生徒が所属するクラスであり、アステルが所属することになった組織だ。

 

 室内を横切り、割り当てられた席に座る。

 アステルの席は窓際の一番後ろ、という中々いい場所であった。

 座ったまま目だけを動かし、教室内を見渡す。


 漆黒のローブに身を包んだ少女。全身に包帯を巻いた少年。

 道化師を模した仮面をつけた者――艶やかな長い黒髪と体格からして少女。

 王国最高峰の学園ということもあり、誰も彼も曲者ぞろい。一筋縄ではいかないようなクラスメイトばかりであった。


 ほどなくして、教師と思わしき男性が教室の中に入ってくる。

 男性は教壇に立つと、声を張り上げた。


 「Aクラスにようこそ。少年少女どもよ。そしておめでとう。一年に一度の学期末試験でヘマしなければ、お前らの地位は安泰だ。・・・・・・前途多望だなぁ、もっと絶望しろよ」

 「いまアンタ、凄いこと言ったよな!?」


 露骨に嫌そうな顔をする男性に、生徒の一人が叫ぶ。

 男性はこれ見よがしに肩をすくませ、ため息をつく。


 「自己紹介がまだだったな、ディーノ・リノバー。お前たちの担任だ。どこにでもいるような、ごく普通のおじさんだよ」


 岩を削ったような精悍な顔立ち。黒色の髪はボサボサ。

 顎には無精髭が砂鉄のように生え、口から酒の臭いを漂わせている。

 一見して酒場で飲んだくれていそうな、うさん臭さが服を着たような男である。

 よく見ると右手には酒瓶が握られている。


 「ディーノ・リノバー・・・・・・あの【跳躍者】!? 魔族戦争の英雄じゃないか!」

 「転移魔法の使い手・・・・・・初めて見た」


 思いがけない人物の登場に、クラスがざわめく。


 ディーノ・リノバー。王国最強の魔法使いにして、魔族戦争の立役者「六英雄」のひとりだ。

 【跳躍者】【神出鬼没の破壊神】といった数々の異名を持つ英雄。


 アステルは、その名前に聞き覚えがあった。師匠と話す際、仲の良かった友人として、よくよく話題に上がっていたからだ。曰く「戦友」とのこと。


 魔族戦争。15年前に世界各地で出没した魔族と人類が対決した戦争のことだ。

 当時はまだ生まれていなかったので詳しくは知らないが、教科書によると戦争は苛烈を極めたようで世界中で何万人もの犠牲者が出たと言い伝えられている。

 戦争が終結した後、世界を旅していると師匠から聞いていたが、まさかこの学園で教師をしていたとは。


 「あー、悪いが転移魔法を覚えたのって、戦争地まで歩くのが面倒だっただけだぞ」

 

 ディーノはそう言うと、右手に持っていた酒瓶を傾け、ぐいぐいと音を立てて飲む。

 その姿を見た男子生徒のひとりが愕然とする。


 「嘘だ、この酔っ払いが英雄だなんてありえない。この小汚いおっさんは自分のことをリノバー様だと思い込んでいる浮浪者に違いない」


 男子生徒に言葉に、アステルは同意せざるを得なかった。

 師匠と同じ六英雄の一人で、王国最強の魔法使いと呼ばれるほどの人物なのだ。そんな男が、髭面の飲んだくれとは詐欺もいいところである。

 自分好みの駄目そうな人間ではあるが、それとこれとは話が別だ。


 「じゃあ早速だが、これから薬草類の調合実習を始めんぞ。悪いけど、おじさんは実践派なんでね」


 ディーノがそう言うと、クラスメイト達が戸惑う。


 「すみません、先生。教室の中で実習をするんですか?」

 「教室? ははは、周りをよく見てみろよ、坊主」


 瞬間。視界が切り替わり、教室にいたはずの自分たちは、いつの間にか別の部屋に移動していた。

 突然のことに驚き、アステルは身構える。いま何をされた?


 「移動もメンドイし教室にいた人間を全員、移動させておいた・・・・・・イテテ、もう若くないのに詠唱破棄なんてするもんじゃねぇや」

 「先生、ここはいったい?」


 アステルはそう言って周囲を一望する。一風変わった部屋であった。

 窓はなく、明かりは燭台に灯ったロウソクのみ。おそらくは地下なのだろう、若干だが肌寒い。

 中央には長い机が3つ置かれている。部屋の隅にある棚の中には、ビーカーやフラスコがぎっしりと陳列されており、容器には薬品と思わしき液体が注がれていた。


 「実験室だよ。保健室にある薬とかもここで作られている」


 アステルの疑問に、ディーノが答える。


 「この流れからして、先生が調合を教えてくれるんですか? というより、先生の担当科目ってなんですか?」

 「英雄に不可能はない。だから俺は全科目をお前らに教えることが出来たりするんだなコレが。・・・・・・安心しろよ嬢ちゃん。おじさんこう見えて頭がいいからさ」

 「なるほど、その風貌に自覚はあったんですね」


 なんて世話のし甲斐がある人なのだろうか。アステルの口元が僅かに緩む。

 ディーノは手を叩くと、実験室を見渡す。


 「そういうわけだ。じゃあ隣の奴とペアを組んでくれ」


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