9章 不在の証明
9章 不在の証明
家に戻ると、ポストにレターパックが差し込まれていた。
開ける。
中身は、見なくてもわかっていた。
指先に残る新札の硬い感触を無視して、紙切れを探した。
『僕を信じてくれるかい』
そんなメモが出てきた。
——信じる? どう見たってあれは……。
それを机に投げ捨て、バイト先に向かった。
バイト先に着く。
30分ほどの遅刻だった。
くるみ一人で回してくれていた。
スマホを返し、小崎と話せたことを伝えた。
「あいつ、この後、捕まるって言ってた」
ぽつりと言う。
「じゃあ、やっぱり、彼女を……」
「わからない」
本当に何も、わからない。
あいつが言ったことも、メモの内容も。
答えが出ないことにイラついた。
くるみが休憩から戻ると、俺をドアの前に呼びだした。
「これ、見て」
画面の中には、紺色の服を着た女性が歩く姿があった。
見たことのない場所だった。
「……これも」
早足で歩く姿。
カバンを持っている。
帽子をかぶっている。
時間も、場所も、歩き方も、バラバラだった。
くるみの姿を探す。
見つけられない。
「なんだよ、これ……」
「今日の昼に、小崎が動画を出したらしいの。でも生成された偽物だった」
「他のも全部あいつが?」
「違う、1本だけだよ」
「次に、わたしがやったような動画が流れて、あとは……」
画面をスクロールする。
「……こうなってる」
ふざけたものばかりだった。
男が女装したもの、集団で歩くもの。
髪形と服の色が同じだけで、もう誰が誰なのかもわからない。
「……何がしたいんだ」
情報のゴミ溜めの中で、彼女の輪郭が溶けていくのがわかった。
「これなんかさ……ほとんど同じじゃない?」
「……似せてるだけだろ」
そう言いながら、自分でも弱いと思った。
「それってさ……同じなら、……似てるなら」
目が合う。
「消えても、気づかれないってことだよね」
くるみの声が、残る。
——消えても、気づかれない。
——誰も覚えていない。
頭の隅に、あのメールが浮かぶ。
『……彼女の死体を探してくれ』
死体。
気づかれないまま、消えたまま。
言葉にならないまま、胸の奥に落ちる。
次の日の昼前には、小崎はまた容疑者になっていた。
マンションに段ボールを持った捜査員が列を作るニュースが流れていた。
夕方には小崎が作ったフェイク動画の証拠が出てきた。
どこか無関係な遠い世界のことのように思えた。




