↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

第5話 採点結果

 夜の7時。アルベルス学園にある大会議室では、教師たちが試験結果を採点していた。

 中央に配置された長机には、実技試験と筆記試験の結果をまとめた紙が置かれている。


 「ではマイク・リースターはEクラスに配属、ということでよろしいな?」

 

 室内の教師たちに、パーシバルはそう尋ねた。

 パーシバル・フォン・オールブライト。27歳という若さでアルベルス学園の学園長の地位に就く、やり手の男性だ。短めの黒髪。眼鏡をかけており、切れ長の目はどこか神経質そうな印象を周囲に与えている。

 教師たちが頷いたのを確認してから、パーシバルは羊皮紙を一枚めくる。


 「では次――アステル・リリィ・ブラック」


 パーシバルがその名を口にした途端、大会議室が静まり返る。


 「例の治癒魔法の・・・・・・」

 「Aクラスで問題ないでしょう」


 長机に座る教師たちが、そう言いだす。パーシバルは彼らの言葉に頷いた。


 「良くも悪くも、彼女はアルベルス学園の歴史を変えることになるかもしれんな」

 「学園長? さすがにそれは買いかぶり過ぎでは?」


 長髪の男性教師、ロイが怪訝な顔でそう言ってくる。


 「実技試験で囮人形(デコイゴーレム)を破壊したと聞いた時は驚きましたが、でもそれだけですよ。筆記試験の順位も200人中37位。治癒魔法に特化した、ごく普通の優秀な女子生徒ではありませんか」


 何かおかしな点でも、とロイが口にする。

 もしかすると気づいていないのか。パーシバルは内心のいら立ちを抑えながら、口を開く。


 「本当にそう思うのか? だとしたら来月の給与査定、楽しみにしておくことだ」


 身を乗り出そうとするロイを手で制し、パーシバルは10枚の羊皮紙をひらひらと見せつける。


 「ここに彼女の答案用紙がある。今日行われた筆記試験のやつだ」

 「それで? たとえば、算術の点数はいくつだったんですか?」


 ロイはだらしなく頬杖を突きながら、パーシバルに質問する。


 「70点だな」


 パーシバルはそっけなく告げる。


 「錬金術の点数は?」

 「70点だな」

 「・・・・・・薬学は?」

 「70点だな」


 一連のやり取りが面倒になったパーシバルは、ロイに羊皮紙を手渡す。


 「ふむ、70点が並んでおりますな・・・・・・でも気にするようなことですか?」


 羊皮紙をぱらぱらとめくっていたロイが、苦笑する。


 「彼女の点数は全てが70点だった」


 パーシバルはそう言ってから、小さくため息をつく。

 筆記試験は10教科あり、アステル・リリィ・ブラックは全科目で70点を取ったのだ。

 たしかに合計点【だけ】を見るなら、8割にも満たない。

 優秀ではあるが、特筆すべきところはない――普通の教師であればそう考えるだろう。


 「学園長。アナタ、さっきから何が言いたいんですか?」

 

 回りくどい言い方に業を煮やしたロイが、パーシバルを睨み付ける。

 冷ややかな目で、パーシバルは会議に参加している教師たちを見渡す。


 「ハッキリ言おう、アステル・リリィ・ブラックは本当なら100点を取れるだけの学力を秘めていると」


 学園長の言葉に、大会議室がざわめく。


 「そんな馬鹿な! 王国勤めの学者でもなければ満点など取れるわけがない!」

 「ただの偶然です。まったく学園長は気にしすぎですよ。そんなだからハゲ・・・・・・ゴホン! 体調を崩されやすいのです」


 教師たちが口々に言いだすが、パーシバルは彼らの考えを否定する。


 「暗記科目の錬金術や魔物解剖学ならば、狙った点数を取ることも可能だろう。だが彼女は記述式の算術、測量術でも70点を取っているんだぞ。出題者の意図、配点、部分点のつけ方。これらすべてを完璧に把握していないとこんな芸当は不可能だ」


 パーシバルがそう言い切ると、大会議室が再び静寂に包まれる。

 しかし――


 「優秀なら、それでいいではありませんか」


 ひとりの男性教師がポツリと呟いた。彼の隣に座っていた教師もその言葉に同意する。


 「そうだそうだ! 2年Fクラスのアレに比べればどうってことはない」

 「いやー、将来が楽しみですね」


 パーシバルは彼らから目をそらし、外の景色を眺める。

 視界の端では、教師たちがアステルのことについて、嬉しそうに話していた。


 高い学力。世にも珍しい治癒魔法の使い手。礼儀正しい態度。

 能力だけ見るなら、模範的なアルベルス学園の生徒である。


 教師陣の中には彼女のことを、メイド服の天使と呼ぶ者もいる。

 たしかに男として、あの可憐な姿に心惹かれないかと問われれば、首を縦に振らざるを得ない。小柄な身体には不釣り合いな、メイド服を押し上げる豊かな胸。

 スカート丈から見えるほっそりとした太もも――


 そこでパーシバルは渋面を作り、かぶりを振った。

 学園長である自身が、生徒をそういう目で見るなどあってはならないことだ。


 背もたれに寄りかかりながら、パーシバルは思考する。

 賢いだけなら力で押さえつけよう。腕が立つだけなら、策を弄して丸め込んでしまえばいい。


 だがしかし、知恵のある強者であれば?


 単純に恐ろしかった。得体のしれない魔物が、自分の近くにいるかもしれない事実が。


 なぜ能力を隠す? 

 誰かに指示されたのか?

 70点という点数になんらかの意図が隠されている?


 脳裏に浮かぶ疑惑を振り払う。話したこともない生徒を疑ってどうする。

 現時点では、アステル・リリィ・ブラックは模範的な生徒ではないか。


 メイド服で登校してきた時は、いったい何の冗談かと思ったが、

 それでも在校生の問題児たちに比べれば、服装が変わっているなど些末なことである。


 3年Aクラス――【剣聖】

 2年Aクラス――【戦乙女(ヴァルキュリア)

 2年Fクラス――【何でも屋】


 どうして我が校には毎年1人以上は、問題児が入学してくるのだろうか。

 胃が痛み。頭髪が抜け落ちていく感覚に陥り、パーシバルは大きなため息をついた。


 ――アステル・リリィ・ブラック、君は何を考えている?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。