私のパートナー
先週は体調が優れず、休載してしまいました。
申し訳ありません。
到着地点から街道に沿って歩くこと数分。
門のようなのもが見えてきた。
騎士のような服装をしている者も見えた。
小説ならば、ここで身分証明書を提出しなければならない。
しかし、大概の主人公たちは少しのお金を払い、街に入ってすぐにギルドへと行き、身分証明書としてギルドカードを作る。
「ねぇ、門の前で身分証明書の確認とかはないの?」
「もちろんありますよ。貴方の分は、私が作っておきました。ウルティア帝国の刻印付きの個人カードです。この個人カードは神に近しい者や、王族、筆頭公爵に発行されます。貴方の場合は、神に近しい神官として登録してあります。あぁ、街に入ってからはギルドに登録しに行くのをお勧めしますよ。刻印付きは狙われますからね」
クリードはこういう説明をするとき、少し目を輝かせる。
きっと、役目を果たせることが嬉しいのではないだろうか。
私はあまり質問をしないから…
「身分証の提示をお願いします」
少しめんどくさそうにしながら、身分証明書を受け取り、定型文であろう言葉を述べた。
その後、私のことを認識すると、顔を顰め、凝視してきた。
きっと服装のことだろう。
夜蝶のドレスのままはさすがに目立つようだ。
もちろん、胸元を大きく広げた白のマーメイドドレスは珍しいどころか、この世界には存在しないだろう。
そして、夕暮れ時ということもあり、ドレスの裾にあるラメ加工がキラキラと輝き、華やかさが増している。
クリードも忘れていたのか、私の方を見て、やってしまったというような顔をした。
めんどくさそうにしていた騎士は、身分証を見ると驚愕した。
「も、申し訳ありません!どうぞお通りください!」
瞬時にして汗を浮かべた騎士は、クリードにカードを返し、道を開けた。
「ああいう風になってしまうので、家と奴隷を買ったらすぐにギルドと仕立て屋へと行きましょうか」
「家はいりません。自由に冒険者をするつもりだから。できれば、家の代わりに数か月分の宿代と生活費が欲しい。服は少し作って欲しいもののだけど、時間がかかると思うから後回しでいいわ」
私がお願いをすると、クリードは満面の笑みを浮かべた。
「わかりました。奴隷を買ってからギルドへ行き、登録をして良さげな宿の情報を聞いてから、宿をとりに行きましょう。その後、時間があれば、仕立て屋へと行きましょうか。私としましては、仕立て屋は明日でも構いませんから」
「ありがとう。あと、奴隷は私が見て決めたいの」
「もちろん、貴方に選んでいただくつもりですよ」
屋台が立ち並ぶ賑やかな大通りを進んでいると、たくさんの視線に晒された。
きっと、私の服装が珍しいのもあるだろうが、女性陣の大半は隣を歩くクリードを見ているのだろう。
男性陣の視線は私が独り占めしているが。
15分ほど歩くと、人通りが少なくなってきた。
また、身なりのいい人の割合が増えたようにも感じられる。
「もうすぐ、奴隷市場ですからね。貴族や豪商が多くなるのですよ。私たちは、市場ではなく大見世にに行くので、あまり人の目を気にすることはありませんよ」
クリードは私の疑問に思っていることが分かるのだろうか。
しかし、大見世とはよく言ったものだ。
まるで、花街のようだ。
違うのは、己を売るか、仮初の愛を売るかだが。
少し奥の方に拓けた場所があるようだ。
大勢の人が集まっている。
「あそこは?」
「あぁ、檻売りですね。大見世とは違い、口減らしのために売られた者や、小さな村で罪を犯した者が売られているのです。大見世では、帝国が定めている法の下、奴隷落ちした者しか扱っていません」
つまりはブランドの問題というわけね。
クリードは私の考えていることが分かったのか、苦笑しながら、そうですねと呟いた。
「ここです。すでに予約はしてありますので、すぐに能力のある奴隷を連れてくると思いますよ」
内装は、まるで宮殿のようだった。
床は大理石だろうか?
私が働いていたクラブの床よりもピカピカだ。
「御初にお目にかかります、エルサレム様、イチミヤ様。ワタクシ、この見世の主人のヴォードと申します。今宵は、腕が立ち、礼儀を弁えているモノをお探しということでしたので、こちらでこの三匹を選出いたしました」
選出されたのはすべて、小説でいうところの獣人に近い者たちだった。
一人は光を鈍く反射する鱗を持ち、一人は狼のような尻尾と耳を持ち、もう一人は鷹のような鋭い爪と翼を持っている。
どこからどう見ても、人外という存在だろう。
オーナーであるこの男が、人とは数えず、匹と数えていたことから、この者たちは迫害されているのだろう。
鱗を持つ男は爬虫類のような目で私を凝視している。
普通の人からすれば、違和感のない視線なのだろうが、夜蝶して様々な視線を受けてきた私からすれば、この男の視線は敵対心以外の何物でもない。
クリードも気が付いているようだ。
「三人とも私には合わないわ。他にも見せて欲しい」
「え?!わ、わかりました…。少々お待ちください。すぐに他の使えるモノを持って参りますので」
このオーナーの言葉遣いには一々引っかかるものがある。
使えるモノを持ってくるということは、オーナーは奴隷たちを生き物として扱っていない。
オーナーがそういう態度ならば私にも考えくらいある。
クリードは私の考えを察したのか、楽しそうな笑みを浮かべ、私がどんな風に出るのか、瞳を輝かせて私を見ている。
「面倒だから、いっぺんに見るわ。奴隷たちがいる場所へ案内して頂戴」
「で、ですが……」
「構わないですよね?彼女が見たいと言っているのですから」
クリードは私の優位性を主張するようだ。
実際、この世界に来て数時間の私だが、身分は十二分なものを持っているし、隣にはアイーダがいる。
クリードの言っていることが正しければ、アイーダの称号を持つ人間はこの世界に一人しかいないということになる。
そんな人間に対して、オーナーが異を唱えるなんてことは不可能だろう。
「わ、分かりました。イチミヤ様、こちらでございます」
ーガチャッ…ギィー
案内された扉の向こう側は薄暗く、本当に人がいるのか疑うほどに静かだ。
しかし、光っている点が多くあることから、人というよりは獣人たちはいるという確信が持てた。
「ここにいますのは、戦闘奴隷ですが、すべて戦争が原因で奴隷落ちしたモノばかりでございます。今、明かりを灯しますね」
オーナーが明かりを灯した。
すると、私が思っていた以上の人数が檻に詰め込まれていた。
てっきり私は個人房なのかと思っていたが、一つの檻に無理やり詰め込まれているのが現状だった。
彼らは私に興味深々のようだ。
檻の近くに行き、中の彼らを一人ずつ眺めていくと、壁にもたれながら寝ている黒猫を見つけた。
黒猫を見た瞬間、体に電流が走ったような気がした。
ー彼だ。彼しかいない。
「あの、黒い猫は?」
「あぁ…アレですか…。アレは気性が荒く、此方の命令に逆らおうとする欠陥品ですのでお勧めできませんよ」
欠陥品?彼が?
