白いエナメルの靴
僕が高校生の頃、と言っても高校生らしかった
事なんてただの一度もなかったけど。
トルエンで脳ミソがトロトロのヤス君に
寺田さんを紹介された。
ヤス君は暴走族で変な薬の売人で
本物のアホだった。
そんなヤス君がヘマをやらかして、
怖い人達が血眼になってヤス君を
探していた頃、
僕はヤス君と一緒に僕のアパートで
葉っぱをくゆらせていたんだ。
突然、もちろんノックなんてしないで
怖い人が現れた。
部屋のドアが鍵もかけていないのに
蹴り破られて、知らない人が
ほんといきなり土足で
ヅカヅカと入ってきたんだ。
その人は寺田さんの弟分で普段はよく喋る
ケンちゃんという二十歳そこそこの
チンピラだった。
当然その時の僕とケンちゃんには面識も無く
黙ったまま勝手に土足で上がり込んできて
しかも金色の鷲が羽を広げてるスカジャン
なんて着こなしているケンちゃんを見て、
絶対普通の人じゃありえないなって、
そんな風に思ったんだ。
ケンちゃんは僕には目もくれず、
葉っぱで半分ラリっているヤス君の
顔面をさっき蹴破ったドアかなんかみたいに
白いエナメルの靴の踵で躊躇うこと無く
思い切り蹴り上げたんだ。
あの時のヤス君は全くふやけた状態だったから、
踵がめり込んだ口から、変な声?
音が漏れ出してた。
なんて言うのか『アハガァハァー』
って言いながら息を吸うみたいな…
うまく言えないや。
ついで口にめり込んだ踵が引き抜かれると
今度は沢山の血と前歯がボトボトと溢れ出して
僕の部屋の畳とヤス君のジーパンと
アルミの灰皿をベトベトに汚してくれた。
僕はそれを胡坐をかいたまま、
ただボーっと見てた。
怖いとか怖くないとかではなくて
僕には関係ない、ただテレビを見ているような
やっぱり僕も半分ラリっていたのかな。
なのにケンちゃんはそんな僕の側頭部を蹴るぞ、
みたいなポーズをとったんだ。
僕は身を守らなければって思って、
ケンちゃんの足を掴むと、力任せに
引き倒した。倒したまではよかったんだけど
暴れられているうちに、葉っぱのせいか理性を失い、
気がついた時にはケンちゃんの股間を
死に物狂いで殴り続けてたんだ。
ケンちゃんは仰向けに倒れたまま
口から泡を吹いていて、時折痙攣まで起こしてた。
ヤス君はそんな事には目もくれず、
折れた前歯を泣きながら摘んでは、
吸い殻と血でドロドロになった
赤黒い灰皿に集めてた。
六畳一間の僕の部屋はまるで、
小さな地獄絵図のような形相を呈していて
頬に張り付いた前髪の冷たさを不快に
感じられるくらい冷静になってきた僕は
なんだか色んな事が悪夢みたいだなって
そんな風に悲しい気分になっていたんだ。
だけど悪夢はちゃんと繋がっていて、
何もしていないのに目が覚めたら解決してる
なんて事はありもせず。
僕はケンちゃんの兄貴分である寺田さんの
車にお一人様で招待される事となったんだ。




