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怪物の定義  作者: 空白朔名


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10章 怪物

 10章 怪物


 

 次の日。

 チャイムで起こされる。


「郵便です、レターパックでお届けです」


「受け取りお願いします」


 対面での受け取りだった。

 大きさも重さも、同じだった。

 ただ、いつもの青色の封筒じゃなく、赤色の封筒だった。

 封を破ると、中は同じに見える。

 一枚だけの白い紙を引き出す。


 『僕を怪物にしてくれ』


「いい加減にしてくれ、お前はもう、十分怪物だ」


 思わず口に出していた。


 ——何がしたいんだ。

 ——俺に何をさせたいんだ。


 封筒を床に叩きつけた。

 封筒から、帯の切れた一万円札が滑り出した。安アパートの床を、場違いに埋めていく。

 プラスチックの小さな黒い塊が、その上に転がる。

 拾い上げるとUSBメモリだった。


 俺の部屋にはパソコンはない。

 バイト先で見るのも、何が入っているかわからない以上、危険だ。


 ——くるみ。


 首を振る。

 これ以上巻き込みたくない。

 床の金が目に入る。


 ——ダメだ、これは使えない。


 悩んだあげく、結局くるみに頼むことにした。


 電話をかける。


「くるみ、パソコン貸してくれないか?」


 『どうしたの』


「調べたいものが……いや、あいつからUSBメモリが送られてきた」


 本当のことを伝えた。


 『やだ、貸さない』


 『女の子のパソコンの中見ちゃう気?』


「そういうのじゃなくて……」


 『……一緒に見るならいいよ』


 くるみが続ける。


 『巻き込みたくないとか、思ってない?』


 『今から来られる? 待ってる』


 返事を待たずに通話を切られた。

 USBメモリを握りしめ、部屋を出た。


 くるみのアパート。

 俺の足音を聞いて先にドアを開けた。


「入って」


 機嫌の悪そうな顔。

 その割に、テーブルの上にはカップが2つ。

 コーヒーを淹れる準備がしてある。

 パソコンはもう立ち上がっていた。


「くるみ、……これは俺の問題なんだ」


「私も関係者だよ」


 強い口調。


「……それに、ずっと気持ち悪いし」


 断片しか知らない彼女の気持ちを考えると、そうだと思った。


「……そうか」


 視線を上げると、くるみは少しだけ微笑んでいた。

 肩の重さが少し軽くなった。


 画面の前に並ぶ。

 メモのこと、小崎との電話の内容、高校でのことをすべて話した。

 くるみと目を合わせた後、USBメモリを差し込んだ。

 フォルダーの中には、動画が1つだけあった。

 再生する。


 マンションの駐車場。

 防犯カメラの映像。

 白黒だが、やけにはっきり映っている。

 

 画面の端から、人影が入ってくる。

 ゆっくり、……片足。

 もう一歩。

 その人影がすべて画面に収まった時。

 

 時間が止まる。

 音が消え、呼吸だけが残る。


 大きな袋を担いでいる。

 車のトランクを開ける。

 押し込む。

 カメラの方を向く。

 視線が、合う。

 ……笑った。


 くるみが手で口を塞ぐ。

 視線は外していない。

 俺は机の上で拳を握りしめた。


 動画の残り再生時間がゼロになるが、部屋の時間だけが流れる。

 

 それは、俺には人間には見えなかった。

 『怪物』だった。

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