冗談じゃない。彼は強い。さっき選出された三人よりも、この部屋にいる誰よりも彼は強い。
ふと、周りを見渡すとクリードがいない。
さっきの部屋で待っていてくれているのだろう。私の気が散らないように配慮してくれたようだ。
「さっきの三人はこの見世で一番強いの?」
「えぇ!蜥蜴科のアレはこの見世で最も強いのですよ!」
それが本当ならば、オーナーの目は節穴だ。
決めた、彼にする。
声は己の欲望のまま自由にと言っていたのだから、迷う必要はない。
「あの黒い猫と契約するわ」
「あんなモノで宜しいので?」
「私が欲しいと言ってるのよ?早くして」
「か、かしこまりました!では、持って参りますので部屋でお寛ぎ下さい」
クリードは私が部屋に戻ってくると、私を一瞥し、良かったですと言った。
この街に着いてから1時間半という短い時間しか経っていないが、クリードの優秀さは十分に分かった。
「お持ちいたしました。コレの名は、ニールと言いまして、見た目の通りの獣人族猫科でございます。コレは、6年前の戦争で戦闘奴隷落ちになりまして、反抗的なものですから、お値段は5万ユニとなります」
「では、銀貨8枚お渡し致しますので、服はこの見世で上等なものでよろしくお願いします。あぁ、あと契約印は任意式のもので」
「畏まりました。ではイチミヤ様、この契約書にサインをお願いいたします。そして、此方の陣の中心に血を一滴お願いいたします」
書類を見ると、日本語の羅列に驚いた。
やはり、ここで思うのは小説のようだということ。
そして、魔法陣の中心に血を垂らすために、机に置かれているナイフで人差し指を傷つけると、ピリッとした痛みが走った。
ここは現実だということを実感させられた。
「では、これで契約は終了となります。30分ほど奴隷との契約確認のため部屋を御貸ししておきます。終了致しましたら、玄関よりお帰り下さい。またのご利用をお待ちしております」
ーパタン
「さてと、ニールだったわね。私はミコ。好きなように読んでもらって構わない。私は奴隷の扱いがさっぱり分からないの。だから、教えて頂戴ね」
ニールは全くと言っていも良いほど表情が無い。
いや、出さないようにしているというのが正しい。
ニールから読み取れることは私への拒絶、いや反抗心。
「お嬢サンは何処のヒトなわけ?肌の白さは貴族みたいだけど、行動が平民に近すぎる。ま、お嬢さんの隣にいる男は上流貴族だってことは分かるけど」
「あなたは六年前の戦争で奴隷落ちしたようですが、どこに所属していたのですか?」
「クリード?ニールは敗戦国の人じゃないの?」
「いえ。普通であれば敗戦国の者なのでしょうが、六年前の戦争で我が国は優秀な暗殺者を一匹失ったのですよ。あの頃の私はまだ学生でしかなかったので詳しいことは分からないままですが、その暗殺者が不幸を呼ぶ猫科だというのを耳にしたことがありまして」
不幸を呼ぶ猫科。
日本と同じなのであれば、黒猫のことだろう。
しかし、黒猫というのは日本では珍しくなかった。
日本と同じで珍しくないのであれば、ここにいるニールが暗殺者だという確率は低いだろう。
「アンタの質問には絶対に答えないぜ?俺は忠誠を誓った者の言うことしか聞かねぇ。あ、お嬢さんの命令には嫌々従うけどな」
「それは、契約印があるからね?なら、今日やることが終わったら契約印を消してあげるわ」
「ミコ様!……私は貴女の希望はできる限り叶えて差し上げる義務がありますが、奴隷の契約印を消すのは黙認出来かねます」
「クリード、貴方が止める理由はなんとなく分かっているわ。貴方は私が死ぬ可能性のあることを黙認できないと言っているのでしょう?……少し意地悪を言ってみただけよ。実際は私が冒険者として強くなったら消すことにするつもりだったのよ」
「んだよ、明日には自由になれるかと思ったのによ」
「ごめんなさいね。クリード、冒険者登録は明日でも構わないかしら?」
「…・・・えぇ。問題はありません。宿は予約済みですから、行きましょうか」




